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zoom RSS 第984回 米国糖尿病学会は低炭水化物食(糖質制限)を“正式に”容認した???

<<   作成日時 : 2016/11/04 16:59   >>

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糖尿病食の略史については “第767回 栄養療法” で触れましたが、ここでは米国糖尿病学会に軸足を置いて時系列的に取りまとめます。

1922年のインシュリン発見の前には、栄養素配分が糖尿病治療に利用可能な唯一のツールで、糖尿病患者の食事は低炭水化物/高脂肪でした。(

インスリン療法や経口血糖降下薬の発見後は、炭水化物の摂取推奨量は徐々に増えていき、1950年までには約20%が一般化されました。(

しかし、1950年代の初めには、米国糖尿病学会/米国栄養士会/アメリカ公衆衛生局は共同して、炭水化物の1日当たり推奨量を43%まで引き上げました。(

1971〜1986年の間に推奨量は右肩上がりの傾向を示し、ピーク時60%まで高まりました。
米国糖尿病学会と米国科学アカデミー(National Academy of Sciences)の食品栄養委員会(Food and Nutrition Board)は、1日当たりの炭水化物の摂取量は65%を超えてはいけない旨の勧告を行いました。
更に、米国糖尿病学会は130g未満の低炭水化物食は推奨できない旨のステートメントを発表しました。(

これがADA's 2008 Nutrition Recommendations and Interventions for Diabetes””まで続きました。(


しかし、米国糖尿病学会は2013年10月の栄養療法に関する声明では方向性を変えて、糖尿病食には“one-size-fits-all”の食事パターンはなく、“患者中心/決定共有の栄養療法”が重要であることが強調されました。

原文:It is the position of the American Diabetes Association (ADA) that there is not a “one-size-fits-all” eating pattern for individuals with diabetes. The ADA also recognizes the integral role of nutrition therapy in overall diabetes management and has historically recommended that each person with diabetes be actively engaged in self-management, education, and treatment planning with his or her health care provider, which includes the collaborative development of an individualized eating plan (1,2). Therefore, it is important that all members of the health care team be knowledgeable about diabetes nutrition therapy and support its implementation.

Take-home message

全ての糖尿病患者への三大栄養素(炭水化物/タンパク質/脂質)の理想的な栄養配分比に関する決定的なエビデンスがない。
それ故、病態(例えば、脂質特性や腎機能)や嗜好(例えば、伝統、文化、宗教、健康への信念や目標、経済)を個別的に評価して決定されるべきである。

様々な食品/食品群を組み合わせた食事パターンは糖尿病管理に許容される。
その食事パターンとして、地中海スタイル、高血圧を抑えるDashスタイル、ビーガンやベジタリアン、更に、脂質や炭水化物の構成比を低くするといった方法が糖尿病管理に緩やかな(modest)効果があることが示されている。

Evidence is inconclusive for an ideal amount of carbohydrate intake for people with diabetes:
これまで研究された1型糖尿患者および2型糖尿病患者のための食事パターンが糖尿病の栄養素ゴールに及ぼす影響を評価するために、地中海食/ベジタリアン食/低脂肪食/低炭水化物食/DASH食についてレビューを行なった。
低炭水化物食に焦点を当てたレビュー研究では、低炭水化物食の定義が一貫していない。超低炭水化物(21–70g/日)から中度低炭水化物(摂取カロリーの30〜40%未満)とバラつきがある。
いわゆる低炭水化物食が血糖値/インスリン感受性/脂質プロファイル/リポ蛋白の改善を示す研究はあるが、これらの多くは小規模/短期間で、而もリテンション率が低く、サイズ効果を検出する確率ロスや偏った結果を招く可能性がありエビデンスとしては不十分である。
したがって、目標設定は各患者と共同して行われるべきである。

