第193回 最大酸素摂取量(VO2max)


VO2maxとは、単位時間当たりに体組織が酸素を取り込む最大量のことです。

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走り始めて少しずつスピードをあげていくと、だんだんと苦しくなってきます。
心拍数はどんどん上がっていき、やがて酸素の供給が間に合わなくなります。
更に、スピードを上げて走ると益々苦しくなってきて、やがて走り続けることができなくなります。

下図のグラフは酸素消費量の増加と運動強度の関連を示すものですが、酸素摂取量の横ばい平坦域(プラトー)は、従来から最大酸素摂取量(VO2max)、又は最大有酸素能力と定義付けられ、 “全身持久力(パフォーマンス)の指標”として用いられてきました。
しかし、そういった考え方は妥当ではなく、寧ろ“有酸素性ポテンシャル(潜在能力)の指標、若しくは、より上方の段階的限界を示す指標”として捉えるべきなのです。つまり、VO2maxは持久性パフォーマンスに影響することは間違いありませんが、決定要因として考えてはいけないと云うことです。

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通常は、VO2maxは体重ベース(ml/kg/分)で表しますが、体表面積で表わすケースもあり、こちらの方が子供や性差を比較するには正確です。
12~20歳の若い人たちを、運動グループと非運動グループの二つに分けて実験したところ、体重ベースでは、両グループ間でVO2maxの差異はなく、トレーニングはVO2maxに影響を与えないことを示しました。ところが、体表面積では、グループ間に有意な違いが生じ、VO2maxはトレーニングに伴って高まったという研究報告があります。

アスリートと一般人のVO2 max
VO2maxは個人により大きなバラツキがあります。
特に、遺伝的体質に大きく影響され、25~50%の個人差があると云われています。

下表は、厚生労働省による一般人(日本人)の性・年代別のVO2maxの基準値(単位:ml/kg/分)です。

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これに対して、米国の資料を見ると、
18~32歳の米国人野球/ソフトボール選手のVO2maxは、男性48~56、女性52~57です。
因みに、これまでに記録された最大値はクロスカントリースキーの選手で、男性94 ml/kg/分、女性77 ml/kg/分となっています。
尚、一般人の場合、女性は男性より20~25%低いとされていますが、アスリートの場合の性差は小さく約10%です。

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トレーニング & VO2 max
座りがちなライフスタイルの人が、週3回のペースで六ヶ月に亘って、VO2maxの75%の強度で30分間の運動を行った結果、VO2maxが15~20%高まったと云う研究報告がありますが、内容を良くみると、その数値は平均値であり、実際の個人間バラツキは4~93%と極めて大きな幅となっています。

“Respond vs Non-respond”、つまり同じトレーニングを行っても運動成果が異なるケースがあり、それは専ら遺伝的特性に原因するという最近の研究報告が有ります
更に、遺伝的特性には上限があり、運動強度と運動量を増やしても、VO2maxに変化が起こらなくなり、その期間的な上限は8~18ヶ月だと云われています。

声を大にして云うべき重要なポイントは、VO2maxがピーク値(平坦域プラトー)に達しても、運動パフォーマンスは更にトレーニングを行うことによって向上するのです。
それはAT(Anaerobic Threshold:無酸素性作業閾値)/LT(Lactate Threshold:乳酸性作業閾値)とランニング・エコノミーを高めることにより可能となります。

しかし、筋トレやスプリントなどの高強度の無酸素運動がVO2maxに及ぼす影響は殆どありません。レジスタンストレーニングのみでは、ショートインターバル方式で行っても有意な効果は期待できません。

VO2maxの上限に達するにはかなりのトレーニング量が必要となりますが、それを維持するのはそれほど難しいことではありません。つまり、VO2maxはトレーニング量を三分の二に減らしても維持することが出来るからです。
因みに、ランナーや水泳選手は競技前15~21日の期間はトレーニング量を60%に落とします。
これをテ―パリング(Tapering)といいます。

