第194回 乳酸(LT)


“ランニング・エコノミー” “最大酸素摂取量” に続いて、今回はLT(乳酸性作業閾値)について説明します。

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先ず、AT/LTに関連する用語の解釈を取りまとめます。

AT(Anaerobic Threshold)とは無酸素性作業閾値の意で、ある一定以上の運動強度に達すると,有酸素運動から無酸素運動に切り替わりますが、その変換点をATと言います。

AeT(Aerobic Threshold)とは、有酸素性作業閾値の意で、有酸素性エネルギー代謝の限界点のことです。

LT(Lactate Threshold:乳酸性作業閾値)
安静時から運動強度(負荷)を上げていくと、あるポイントから血中乳酸値が上昇を始めます。このポイントをLTと云います。一般的には、血中乳酸濃度が1~3mmol/Lを指します
因みに、安静時の血中乳酸濃度は1mmol/Lですが、LTをLT1(血中乳酸濃度1mmol/L)とLT2(血中乳酸濃度2mmol/L)に二区分することもあります。

OBLA(Onset of Blood Lactate Accumulation)
血中乳酸濃度が4mmol/LとなるポイントがOBLAです。
85%MHR(=VO2max75%)で生じます。

VT(Ventilation Threshold:換気性作業閾値)
乳酸が産生されると、過剰な二酸化炭素が排出され換気が亢進します。この二酸化炭素の排出量が増加し始めるポイントをVTと呼びます。LTに近く大凡70%MHR(=VO2max60%)です。

FTP(Function Threshold Power:機能的作業閾値パワー)とは、約1時間の間、疲労せずに準定常状態で維持可能な最大のパワーを意味します。

RCP(Respiratory Compensation Point)とは、「呼吸性代償閾値」の意で、筋肉中の乳酸値の上昇により酸素が供給不足の状態に陥る境界線のことです。

MLSS(Maximal Lactate Steady State)とは、最大乳酸定常値の意で、時間が経過しても血中乳酸濃度がほぼ一定のままの最大運動強度のことです。
換言しますと、最大乳酸定常とは乳酸の産生とクレアランスの最大値が均衡するポイントのことで、パフォーマンスの指標としては、LTを凌ぐベストなものの一つと考えられてきましたが、「ランニング・エコノミー」で書いたように、最近これを否定する研究が幾つか発表されています。

IB(Isocapnic Buffering)とは、乳酸緩衝機能の意で、LT~RCPまでの間を指し、乳酸値が上昇しているものの、運動を長時間続けられる範囲です。

LTをATと呼ぶこともあり、これら一連の用語は互換的に使われますが、方法的に必ずしも統一されていないので、同一のものとして記述はされません。

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扨て、LTについてもう少し詳しく見てみましょう。
英国のSports Fitness Advisor、“The Lactate Threshold”を要訳して御紹介します。

世界のトップアスリートのLTは70-80% VO2 max.で生じ、トレーニング経験の無い一般の人の場合は50-60% VO2 maxと云われています。
最大酸素摂取量の記事で書きましたが、VO2maxを有酸素性耐久ポテンシャルと位置付けると、LT(Lactate Threshold)は、その能力をいかに高く引き出すかに重要な役割をします。
下図のグラフが示すように、VO2 max,が同じでも、LT値が高ければ連続性持久力のパファーマンスが高まることが判っています。

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LTとトレーニング
トレーニングによりLTは向上します。
その結果、VO2 maxが高まらなくても、運動強度やスピードが増し、パフォーマンスは向上します。
適切なトレーニングを行えば、下図のグラフが示すように、乳酸カーブは右上がりとなります。

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トレーニング後の乳酸濃度の減少は、“乳酸の産生低下”と“乳酸のクレアランス(除去)増加”に因るものです。しかし、C. M. Donovan and; G. A. Brooks は、耐久性トレーニングは乳酸の産生よりもクレアランス(除去)のみに影響すると報告しています。
高強度運動後の血中乳酸レベルも低減します。例えば、一定のペースで200m泳いだ直後では、血中乳酸濃度は、13-14 mmol/L.と高値でしたが、7ヶ月のトレーニング後では、このレベルは4mmol/Lに下がりました。
トレーニング前のハイレベルの乳酸値では泳力は劇的に下降しますが、トレーニング後の4mmol/L以下の乳酸値レベルでは恐らく同じペースで200m以上泳ぎ続けられると思われます。
LTと同等あるいは少し高いレベルでトレーニングすると、LTが生じる運動強度が高まることが研究により判っています。

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追記
尚、日本の文献では、安静時の血中乳酸濃度は上述したように1mmol/Lですが、このレポートでは0.5‐2.2 mmol/Lと記載されています。亦、完全に消耗してしまうポイントは、30 mmol/Lを超える数値もありますが、大体は20‐25 mmol/Lと記載されています。

又、激しい運動後の疲労回復については、第131回の「運動後の入浴と疲労回復」、および第140回の「激しい運動後のクライオセラピー効果」で説明しましたが、激しく動き疲れ切った状態で、また次のゲームやレースがあるような場合には、蓄積された乳酸を素早く除去する必要があります。
そのためには安静にしているより、適切な強度で身体を動かす方が、血中乳酸を早く除去できること、そして、その運動強度はVO2maxの35~40%が最も効果的だということを多くの研究が示しています。

最後に、トレーニング方法について書き足しておきます。

一般的に米国でスレスホールドトレーニング(Threshold Training)と言えは、FTP/OBLA/LTで1~3セット、20分間行うような大変ハードなトレーニングのことを指します。

スウィートスポットトレーニング(Sweet spot training)は、心拍数160~170HRの運動を指します。20代の例では、85~90%MHR、VO2max75~85%に相当します。HR(Heart Rate)とは心拍数のことで、MHRは最大心拍数を意味します。

インテンシブトレーニング(Intensive Training)は猛訓練と云う意味で、心拍数は大凡 150~170HRです。20代の例では、80~90%MHR、VO2max60~85%に相当します。

テンポトレーニング(Tempo Training)は自転車分野で良く使われる言葉で、インテンシブトレーニングのことです。

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