全ての糖尿病患者に有用と決定づけられる理想的な食事パターンはない。糖尿病患者にとって、どの食事パターンを選ぼうとも重要なのは総エネルギー摂取量である。

米国糖尿病学会は、低炭水化物食を糖尿病食として選択肢の一つとして許容していますが、依然として推奨はしていません…As of May 19, 2016

ご参考までに、米国糖尿病学会の2013年ステートメント後に発表された長期研究としては、2014年6月に新潟労災病院Dr.前川が耐糖能障害の72名を対象に1年間の実験を行い、低炭水化物食が耐糖能障害者の血糖値の正常化および2型糖尿病への進行の予防に効果がある ことを示しています。糖質制限を主唱する人たちには朗報でありご同慶の至りです。しかし、本研究は後向き観察研究です。“Correlation does not imply causation(相関関係は因果関係を含意しない)”の通り、相関関係があるだけでは因果関係があるとは断定できません。
また、介入では“The low-carbohydrate, unrestricted calorie diet aimed at a maximum daily intake of 120 g of carbohydrates…介入群はカロリー制限なしの低炭水化物食で炭水化物の摂取量はmax120g/日を目標 “とありますが、7日間の入院教育では”The target was a total intake of 1,300 kcal per day. The nutritional composition of the food was 30% carbohydrates, 25% protein, and 45% fat…総摂取量は1300kcal/日を目標とし、栄養配分は炭水化物30%、たんぱく質25%、脂質45% “の食事が割り当てられている点が気になります。

直近の研究では、肥満の2型糖尿病患者(成人)155名を52週間フォローアップして、低炭水化物食の血糖コントロールと心血管疾患リスク要因に及ぼす効果を調べています…第913回 糖質制限食vs 高炭水化物食(2型糖尿病)

現代医療はEBM(Evidence Based Medicine)と呼ばれ、エビデンスに基づいた治療が必要とされているのは御貴承の通りです。低炭水化物食を主唱するに当たっては堅牢な科学的エビデンスに基づいて正攻法で進めていくことが肝要なることは言を俟ちません。
上述のような1年ベースの研究がぼちぼち登場してきましたが、少なくとも2年或いは2年を超える長期的な効果、心血管疾患リスク要因についての安全性、耐糖能に問題ある肥満者の2型糖尿病に対する予防効果、また低高強度の身体活動のプラス効果などをしっかり実証することが必要でしょう。

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因みに、2年を超える長期で大規模の研究としては2008年のイスラエルDIRECT研究があります。本研究では2年間を通し、低脂肪食に比較して地中海食と低炭水化物食では減量効果が優っていたとし、両群では血中脂質やインスリン抵抗性が改善したとしています。しかし、総エネルギーを制限しなかった低炭水化物群でも、実際の摂取エネルギーは他の群と同等に減じており、体重減少の効果が炭水化物の制限のみによると断定することはできません。その後4年間の観察をまとめ、研究終了後にそのままの食事療法を維持したものでは、研究終了時の傾向が残っていたと報じていますが、低脂肪食と低炭水化物食間の体重差の有意性は失われています。

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まるでかつての大本営発表のごとし!

集団思考」は不合理や危険な意思決定を生み出すことで知られていますが、科学を歪んだ視点から捉えて完全に洗脳されているケースが糖質制限ダイエットを提唱する人たちの間において散見されます。そして、江部医師のブログはその温床の場であるという声も一部で上がっています。私は基本的に個人のブログには無関心なのですが、ひょんなことからそんな江部医師の直近のブログ記事に目が留まりました。

そこでは、何年にも亘って『米国糖尿病学会は、2013年10月の「栄養療法に関する声明」において糖質制限食も糖尿病治療食の一つとして正式に容認しています』と強調しておっしゃっています。
権威ある日本糖尿病学会を向こうに回して糖質制限食の絶対的優位性を打ち立てようとして、糖尿病患者をミスリードするような誇大情報を流すことは、確定的故意、未必の故意、認識ある過失、或いは認識なき過失のいずれであれ罪なことです。

患者の自己決定やQOLを重視する臨床医からも、『糖尿病の病態の不均質性や現実の多義性を全く理解せずに、エネルギー制限や脂質制限といった従来の食事管理法を強く否定し、糖質制限を強要する糖質制限原理主義は排除されなければならない』という声もあります。





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