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zoom RSS 第945回 運動は食欲を高める??

<<   作成日時 : 2016/02/14 18:44   >>

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「運動するとお腹が空いて、食欲が昂進するので、運動はダイエットには向かない」といった印象を語る人たちが多い。しかし、食欲旺盛だった高校時代でさえも、へとへとになるまで運動した後は逆に食べられなかったことを思い出す。果たして運動は食欲や食行動にどのように影響するのだろうか?
科学エビデンスはどのような采配を下しているのか検証してみましょう!

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論文内容がすんなり頭に入ってくるように、先ずはキーワードとなる単語の意味を簡単に説明しておきます:
胃から分泌される「グレリン」は食欲を増進させる摂食昂進ホルモンです。他方、「グルカゴン様ペプチド1(GLP-1)」は、膵作用として血糖依存的にインスリン分泌を促進し、グルカゴン分泌を抑制しますが、膵外作用としては食欲を抑制します。「ペプチドYY(PYY)」は、視床下部の受容体に作用して食欲を抑えます。GLP-1 /PYYいずれも腸管のL細胞から分泌されるホルモンです。



健康医科学研究助成論文集(2010年3月)
Effect of Short Term-High Intensity Exercise on Gut Hormone, Appetite and Energy Balance
By 大阪市立大学大学院の医学研究チーム

健常な男性10名(平均年齢23.4±4.3歳、体脂肪率16.0±0.2%、BMI 22.5±1.0、最大酸素摂取量45.9±8.5ml/kg/min)を被験者として、自転車エルゴメータを用いてVO2max75%(再強度試行)、VO2max50%(中強度試行)及び安静試行の順序をランダムに設定し、同一被験者に約1週間の間隔を空けて実施した。
前日は21:00 より、規定した夕食(532kcal:蛋白質13.9%,脂質26.6%,炭水化物59.5%)を摂り、以後、水以外は摂取しないようにした。
検査当日はAM 9:30 に実験室に入室した。
12:00 より昼食として即席麺(蛋白質7.9%,脂質44.6%,炭水化物47.5%)を提供し、時間制限は設けずに対象者が食べられなくなるまで摂取させた。

消化管ホルモンの総分泌量
高強度試行のPYY3-36 は、中強度試行と安静試行に比べて有意に増加した。
高強度試行のGLP-1 は、安静試行に比べて有意に増加したが、中強度試行との間には有意な差は認められなかった。

エネルギー摂取量および食欲
高強度試行のエネルギー摂取量は、安静試行に比べて有意に抑制されたが、中強度試行との間には有意な差は認められなかった。
高強度試行の空腹感は、運動中および運動直後で安静試行と比べて有意に減少したが、中強度試行との間には有意な差は認められなかった。

消化管ホルモンとエネルギー摂取量との関係

高強度試行、中強度試行、安静試行のいずれの試行においても、昼食直前のPYY3-36 およびGLP-1 分泌量とエネルギー摂取量との間には、有意な相関は認められなかった。
高強度試行のGLP-1 の総分泌量の変化量とエネルギー摂取量の変化量との間には、有意な負の相関が認められ、中強度試行の変化量においても同様であった。しかし、PYY3-36 の総分泌量の変化量とエネルギー摂取量の変化量との間には有意な相関は認められなかった

考察
本研究では、30 分間の高強度運動による消化管ホルモンの分泌と食欲および運動後のエネルギー摂取量の変化を中強度運動と比較した結果、PYY3-36 は運動強度の上昇に伴って分泌が増加するが、GLP-1 は運動強度にかかわらず、運動刺激によって分泌が高まることが示唆された。更に、運動強度にかかわらず運動刺激によって増加したGLP-1 の増加量は、エネルギー摂取量の抑制の程度と有意な相関関係を示した。


上記の研究では体脂肪/BMI共に正常な男性を対象としていますが、肥満者に関する研究論文を見てみましょう。

Med Sci Sports Exerc(2015 Jan)
Effect of moderate- and high-intensity acute exercise on appetite in obese individuals

