第108回 EPOC研究のレビュー


Mr Lyleがコメント!

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和訳してご紹介します。
「激しい運動を45分行うと、運動後も代謝は14時間昂進する」という研究結果が、「Medicine & Science in Sports & Exercise」に掲載されました。その内容骨子は、22~23歳の10名の男性を被験者とし、サイクリングを57%Watts max(72.8±5.8% VO2max)の強度で45分間行い、運動後の安静時代謝量を、24時間代謝測定室(Metabolic Chamber)で測定したところ、運動中の消費カロリーは519±60.9kcal でしたが、代謝昂揚は14時間続き、安静時代謝量は190±71.4kcal(37%)上昇を記録した。そしてこのことは、高強度運動が体重減少に繋がると云っています。

この研究結果が、私の主張と食い違っていると言う幾つかの質問があるので、コメントしたいと思います。

<背景>
最近では、科学用語でEPOCと云われる「トレーニング後に生じるカロリー消費」について関心が高まり、軽微な運動や、インターバルトレーニング及びサーキットトレーニングなど激しい運動を含む多種多様のトレーニングについてのEPOCが紹介されています。
ところで、運動に必要な酸素量に対し、実際に供給される酸素量が不足することを「酸素負債」と呼びますが、EPOCとはこのことを指すと誤解されがちです。しかし、最近の研究によって、実はそうではないことが判っています。EPOCとは、乳酸のエネルギー活用、クレアチン燐酸再合成、脂肪酸サイクルなどの「代謝摂動」に必要な酸素消費量のことを意味します。
しかし、現実問題として脂肪減少/体重減少の見地からEPOCを語る場合は、EPOC量がどんなに大きく、全体エネルギー消費にどれほど有意に影響するかがキーポイントになるでしょう。

“Effects of Exercise Intensity and Duration on the Excess Post-Exercise Oxygen Consumption(運動強度と時間がEPOCに及ぼす影響)”というタイトル記事で、過去の研究のレビューを徹底的に行いましたが、その結論として、「EPOCは時間よりも運動強度の方がより重要である」と述べました。
そして同時に、EPOCは高強度運動の方が大きくなりますが、絶対値は大した数字ではないことを指摘しました。

<コメント>
先ず、何故これまでの研究と異なる結果が出てきたのか?このことが第一の重要な論点です。
この研究はカロリー消費の正確な測定のため「代謝室」を使用し、その他の研究は「ダグラスバッグ」などで測定しているので、確かに測定方法は異なっています。

次に、研究課題としてエネルギーバランスを意図的に保つように設定されているため、エクササイズグループにはエネルギー消費を相殺する為、660kcalの追加摂取が行われたことです。その結果をダイエットや脂肪減少に適用するには無理があります・・・アンダーカロリーの状態を、運動ではなく食事制限で造りださねばならないことを意味することになるからです。

“The increased energy intake balanced against energy expenditure (energy flux) has been shown in several studies to contribute to the elevated 24-h energy expenditure on exercise days or in trained individuals.”:(和訳)追加摂取すると代謝が24時間上がることは、幾つかの実験によりすでに判っていることです。この研究は、追加摂取しない条件設定で、もう一度やり直すべきでしょう!
(注釈)ちょっと補足しますと、食事をすると消化などのために内臓が活発に活動します。これを食事誘導性熱と云いますが、もちろん安静時の代謝に相乗効果を及ぼします。

最後に、この実験はとても激しい(Vigorous=Hard)運動で実施されたことです。
最大電力出力の57%(最大酸素摂取量の72.8±5.8%相当)は、凡そ最大心拍数の85%に相当します。現に、この実験の運動中に測定した心拍数は163±16と報告されていますが、これは「Method of Endurance Training Series」の中で説明した“スウィートスポットトレーニング”に相当します。
ところが、この研究では、何がEPOCを決定するのか詳細に触れずに、“The magnitude of post-exercise energy expenditure is greatest when the body experiences significant physiologic stress during prolonged and high intensity exercise.”と、かなり簡単に述べているだけです。和訳すると、“運動後のエネルギー消費は、長時間かつ高強度な運動により生じる有意な生理的ストレスを受けたときに、最も大きくなる”と云う意味です。

実際のメカニズムは複雑ですが、基本的にはアフターバーン効果は、体のホメオスタシス機能が大きく崩れたときに最大になります。そして、この現象は「高強度+高ボリューム(長時間)」の運動を行う時に顕著に現れます

