第149回 フォアフット vs かかと着地


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昨年、ハーバード大学のDaniel Lieberman博士の論文が、英科学誌「Nature」に掲載されました。
その内容は、週20km以上走る米国およびケニアのランナーを被験者とした実験で、シューズを履いたランナーの75%以上はかかと着地するが、裸足のランナーの大半がかかと着地せず、拇指球の外側で着地することを指摘し、フォアフット(前足部)での着地が人間本来の姿のように語られています。そして、かかとからの着地を繰り返すと足を痛めるが、フォアフット着地は強力なふくらはぎおよび足の内在筋を必要とするものの、衝撃吸収能力は格段に向上すると述べています。
これを機にフォアフット推奨論が持ちあがり、フォアフットvsかかと着地どちらが良いのかという論争が続いています。

わたしはこの論争に単純な疑問を持っています。
何故どちらかに決めつけなければいけないのですか!

それでは、従来の考え方とはどんなものか整理してみましょう。

足の構造
人類の骨格は草原環境に由来しており、草原の地盤は軟らかな土だった。
従って、人は硬い地面よりも、柔らかな土の上で、より安定して立つことが出来るようになっている。しかも、直立時に踵よりも足指側に、加重が架かる構造になっている。

安定して立つためには、カメラの三脚のように3点以上の支えが必要です。
なぜ人は2本足で立つことが出来るのでしょうか?
実は、人は足裏の三点(かかと、拇指球、小指球)、つまり両足で6つの支点で立っているのです。

足の骨は26個あり、4つのアーチ(足弓)を構成しています。
このアーチが着地時の衝撃吸収や重心の移動や安定などの細やかな調節機能を行っています。
アーチ構造が、塔・橋・門など建築物にも多用されていることは御貴承の通りです。
下図は内足斜め下側から見た骨格模型です。ABが内足縦アーチ(土踏まず)、ACが外足縦アーチ、FGが足根部横アーチ、BCが前足部横アーチです。

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足部はリスフラン関節とショパール関節によって、前足部,中足部,後足部に分けられます。前足部は趾骨と中足骨からなり、中足部は楔状骨,舟状骨,立方骨から、そして後足部は腓骨と踵骨からなります。

このような骨格に付随して、靭帯、筋肉、血管網、リンパ網、足部の知覚器官や筋肉の動きを司る神経、そしてこれらの内部組織を守るため皮膚組織が足部全体を包んでいます。

さらに、人の足指は横への動きのほか、上下にも動くことが出来ます。この上下への動きは直立時や動歩行時の滑らかな重心移動に重要な働きをします。 加えて、衝撃を吸収するバネの役割も持っています。

足の機能
人の歩行とは、人体の重心を前方に移動させてゆくことです。
いわゆる動歩行とは、前方に出した片足が着地する前に、着地点方向への重心移動を開始する歩き方で、これが人の通常の歩き方です。重心はかかとで接地して、土踏まずの外側から小指球→拇指球→親指に移動して行きます。因みに、動歩行を早めると走る動作になります。

従来の考え方をまとめますと、
かかと接地→つま先方向への重心移動→アーチや指による衝撃吸収→距骨下関節→膝関節→股関節→背骨と関連してゆきます。これが歩くときの基本と云うことになります。
早歩や走る時も基本的には同じですが、走る速度が上がるに連れて、接地時間が短くなり、体が前掲すればかかと接地しなくなり、フォアフットになっていきます。これはかかと着地がブレーキ作用をすることとも関連づけられます。このように考えると、かかとの衝撃吸収を主な理由にして、フォアフット走行の方が良いと決めつけるよりも、かかと衝撃はあくまでも、全体的な身体動作の一つに過ぎないと考えることも出来ます。
この考え方に基づいて、初心者用ジョッギング用シューズはかかと部分を厚くしてクッション性を持たせ、中上級者ランニングレース用のシューズはレーシングフラットと呼ばれ、ソール部分が薄くなっています。
<参考資料>Athletic Shoes Izumi 足の構造と機能