安静試行と比較して、HIIC(高強度インターバルサイクリング)/MIIC(中程度強度で連続的にサイクリング)/S-HIIC(短時間の高強度インターバルサイクリング)の全てにおいてインスリンレベルは有意に減少し、グルカゴン様ペプチド1レベルは有意に高まった。アシル化グレリンの血漿レベルは安静試行と比較して、MIICおよびHIICで低減したが、S-HIICでは低減しなかった。
ポリペプチドYY3-36血漿レベル、空腹感および満腹感、エネルギー摂取量、および食べ物による満足や悦び(脳内報酬)については有意な群間差は認められなかった。

Bottom line(結論)
標準体重者を対象とした先行実験と同じく、過体重/肥満者を対象とした実験でも、一過性の高強度運動と中強度運動とに間に、空腹感およびエネルギー摂取量の有意な違いは見られなかったということです。


次の研究では、有酸素運動を行うと見返りとして食欲増進を介してエネルギー摂取量が増えるのかどうかを調べるために、運動量が異なる2種類の有酸素運動を行って空腹時/食後/運動後の食欲について調べています。

J Appl Physiol (1985) 2013 Dec
Appetite regulation in overweight, sedentary men after different amounts of endurance exercise: a randomized controlled trial

セデンタリーで太っているが健康な若い男性64名を、運動量が中程度(MOD=1日30分)のグループ、運動量が多い(HIGH=1日60分)グループ、対照群の3群に無作為に割り付けました。昼食(自由食)は朝食3時間後に割り当てました。
12週間の実験結果は次の通りです。
運動量が異なっているにも拘わらず、結果的にはMOD群(4.2 ± 0.5 kg)とHIGH群(3.7 ± 0.5 kg)の脂肪減少は同程度だった。
空腹時および食後のインスリンレベルは、対照群に比べて運動群ではどちらもmax20%減少した。
食欲は空腹時および食後の状態においてアップレギュレートしなかった。逆に、空腹時および食後の膨満感や食後のPYY 3-36は、対照群に比べてHIGH群で増加した。
自由食(昼食)の摂取量は実験中を通して変わりはなかった。
血漿グレリン濃度はいずれの運動群もエクササイズに関連して増加した。

Bottom line(結論)
有酸素運動の運動量に違いがあるにも拘らず空腹時および食後の食欲は高まらなかったが、運動量が多いグループでは空腹時を含め食事に対する膨満感と満腹感が高揚しました。


上記の研究はいずれも安静試行との対比ですが、次の研究では食事制限vs運動による食欲の変化を調べています。結論から先に言うと、食事制限でエネルギー収支バランスをマイナスにすると食欲は代償的に昂進したが、運動では食欲増進および摂取カロリー昂進いずれも認められなかったことが報告されています。

Appetite(2014 Oct)
Appetite and gut peptide responses to exercise and calorie restriction
The effect of modest energy deficits


健康な男性12名(平均年齢24歳、BMI:23.8、最大酸素摂取量:55.4mL/kg/min)を被験者として3つの実験(各8時間)を行った。
ひとつは、VO2Max64.5%で30分間のサイクリングを行い1469kjのエネルギー欠損を出して貰った(0〜0.5h)・・・Ex-Def群
もう一つは、標準テスト食のカロリーを制限して同等のエネルギー欠損(1478kj)を出してもらった(1h & 4h)・・・Food-Def群
三つ目は対照群である。
実験開始7時間後に自由食を割り当てた。
実験開始後4h〜8hでの食欲は、Food-Defの方が Ex-Defより高く(P = 0.033)、8hトータルでも高くなる傾向を示した(P = 0.059)
しかし、自由食でのエネルギー摂取量では群間差は見られなかった(P = 0.634; Con 4376 (1634); Food-Def 4481 (1846); Ex-Def 4217 (1850) kJ)
アシル化グレリンは食欲とは関連しないが、血漿PYY 3-36濃度はEx-Defの方が Food-Defより高かった。
カロリー制限による〜1475 kJ(≒350kcal)のエネルギー欠損で食欲は代償的に昂進したが、一過性のエクササイズでは食欲増進は認められなかった。
食欲反応は血漿PYY3-36レベルとは関連するが、アシル化グレリンとは関連しなかった。PYY3-36/アシル化グレリンいずれもその後のエネルギー摂取量に影響を及ぼさなかった。


