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zoom RSS 第909回 飢餓スイッチ

<<   作成日時 : 2015/10/05 08:12   >>

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All Aboutなど著名なサイトを幾つか調べてみましたが、『ダイエットが進んでいくと飢餓モードのスイッチがONになり、生命を守るために栄養の吸収率を高めエネルギー消費を最小限に抑え、体重減少に歯止めがかかる。これが「ホメオスタシス機能」であり停滞期の始まりです』と異口同音に書かれています。実に誤解を生む表現です。吸収速度が速まることはあっても、吸収率が著しく高まってアンダーカロリーの状態で体脂肪が蓄積していくことなど有り得ませんし、「飢餓モード」という言葉そのものが極めて不適切であり、飢餓スイッチがONやOFFになったりすることもありません。これは人間が生まれながらにして持っている自然な機能『adaptive thermogenesis(適応熱産生)』なのです。


adaptive thermogenesis(適応熱産生)

既に説明した通り、体重の増減は究極的には長期のエネルギー収支バランス、即ち、食べ物を介した「カロリーIN」と代謝率を介した「カロリーOUT」によって示されます。そして、私たちが1日に消費するエネルギー総量は次の4つの総和によって決まります。

1. Basal Metabolic Rate (BMR/基礎代謝量)
2. Thermic Effect of Food(TEF/食事による熱産生効果)
3. Thermic Effect of Activity (TEA/活動性熱産生効果)
TEA/活動性熱産生効果は、Thermic Effect of Exercise(TEE/運動生熱産生効果)とThermic effect of Non-exercise activity thermogenesis (NEAT/非運動性活動熱産生効果)に分けられます。前者は「運動」で、後者は「生活活動」を意味します。

日本語で簡単に言い換えると、
現体重を維持するために必要な1日のエネルギー=基礎代謝量+食事誘導性体熱産生+運動+生活活動になります。

ご参考:
基礎代謝量/安静時代謝量だけでなく、運動消費カロリーも「1.05×体重kg×Mets数×時間」で算出されるように、いずれも体重が重ければ消費量は大きくなります。換言すると、減量に伴い消費エネルギー量は下がり、かつての制限カロリーは維持カロリーになってしまうのです。


更に一歩踏み込んで説明しましょう。
減量を続けるとこれら4つのadaptive thermogenesis(適応熱産生)は、意識するかどうかに拘わらず経時的にカロリー摂取量の低減に併せて順応していきます。一口で言うと、代謝率が低下するということで、これにはレプチン、甲状腺ホルモン、カテコラミン(ノルエピネフリン)、インスリンなどのホルモン作用が大きく関っています。

レプチンは脂肪細胞から分泌される重要なホルモンで、脳の視床下部および報酬系にも働きかけ、食欲をコントロールします。ダイエットを続けるとレプチンは減少し、摂食意欲や渇望感が高まります。

代謝をコントロールする甲状腺ホルモンが減少します。

胃から分泌されるグレリンが増加し、食欲中枢を刺激して食欲が増すことになります。

インスリンの分泌が減少します。インスリンの低減は脂肪分解に繋がり良いことですが、テストステロンが性ホルモン結合グロブリンと結び付き、活性型のフリーテストステロンレベルが低下します。

コルチゾルが増加し、肝臓でのタンパク質からグルコースへの変換を活性化させると同時に、タンパク質の分解を昂進させます、更に、ロイシンに悪作用しタンパク合成(同化)を損ないます。

ご参考:
食事制限や食事を元に戻した時、各ホルモンがどのように作用するかについては、”第183回のダイエットとリバウンドのメカニズム” で詳しく説明しています。
また、コルチゾルについては “第182回 過激な食事制限+運動は脂肪燃焼にマイナス効果” でも触れているので参照してください。


一覧表にまとめると次の通りです。

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自然体のライフスタイルで体重50kgの人は、ダイエットで体重50kgの人に比べて、消費エネルギーが高いとLyleは語っています。
減量を続けていくことによって代謝が低鈍し、同時に私たちの食欲と食べ物への渇望が高まります。

代謝率の低下を示す研究には数値のバラツキがありますが幾つかを紹介しておきます。

Mr Lyle McDonald:
体重の変化が代謝に及ぼす影響度がどのくらい大きいのかは我々の一番の関心事です。減量中は上述のようにホルモンの影響も大きく相対的にインパクトは大きいですが、減量後の維持期では左程に大きくはありません。減量後の維持期に関する幾つかの研究は、安静時代謝量が5%減少したことを報告しています。影響は確かにあります。しかし、個人差による多少の違いはあるでしょうが、圧倒的なものでもありません。
他方、Mr James Kriegerはネットウェブサイト “Weightology” で次のように語っています。『TEA/活動性熱産生効果(特にNEAT/生活活動)は日常的に総消費量に及ぼすインパクトは遥かに大きい。安静時代謝量の減少は1日当たり150kcalだったが、TEA/活動性熱産生効果は300kcalも減少し、トータルすると1日当たり400kcalを超える大きな減少が見られたことが研究報告されている。』

Pourhassan M et al:
BMIが20.2-46.8の83名を対象に、体重が安静時代謝量と代謝リスク因子に及ぼす影響を調べた。追跡期間23.5 〜 43.5ヶ月で体重の増減は-11.2 〜 +6.5 kgで、減量ではFM(脂肪量)及びはFFM(除脂肪量)の減少は、それぞれ72.0%/28.0%であった。一方、増量では脂肪の増加がトータルの87.9%であった。FMとFFMを調整後の安静時代謝量は、減量で0.22 MJ/day(52.6kcal)減少し、増量で0.11 MJ/day(26.3kcal)増えたことが報告されています。

Schwartz A et al:
90件の研究論文をシステマティックレビューし、安静時代謝量が減量期間2週間以上6週間未満で体重1kg当り-27.7 +/- 6.7kcal減少、6週間以上では体重1kg当り-12.8 +/- 7.1 kcal減少したことを報告しています・・・ 10kg減量すると安静時代謝量は128kcal減るということになります。

Michael Rosenbaum and Rudolph L. Leibel:
リーンおよび肥満者を対象として、10%減量し維持すると24時間の消費量は20−25%減少したことが報告されています。

こう云った一連の変化が生じる理由は、生命を維持するために脂肪の減少率を低下させ、体を非活動化させることと、食事を元に戻したときに脂肪が加速的に元の状態に戻るようにするためです。

取りまとめますと、
飢餓モードを針小棒大に語る人が散見されますが、経時的に体重減少がスローダウンするものの、食事制限しているにも拘わらず体重が増えるなんてことは起こり得ません。
スイッチがON/OFFするような現象でもありません。
カロリー摂取を増減するときに体が自然に順応するスペクトラムに過ぎません。
そもそも飢餓モードという言葉自体が極めて不適切で、“metabolic adaptation(代謝適応)” 或は “metabolic slowdown(代謝のスローダウン)と呼ぶのが妥当でしょう。

最後に、
飢餓モードに加えて『停滞期』という言葉も気になります。
停滞期(Plateau)とは特別な何かではありません。ダイエットプログラムを適正に遵守していないか、或いは、エネルギー収支バランスが釣り合ってしまっているだけの話です。

追記:
Mr Martin Berkhanが “Top Ten Fasting Myths Debunked” で今流行りのインターミッテント・ファースティングを取り上げています。信頼できるサイト『AthleteBody.jp』が和訳してくれているので参考になさってください。


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