従来の研究の多くは、長時間低強度と短時間高強度(インターバルトレーニング)をベースに観察されましたものですが、いずれも有意なホメオスタシスの変化は生じませんでした。
長時間の実験は非常に軽微強度で、高強度の実験は非常に短時間となっています。ところがこの研究では最大レベルに近い高強度で実施されています。

概念的には「the Reps Per Set for Optimal Growth」で述べた最大筋力と最大筋量を得るための、
最大筋力の80~85%で行う高強度トレーニングに近いものです。高強度で行うとハイボリュームはこなせないし、低強度ではハイボリュームこなしても有意なストレスは生じません。従って、このレンジの中での「高強度+ハイボリューム」の最大公約数の値で行うのが最も効果的だという云うことです。
長時間低強度、インターバルトレーニング、及びスウィートスポットトレーニングの三つを比較すると、スウィートスポットトレーニングが格段にハードです。
普通の人であれば、長時間低強度は退屈するし、高強度はきつくて長く出来ないので、結果が出る前に止めてしまうものです。特に自転車の場合は、脚に集中的に負担が掛かり、大変辛いのは云うまでも有りません。

私が云いたいのは、この実験が行ったのは、そういう凄く高強度レベルのことであり、大半の人は1時間近くも続けることは出来ません。この実験の運動は、恐らく45分を90%位の強度で行ったものでしょう。
一般の人が、ダイエットやウェイトトレーニングでこのようなことをやろうとしても、続けることは出来ません。この研究結果は確かに興味のあるものですが、少なくともはっきり言えることは、所定の条件つまり“エネルギーバランスとhard/long Exercise”のときにEPOCが顕著に大きくなることを検証したもので、この実験結果と一般ダイエッターを結び付けることには無理があります。

<ご参考>
色々な難しい単語や理解し難い文章が載せられているので、補足説明したいと思います。

持久力トレーニングを行うと、人間の体はパフォーマンスを上げようとして、体が自ずと順応(Adaptation)しようとして変化します。具体的には、
1. 心臓機能の変化
2. 血液の酸素運搬能の向上
3. 骨格筋の毛細血管の増加
4. ミトコンドリアの量と密度の増加
5. エネルギー産生に関与する酵素レベルの増加
6. 酸のバッファリング(緩衝作用)/利用の上昇

同じ強度で単調に持久力トレーニングを行っても、Adaptationを促進させることは出来ません。トレーニングの強度、時間、頻度によって変わるので、Endurance、VO2 max、efficiency、lactate threshold、acid bufferingといったポイントがターゲットになります。
ちなみに、ATP(アデノシン三燐酸)がADP(アデノシン二燐酸)に分解されるときに、化学エネルギーが発生し、このエネルギーが筋肉を収縮(運動)させて、人間は活動することができます。このATPとADPの合成+分解のサイクルをTCAサイクル(クエン酸回路)と云いますが、AMPk (AMPキナーゼ:adenosine monophosphate kinase). と呼ばれる細胞のエネルギーセンサーが、このようなAdaptationや代謝サイクルの調整に深く関わります。

ホメオスタシス(Homeostasis)とは、取り巻く環境が変わっても、体温維持、血糖値の調節など生命維持のために重要な機能を常に正常に保つ作用のことです。

Threshold TrainingとはFTP/OBLA/LTで1~3セット、20分間行う大変ハードなトレーニングです。
因みに、
FTP(Functional Threshold Power)とは1時間持続できる最大平均出力
OBLA(Onset of Blood Lactate Accumulation)とは血中乳酸蓄積開始点
LT(Lactate Threshold)とは乳酸性作業閾値
HR(Heart Rate)とは心拍数

スウィートスポットトレーニングとは、心拍数160~170位の運動を指します。
インテンシブトレーニング(Intensive Training)とは猛訓練と云う意味で、心拍数は大凡 150~170HRです。
テンポトレーニング(Tempo Training)とは自転車分野で良く使われる言葉で、インテンシブトレーニングのことです。
スレスホールドトレーニング(Threshold Training)は大凡175~180HRです。

食事誘導性熱産生の割合は、1日に消費するエネルギーの1割だと一般的には言われています。

<引用記事>
Body Recomposition by Mr Lyle McDonald
“45-Minute Vigorous Exercise Bout Increases Metabolic Rate for 14 Hours–Research Review”

<関連記事>
第9回の「EPOCの真相」
第107回の「運動後の代謝アップ」