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VO2 Maxとパフォーマンス指標
アスリートにとって、VO2maxは最適なパフォーマンス指標とはなりません。
同じVO2maxレベルの選手であってもスピードが違います。
マラソンの上位ランク選手はVO2maxそのものよりも、VO2maxで如何に早いスピードで走り、漕ぎ、泳ぐことができるかということを重視します。

ハイレベルの持久性パフォーマンスにはVO2maxはもちろん必須ですが、それよりもLT(Lactate Threshold:乳酸性作業閾値)といった他の指標がもっと大事なのです。
繰り返しますが、LT(Lactate Threshold)でのスピードがより重要視されるのです。
そういう意味で、VO2maxはアスリートにとっては、「有酸素性潜在能力」であって、LT(Lactate Threshold)がそのポテンシャルを如何に高く引き出す(Tapping)かの指標なのです。

VO2 Maxと影響要因
VO2maxに影響する生理学的要因は多くありますが、 “Utilization Theory”と“Presentation Theory”に二大別されます。
“Utilization Theory”とは、「有酸素能力は細胞内のミトコンドリアの酸化酵素量により左右される。故に必要酸素量を使用する人体能力が主要因である」という説であり、“Presentation Theory”は、「有酸素能力は、酸素使用能力のみならず、酸素を活性組織に送る心肺系能力に影響される。故にトレーニングでVO2maxを高め、血量・最大心拍出量・筋肉の血液環流をふやすことが肝要である」と唱えています。
つまり、Utilize or Supply?どちらと云うことになります。
Saltin and Rowell博士は、研究論文Functional adaptations to physical activity and inactivityの中で、持久力パフォーマンスには“酸素使用(Utilize)”より“酸素供給(Supply)”がより重要であると説いています。
その他に「酸化酵素の増加とVO2maxの関連性は希薄である」という研究報告もあります。
更に、有酸素機能についての6ヶ月のスイミングトレーニングの影響を調べ、酸化酵素は最後まで増え続けたが、プログラム最終6週間の期間ではVO2maxの変化が起こらなかったことが報告されています。

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VO2 Max と標高
VO2maxは標高が1600mを超えると減少し、更に1000m毎に約8~11%減少して行きます。
エベレストの頂上で、50 ml/kg/分以下になると、酸素マスクが絶対に必要となります。
これは、主に最大心拍出量の減少に起因します。
つまり、最大心拍出量は心拍数と拍出量と関連し、拍出量は血漿量が減ると低減し、最大心拍数も減少します。その結果、筋肉への血流及び酸素が欠乏します。

高齢化とVO2 Max
VO2maxは年齢と共に低減します。
平均減少率は25歳以降で年ごとに1%です。
大々的なクロスセクション研究で、平均減少値は、男性0.46 ml/kg/分(1.2%)、女性0.54 ml/kg/分(1.7%)であることが判りました。
しかし、この低下は必ずしも老化だけに因るものではありません。
酸素消費量の絶対値には変化が無く、単に体重に起因するケースも散見されますが、通常は、老化に因るVO2maxの低減は、最大心拍数・最大心拍出量・動静脈酸素較差の減少に起因します。
若いころに激しく運動していても、トレーニングを止めればVO2maxの低減を抑えることは出来ません。エリートアスリートの場合でもトレーニングを止めると、23~50歳で43%の減少、つまり70 ml/kg/分 から40 ml/kg/分に落ちたケースが報告されています。亦、一般の人よりも低減率が大きく、年毎1.5%低減したケースも散見されます。
しかし、対象的にフィットネスを維持しているマスタークラスのアスリートは、10年間で5~6%(年0.5~0.6%)、さらに同じトレーニング強度を維持しているケースでは、25年間でたったの3.6%しか低減せず、且つ体重増は僅かだったことが報告されています。
運動をするとVO2maxの低減率を抑えることが出来ますが、50歳以降になるとその効果はもっと少なくなっていくそうです。

引用記事
Sports Fitness Advisor
“VO2 Max, Aerobic Power& Maximal Oxygen Uptake”

乳酸値(LT)については次回詳しくお話します。