次の研究では、一過性の運動によるエネルギー欠損に対する食欲や摂食反応について、男女差があるのかどうかを調べています。

Med Sci Sports Exerc(2015 Oct)
Appetite and Energy Intake Responses to Acute Energy Deficits in Females versus Males

実験@では、健康な女性12名をEx-Def(〜70% VO2 maxで90分のランニング)、Food-Def(運動消費量と同等のカロリー制限)、及びCon(対照群)の3群に割り付けた。各群とも実験時間は9時間とした。
実験Aでは、男性10名と女性10名をCon群とEx-Def群に割り付け、7時間の実験を実施した。結果は次に通りだった:
実験@では、食事制限によるmax3500kjのエネルギー欠損で、食欲およびエネルギー摂取量が増えた。血漿アシル化グレリンは増加し、ペプチドYY3-36は低減していた。しかし、運動による同等のエネルギー欠損では、これらの代償的反応は見られなかった。
実験Aでは、食欲評価や血漿アシル化グレリン濃度はCon群よりEx-Def群の方が低かったが、エネルギー摂取量では群間差はなかった。
食欲、アシル化グレリン、およびエネルギー摂取量への応答は、男性と女性の間で差がなかった。

Bottom line(結論)
女性は、食事制限に反応して代償的に食欲、消化管ホルモン、及び摂食反応を示したが
一過性の運動には反応しなかった。

(註)関連記事:第342回 運動と食事制限が中性脂肪代謝に及ぼす効果


Appetite 2010 Dec
Acute effect of walking on energy intake in overweight/obese women

本研究では、ウォーキングが空腹/エネルギー摂取量/食欲調節ホルモンに及ぼす影響を調べる為、太った女性19名(BMI 32.5 ± 4.3)を約40分の中強度ウォーキングするグループ、又は同じ時間を安静して過ごすグループのいずれかに割り付けた。
運動後1~2h又は安静時に摂取した自由食を評価した処、運動群は551.5 ± 245.1 kcal/安静群は548.7 ± 286.9 kcalで同程度であった。しかし、運動のエネルギーコストを考慮した場合、相対的なエネルギー摂取は、安静群(504.3 ± 290.1 kcal)に比べて運動後(197.8 ± 256.5 kcal)の方が有意に低かった。
GLP-1は安静状態に比べて運動によって低減したが、アシル化グレリンと空腹は運動による変化は認められなかった。

Bottom line(結論)
食欲調節ホルモン(アシル化グレリン及びGLP-1)の変化とエネルギー摂取量との関連性は認められませんでした。空腹感とエネルギー摂取量はウォーキングしても変化なく、このことはウォーキングそのものの消費量を勘案するとウェイトコントロールに有利であることを意味します。


次は標高と食欲に関する研究報告です。

Appetite 2015 Jun
Appetite and gut hormone responses to moderate-intensity continuous exercise versus high-intensity interval exercise, in normoxic and hypoxic conditions.

本研究では、低酸素状態で行う連続性の中強度エクササイズ(MIE)および高強度インターバルエクササイズ(HIIE)が、食欲ならびに血漿中のアシル化グレリン/ペプチドYY(PYY)/グルカゴン様ペプチド(GLP-1)に及ぼす影響を調べた。12名の健康な男性に、MIE-酸素正常状態/MIE-低酸素状態/HIIE酸素正常状態/HIIE-低酸素状態それぞれ2.6hの実験を総て順不同で環境室で実行した。
エクササイズの内容は、MIEはVO2max70%で50分間のランニング、HIIEはVO2max90%で6x3分のランニング+VO2max50%で6x3分のインターバル+VO2max70%でトータル50分のウォーミングアップ/クールダウンとし、低酸素状態での運動は高度2980mでシミュレートした。運動は朝食(標準食)後に行った。二度目の食事(必要量の30%)は運動後45分に割り当てた。食欲は、運動時/運動後/実験時間2.6hを通して正常酸素状態より低酸素状態において抑制された。血漿アシル化グレリン濃度は正常酸素運状態より低酸素状態の方が運動後および実験2.6hを通して低かった。PYY濃度はMIEよりMIIEの方が高かった。