扨て、従来の走法のひとつとして、ミッドフット(中足部)つまりフラット走法というのも有ります。
“ナンバ走法”が話題になった時がありました。
「身体を捻らない、足はあまり高く上げない、つま先で蹴らない、足全体で着地する、腕もあまり振らない、肩胛骨を動かす」と云うもので、日本古来の忍者走りとも云われていました。

NHKの「ためしてガッテン」によれば、山歩きの「下り」は「小また歩き」がコツだそうです。
東北の熊撃ちマタギの人たちは、急な斜面を歩くのに、地下足袋を愛用していると言っていました。地下足袋だと自然に小また歩きになるそうです。これもフラット走法の効能を裏付けるものです。

福岡大学の田中教授の提唱しているスロージョギングも、ゆっくり小股で走る走法ですが、これは遅筋を意識したフォアフット着地が特徴です。

寛平ちゃんのアースマラソンに話題を移しましょう。
毎日40kmも普通に走ると、着地での衝撃が毎回膝などへのショックになってくる。
そこで小石の多いジャリ道では、砂利を利用して着地する瞬間にかかとを前に滑らせながら走ることにしたそうです。つまり、ずり足で足を高く上げず、衝撃を少なくして走ったそうです。
これも忍者走りの一種で、高橋尚子さんや評論家が絶賛していました。
因みに、そのあと砂利の少ない道では摺り足忍者走法が出来ず、再び右足の甲に痛みを訴えていました。

しかし、フラット走法にもデメリットはあります。
私のケースですが、砂利道の遊歩道を足を高く上げずフラットで走っている時、地面に埋まっている石につまずき、転倒して手指を3本骨折した苦い経験があります。

フォアフットvsかかと論争に、このフラット走法が加わると、総合的な優劣は一体どういうことになるのでしょうか?

欧米女性には見られない内股は、民俗学者の柳田国男さんの表現をかりれば、日本女性の文化であり美女の嬌態として「女らしさ」を表現するものです。しかし、足関節と膝関節の屈曲は、股関節の外旋が条件となるので、スポーツなどの技術や動作習得に関してはマイナスです。年配女性に散見される膝・腰・股関節の障害は、内股文化が影響しているともいわれています。そこでもちろん内股の人に適した走り方というのも考える必要があるでしょう。

さらに、遅筋を意識した安全かつ低強度の走り方ばかりを重視すると、そのデメリットして加齢とともにサルコペニアによる転倒や骨折の大きな原因(第65回の.加齢と筋力低下)になるし、最近ではより強度の運動の方が長生きするという報告も幾つかあります。

最後に
長々と書きましたが、現在かかと接地で走って問題なければ、何もフォアフットに変える必要もなく、逆にかかと接地で膝や腰に問題を抱える人は、フォアフット走行orフラット走法に替えてみるのも選択肢の一つと云う風に、柔軟的に考えるべきではないでしょうか?
換言すると、1インチや1秒を競う世界のアスリートは別問題として、一般のジョッガーやランナーに関して言えば、走る目的、ハード地面かソフト地面、平坦地か坂道、肥満者か健常者、走行距離か時速、更に、持久力や筋力などの個人差etcを考慮して、自分に適した走り方をするのがベストではないかと思います。
因みに、上述のLieberman教授は、「ではどのように走ればよいのかというと、好きな方法で楽しめば良い。かかと着地の人は、かかとを保護するようデザインされた靴を履くのが望ましく、また、足の母指球から地面に当てる走法を訓練する方法もあるが、急激に移行するとアキレス腱炎を発症しやすいため、徐々に注意深く移行するのが重要」とも述べています。

<関連記事>
第148回の「アスファルトvs 柔らかい地面」
第192回の「ランニング・エコノミー」
第193回の「最大酸素摂取量(VO2max)」
第194回の「乳酸(LT)」

アップデート 2012年11月12日
新ブログ「ナイス ボディ メイク」に、 “ベアフット vs ランニングシューズ” と題したレビュー記事を掲載しているのでご覧ください。

アップデート 2013年1月15日
レビュー記事を掲載しました⇒ 第391回のミニマリストシューズ

アップデート 2013年9月21日
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第529回のかかと着地 vs フラット走法
第478回のフォアフット着地 vs 膝の怪我リスク