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zoom RSS 第603回 糖質制限論争−江部医師派 vs 日本糖尿病学会

<<   作成日時 : 2014/02/11 07:24   >>

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パラダイムシフトとプロパガンダ
政治的/社会的に無関心な所謂アパシー層と云われる人、或いは論理的思考やニューメラシーを苦手とする人であっても、なんらかの価値観なしに生きて行くことはできません。このような場合に、特定の指導者、自分の所属する会社、あるいは宗教団体などに同一化し、特定の人物や組織の価値観を、そのまま自分のものとして受け入れるという選択肢があります。ただし、本人は、借り物の価値観ではなく、あくまでも自分自身の価値観であると信じています。身近なところではいわゆる会社人間や糖質制限ダイエット狂信者と称される人たちなどもその例であり、このタイプの人間が圧倒的に多いことを歴史的事実が示しています。

政治家が良く使う『民意』という言葉には美しい響きがありますが、政治学の分野では一般大衆をプロパガンダによって意図的に操作または把握することも包含しています。第1次世界大戦では大量のビラやポスターがばら撒かれ、これらの印刷メディアが大衆心理を動かして、連合国の勝利の一因となりました。第二次世界大戦では、日本はプロパガンダを思想戦/電波戦と称して、声と音で臨場感を与え即時性の高いラジオを重視しました。「ユビキタス社会」と言われる現代社会では、インターネットやTVなどが同様の役割を担っています。

啓蒙とは「民衆や一般人に正しい知識を教えて愚かなことを理解してもらう」ことを意味しますが、実際には啓蒙活動あるいはパラダイムシフトといった大義名分を装い、このようなプロパガンダを用いて加速させる手法が至る所で見受けられます。
「先義後利」の考え方も薄れつつあり、「医療の不確実性」の中での意図的なプロパガンダ手法は好ましいものではないと私は思料しています。ましてや応用生理学のちょっとした知識を持っている人なら、直ぐに見破れるような“海外文献のインチキ解釈”となると何をか言わんやです。
医療の道は正攻法で臨み、有効性と安全性に裏付けられた真の成功(統計学上における普遍性の追求)を成就されんことを期待します。

週刊ポスト vs 週刊現代
『週刊ポスト』は糖質カットを擁護し、『週刊現代』は糖質制限の問題点を指摘していますが、いずれも情報の正確さという点で問題があるように思います。私には『レッドテープ(官僚主義)色を滲ませて石橋を叩いて渡らない日本糖尿病学会』と『イエローカードに構わず試合に勝つことのみを至上とした糖質制限派』の狭い視点での代理戦争のように映ります。

たけしのTVタックル
ポッチャリ型の方が長生きするのか?
それとも瘠せ型か?
栄養疫学研究の第一人者と言われるハーバード大学公衆衛生大学院のWalter Willett教授は肥満パラドックスを否定しており、彼の影響力は大きいものの、然りとてこの問題が決着した訳ではありません。
夏井医師と森田医師がチマチマと言い争ったそうですが、争点の能登論文が行き着くところは総死亡率であり、肥満パラドックスも解決しておらず、而も論拠となる科学的データが揃っていない状況下では、単に雄弁である方が勝って真実が見失われることがあります。

医師の書いたダイエット本
医師の書くダイエット本がまるで教典の如く扱われていますが大きな誤解です。
現代の医療はEBM(Evidence Based Medicine)と呼ばれ、エビデンスに基づいた治療が必要とされているのは御貴承の通りです。エビデンスとは科学的な根拠のことを指し、エビデンスは横並びではなくピラミッド型の階層となっています。
下表が示す通り、「系統的レビューとメタアナリシスによる研究」を頂点として、「専門家の意見」は基礎実験と並んで一番下層に属し、最低限の信頼性しかありません。
因みに、ダイエット本は文献ではありません。

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江部医師のブログ
江部医師のブログ記事を引用して執拗に語る異常なほどの糖質制限熱狂者に接し、その内容について2〜3の記事をチェックしてみました。

等カロリー摂取での糖質制限の減量効果の優位性を示すために、イスラエルの DIRECT研究が頻繁に引用されますが、 『第601回の減量効果における糖質制限ダイエットの優位性??』 で詳述したように、この論文は “糖質制限ダイエットはエネルギー収支をも超越する絶対的/排他的に優位な減量方法である” ことを立証するエビデンスではありません。

低炭水化物食(糖質制限)の有効性と安全性については、昨年9月の欧州糖尿病学会で、『2型糖尿病患者を被験者とした介入試験では、低脂肪食(脂肪30%:炭水化物55-60%:タンパク質10-15%))より低炭水化物食(脂肪50%:炭水化物20%:タンパク質30%)の方が、健康関連の生活の質(HRQoL)の向上という点では効果がある。しかし、体重の変化に両群間で差はなかった』ことが、スウェーデン研究者から報告されています。一部の糖質熱狂者は、“糖質制限ダイエットが基礎熱力学の保存則をも優越する”かのごとく語っていますが、この論文でもそのようなことは言ってはいません。

他方、江部医師ご本人も「2013年10月9日付け米国糖尿病学会の公式声明で、糖質制限ダイエットは選択肢の一つとして正式に受容されました」「カロリー制限食はすでに時代錯誤の代物です」と語っておられるが、まるで戦時下で戦果を誇張した大本営発表のようです。
同声明では実際には次のように書かれています:

『全ての糖尿病患者に共通する “ある1つの炭水化物の摂取量を特定する” エビデンスは不十分である。摂取量の目標設定は各患者と協同して行われるべきである。高炭水化物食と比較して低炭水化物食(21gから総摂取量の40%まで)が、血糖値やインスリン感受性の改善を示す幾つかの研究があるが、他方、4つのランダム化比較試験では血糖値の有意差は示されていない。これらの研究の多くは小規模/短期間で、而もリテンション率が低い。同様に幾つかの研究は、高炭水化物食に比べて低炭水化物食の方が、中性脂肪、VLDL中性脂肪、VLDLコレステロール、総コレステロール、HDLコレステロールなど血清中脂質やリポ蛋白の改善を示したが、一方では有意差が認められなかったとする研究もある。これらの研究はリテンション率が低く、サイズ効果を検出する確率ロスや偏った結果を招く可能性があることに注意しなければならない。多くのレビュー研究では、多量栄養素の内容結果の解釈を混同することで体重減が生じている』
『全ての糖尿病患者に有用と決定づけられる理想的な食事パターンはない。糖尿病患者にとって、どの食事パターンを選ぼうとも重要なのは総エネルギー摂取量である。食事のパターンは、食品のアベイラビリティや特定の健康食品への理解、更に個人の嗜好/文化/宗教/知識/健康信念/予算/収入の問題などによって影響されるので、これらの諸要因を各人個別化評価して考慮すべきである』

北里研究所病院糖尿病センター山田医師によるRCT研究
研究の概要は、『平均年齢63.2歳の2型糖尿病患者24名を被験者として、カロリー制限群(25〜30kcal/kg)と糖質制限群(糖質1日70〜130g)にランダムに割り付けて、6カ月間の試験が行われました。主要評価項目はHbA1cの変化量とし、体重脂質血圧腎機能肝機能についても併せて評価されました。その結果、HbA1cおよびトリグリセライド(TG)は糖質制限群で有意に改善したが、体重/脂質/血圧/腎機能/肝機能の変化量は両群に有意差はなかった』というものです。小規模な研究ではありますが御同慶の至りです。

しかし、本研究を以って“糖質制限ダイエットを容認しないのはおかしい”と学会に迫るせっかちな人も散見されますが、“親から良く勉強したら好きなもの買ってあげると云われた子供が、たった30分勉強しただけでおねだりする光景と重なって見える”のは私だけでしょうか。

ご参考までに、本論文のエネルギー摂取と体重増減に関する部分のみを一覧表にしてみました。
本研究も結局は中程度炭水化物食(20〜45%)に終わっており、低炭水化物食(20%未満)を遂行することの難しさを物語っていると言っても過言ではないでしょう。

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加えて、このRCT研究は糖尿病の高齢者を被験者とした食餌療法の研究であることに注視していただきたい。あたかも一般のダイエット(減量・痩身)と同じであるかのような表現で報道するメディアも多く見受けられるのは残念です。
ユビキタス社会と言われる現代社会で、TV番組やネット情報の影響を受けて“痩せている=美しい”、“痩せて幸せになる”といったイメージが創り上げられ、若い女性達だけでなく男性の間でも“ヤセ願望”が強くなっています。「身体醜形障害」とはダイエットの域を通り越して、自分の容姿に対するコンプレックスが病的に高まり、極端な低体重など偏ったボディーイメージ(願望)を持つ状態を指しますが、性差に関係なく10代の若者に多く発症しています。このような環境の中で、知識の乏しい子供達(特に成長期)をミスリードしていることも大きな問題であろう。

最後に、
糖尿病治療の一環としての食事療法と一般的なダイエットを混同して語っている人が実に多い。一般的なダイエットの基本は、量(カロリー)/質(五大栄養素)いずれもバランスのとれた食事管理+生活活動+運動(有酸素運動 and/or 筋トレ)です。減量のための食事パターンは、糖尿病治療、メタボリックシンドロームの予防や健康促進、美容(スリム)、バルクアップ(lean)、運動パフォーマンスの向上など目的別に応じて、年齢、性別、食品のアベイラビリティ、健康食品への知識、嗜好、文化、知的度、宗教、健康志向、収入、時間的制約、家庭の状況etc各人の個別性を考慮して採り入れられるべきです。

糖質制限食、低脂肪食、地中海食など様々なダイエット法がありますが、すべてカロリー制限のバリエーションの一つに過ぎず、基礎熱力学の保存則を超越するものではありません。
つまり、
1日に必要なエネルギー(A)=基礎代謝量+DIT(食事誘導性熱代謝)+ 身体活動
A>摂取量なら:痩る
A=摂取量なら:維持
A<摂取量なら:太る

追記:
随所で申し上げているように、私は糖質制限ダイエットの反対論者ではありません。
各人の個別性やダイエットの目的を熟慮した上で、戦術の一つの選択肢としてcase by case炭水化物の摂取量を抑えることには敢えて異議を挟みません。私が問題にしているのは、一部の強硬一途な糖質カット熱狂者の科学的根拠を欠いた排他的/絶対主義的な歪んだ推し進め方なのです。誤解がないようにこの点を重ねて申し上げておきます。











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