Bottom line(結論)
短期的に低酸素状態で運動すると、食欲と血漿アシル化グレリンを抑止した。運動に対する食欲反応は運動タイプによるものではないようだ。

(註)関連記事:第458回 標高と肥満は相関する?


次は観察研究ではありますが、米国ローレンスバークレー国立研究所(米国エネルギー省)Dr Williams Paulは106,737名のランナーを対象とした研究で、エクササイズが食事と体重の関連を弱めることを報告しています。

Medicine & Science in Sports & Exercise
2011年4月14日
Exercise Attenuates the Association of Body Weight with Diet in 106,737 Runners

詳細は “第187回 エクササイズ vs食事vs 肥満リスク” を参照してください。


アドレナリン/ノルアドレナリンと食欲の関連について、Mr Lyleは次のように述べています。

Body Recomposition
Steady State vs. Intervals: Explaining the Disconnect Part 2
低強度トレーニングでは末端神経からノルアドレナリンのみ/副腎髄質からは少量のアドレナリンが分泌され、高強度運動ではアドレナリンおよびノルアドレナリン共に大量に分泌される。運動による空腹感/食欲についての研究にはバラツキはあるが、少なくとも一つのデータが低強度より高強度のトレーニングの方が、空腹を和らげることを明白に示している。

御貴承の通り、アドレナリンおよびノルアドレナリンともに、交感神経を活性化するホルモンで、交感神経の緊張状態が続くと、消化作用が抑制されて食欲不振になるほか、栄養の消化吸収が低下します。


次に紹介する研究論文はエビデンスのヒエラルキーとしては最上位にランクされるシステマティックレビュー/メタ解析です。

Appetite(2013 Apr)
Acute exercise and subsequent energy intake
51件の実験数/運動時間30 〜120分/運動強度VO2max36〜81%/実験時間2〜14時間/テスト食(自由食)割り当て0〜2時間を含む29件の研究のメタ解析を行った。
エクササイズが絶対的なエネルギー摂取量に及ぼす影響は僅かだが(n=51; 効果量ES=0.14, 95% CI: -0.005 〜 0.29)、相対的なエネルギー摂取量には大きな影響を及ぼす(エネルギー欠損の創出, n=25;効果量S=-1.35, 95% CI: -1.64 〜 -1.05)ことが分かった。

Bottom line(結論)
研究間にバラツキはあるが、エクササイズは短期的なエネルギー欠損を生み出すには効果的であり、われわれは運動中に消費したエネルギーを運動直後の時間帯に摂取量を変えることで代償するような傾向はないことをメタ解析の結果が示している。


最後に、これら食欲調節ホルモン反応も一定の時間が経過すると鎮静化することは言うまでも無いでしょう。鎮静速度に関する研究論文については精査していませんが、英国Loughborough大学で運動代謝を研究しているDavid Stensel博士によれば、食欲昂進ホルモンであるグレリンについて次のように述べています。『Numerous other studies have shown that vigorous exercise briefly down-regulates the appetite-stimulating hormone ghrelin. And while the blood levels of ghrelin rebound quickly after exercise, Stensel says they don't rise beyond where they were before the activity』、つまり、『強度の高い運動がグレリンを抑制することは多くの文献が示している。グレリンの血中濃度は運動後に速くリバウンドするが、それでも運動前のレベルを超えることは無い』


取りまとめますと、
何事にも個体差によるバラツキはありますが、統計学的には『運動後に食欲や摂食が急性的/代償的に高まることは無い』ということを ”tons of scientific evidences” が示しています。



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