第196回 筋肉痛


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筋肉痛には「即(原)発性筋肉痛」と「遅発性筋肉痛」の二種類あります。
前者は運動中に生じる筋肉痛や筋肉の痙攣で、運動後短時間で回復するものを指します。
後者の遅発性筋肉痛は、普段あまり使わない部位を使ったり、いつもより激しく運動をしたときに起こる筋肉痛で、運動直後から翌日にかけて発生し一週間以内に消失します。遅発性筋肉痛は、“DOMS:Delayed Onset Muscle Soreness” 又は “筋肉の発熱”とも呼ばれます。

遅発性筋肉痛(DOMS)の原因
エキセントリック運動(伸長性筋収縮)は、コンセントリック(短縮性筋収縮)やアイソメトリック(等尺性筋収縮)な運動よりも筋繊維への負荷が大きい。それ故に筋肉損傷も大きく、筋肉痛を起こしやすいと、従来から考えられてきました。

しかし、エキセントリック収縮で、デスミンやフィブロネクチン(細胞接着性蛋白質)などの筋繊維の変性や、筋肉損傷および炎症反応は起こらないと云う研究報告(2002年)も有ります。

多くの相反する研究報告がある中で、『遅発性筋肉痛は、筋原繊維の超ミクロの分裂(特にZ盤・・・サルコメアと称される筋原繊維を仕切る盤上の構造)と筋肉の結合組織の損傷によって起こるものである。痛みに最も直接的に関連するのは結合組織で、「筋肉の侵害受容体」や「痛み受容体」の機械的感受性を高め、筋肉の収縮や触診による痛みを引き起こす。遅延性の原因は、痛みの侵害攻撃を受けて、炎症反応するプロセスまでの時間が掛かるためである。しかし、損傷、炎症及び痛みの相互関係は解明されていない』と云うのが、現在の有力説(Wikipedia)となっています。

『筋肉痛は筋繊維に出来る小さな傷が原因で起こるが、痛みを感じる痛覚は、筋膜(結合組織)には存在しているが筋線維には存在していない。故に、筋線維に傷がついてもすぐには痛みを感じない。しかし、時間の経過と共に傷の修復が始まり、白血球が傷ついた筋線維を取り除き、この時に発生する発痛物質が筋膜にある痛覚を刺激して痛みが起こる』という説もあります。

因みに、
筋繊維とは“骨格筋を構成する細胞単位”です。
筋原繊維とは“筋線維中に存在する収縮性の構造(細胞内器官)”を指します。
そしてサルコメア(筋節)とは、筋原繊維の最小構成単位であり、縦につながったものが筋原繊維であり、個々のサルコメアは、ATP存在下で収縮が起こります。

このような筋肉の微細構造の中での機械的ストレスが主原因であると云う有力説は、成る程とは思わせるものの、その説を確定させるに十分な裏付けとなる科学的データは揃っておりません。

以上の通り、筋肉痛のメカニズムについては幾つかの説がありますが、現代医学でも未だ全容が解明されておらず、メディアや雑誌で語られている諸説は、すべて仮説に過ぎないということをご理解ください。

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DOMS治癒療法
原因が究明されていないのに、どの療法が良いと云われても些か戸惑いますが、従来から様々な療法が推奨されてきました。しかし、「クライオセラピーは疲労回復や筋肉炎症には効くが、遅発性筋肉痛には効果なし」、「マッサージはリラックス/リハビリ効果はあるが、遅発性筋肉痛に対する効果は無い」、「鎮痛剤は、鎮痛効果はあるが治療にはならない」、その他に、自然治癒力を引き出すホメオパシー療法、微電流で炎症している経皮部分の筋肉を経絡に沿って刺激するマイクロカーレント(Micro Current)療法etc/etcが推奨されていますが、押し並べて効果がない、或いは効いたとしても顕著ではないものばかりで、これぞ特効療法というものは報告されていません。
ご参考までに、並べ立てておきます。
1.ストレッチ
2.ホメオパシー
3.超音波療法
4.電磁療法
5.ウォームアップ
6.軽体操
7.グルタミンサプリメント
8.アルギニン サプリメント
9.温水ジェットバス
10.エピソム塩(入浴剤)
11.鎮痛剤(ロキソニン、イブプロフェン)
12.マルチビタミン

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即発性筋肉痛の原因
広義の意味では、即発性筋痛には単純に「打撲」などの筋繊維の損傷による痛みもありますが、このような機械的ストレスに加えて、代謝ストレスを主原因とする説も有ります。つまり、激しい運動中に細胞によって産生される色々な副産物(分子)が筋肉痛の原因であると云う説ですが、これまでの処では、裏付けとなる生物学的なマーカーは証明されていません。

従来は、乳酸は疲労物質以外の何物でもなく、筋肉痛の原因でもあると考えられてきましたが、最近の研究によって、乳酸はエネルギー源であることが判明しています。
現在では、「水素イオン」が即発性筋肉痛の有力物質と云う説が浮上しています。イオンバランスが崩れると活性酸素が活性化し、その結果として筋肉痛が起こるというものです。

上述したように、遅発性筋肉痛および即発性筋肉痛ともに、そのメカニズムは未だ科学的に解明されていないのが現状ですが、そんな中で、筋肉痛に関し、米 Iowa大学とブラジルParaiba大学の研究チームが、エクササイズと痛みの相互作用をする主要な縫線核群は、不確縫線核(NRO)/淡蒼縫線核(NRP)であるとの仮説を立てて、運動がそれらのNMDA受容体を活性化させ、痛覚過敏を高めるかどうか実験しました。
その研究結果が、“運動に因る筋肉痛は、延髄網様体の縫線核群にあるNMDA受容体の活性化に起因する” と題してPubMed 2011/7/25に掲載されていますので紹介します。

タイトルからしてなにやら難しい言葉が出てきましたが、縫線核は脳幹の中央に位置し、左右の脳が正中で縫い合わせた部位(神経核)を意味します。

実験方法
酸性の生理食塩水(ph5.0)をマウスの腓腹筋に5日空けて二度注射し、筋肉損傷の状態を作り出した上で、30分or 2時間の運動をさせた直後と、2時間の運動させた2時間後の痛覚過敏を調べた。次に、運動中の不確縫線核(NRO)/淡蒼縫線核(NRP)のNMDA受容体を遮断すると、運動に誘発される痛覚過敏を抑えることが出来るか調べた。
そして、最終的に、行動実験により生じた筋肉損傷後のNMDA受容体N‐メチル‐D‐アスパラギン酸受容体NR1サブユニット(pNR1)の痛覚過敏の変化を評価した。

実験結果
酸性(ph5.0)の注射をすると、それぞれの運動で侵害受容(痛覚)は高まった。
AP5は、2-amino-5-phosphonovaleric acidと称されるNMDA受容体遮断薬で、生体内の受容体分子に働いて神経伝達物質やホルモンなど働きを阻害する作用がありますが、これを微量注射(1.0-0.1nmol)すると、運動誘発性の痛覚過敏の高まりを抑えることが出来た。それぞれの運動下で、不確縫線核(NRO)/淡蒼縫線核(NRP)のpNR1は上昇した。

結論
センデンタリーなマウスの運動誘発性の痛みは、リン酸化反応の上昇と不確縫線核(NRO)/淡蒼縫線核(NRP)のNMDA受容体の活性化に関連すること、そしてそれは慣れない運動と運動の相互作用を媒介する中枢興奮性の変化を示すものだと報告しています。

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第93回の「遅発性筋肉痛」

参照記事
You Can’t Beat Muscle Soreness
2011/12/22