第310回 サーチュイン遺伝子(長寿遺伝子)

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レスベラトロール
溯って、2011年6月12日放送のNHKスペシャル“あなたの寿命は延ばせる”で、ブドウの皮や赤ワインに含まれるポロフェノールの一種である “レスベラトロール” が紹介され、これを摂取することでサーチュイン遺伝子(長寿遺伝子)が活性化し、寿命が延ばせると報道されました。
テレビ朝日では、12月21日“100歳のヒミツ:長寿遺伝子でアンチエイジング”が放映されました。
これらのTVの影響により、“いつまでも健康で若々しく長生きしたい!”と願う多くの人たちの間で、レスベラトロールのサプリメントは大ヒット商品となりました。

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サーチュイン遺伝子
サーチュイン遺伝子の活性化により合成されるタンパク質“サーチュイン”はヒストン脱アセチル化酵素であるため、ヒストンとDNAの結合に作用し、遺伝的な調節を行うという作用メカニズムは、マサチューセッツ工科大学のレオナルド・ガレンテの研究グループが1999年に見出しました。
酵母のSir2(サーツー)と、哺乳類の7種類のSIRT1~SIRT7(サーチュイン)が知られていますが、いずれも高い相同性を示しており、食物不足など環境ストレス因子に応じて活性化され、細胞修復、エネルギー生産などに影響を与えるなど生体機能の調整役として働くとされています。

レオナルド・ギャランテ教授の先駆的な実験では、サーチュインを投与すると、ショウジョウバエの寿命は30%向上、線虫の寿命は50%延びる可能性が示され、その後も多くの追試が行われましたが、これを支持する結果となっていました。

ところが、ロンドン大学ユニバーシティーカレッジのデービッド・ジェムズ氏をヘッドとする研究チームが、2011年9月21日付け英科学誌ネイチャー(Nature)にサーチュインと長寿の間に因果関係があるというのは幻想だという論文を発表しました
タイトル記事は、“Absence of effects of Sir2 overexpression on lifespan in C. elegans and Drosophila” です:
過去の実験の主な問題点は、実験が比較した遺伝子操作された個体と自然の個体との間にあり得るあらゆる相違点を検討していない。
例えば線虫でサーチュインのレベルだけが異なるように慎重に準備した実験では、寿命延長効果はみられなかった。
さらに、過去の研究では人工的に合成したミバエのサーチュインがレスベラトロールで活性化されるとされていたが、今回研究チームが2か所の研究所で複数の手法を使って調べたところ、そのような結果は得られず、サーチュインのためとされていた過去の実験結果は、実際は別の遺伝的要因で起きていたことが分かった。
その上、食事を制限すると寿命が延びるという現象にサーチュインが関与しているという主張も否定した。

つまり、デービッド・ジェムズの研究グループは、サーチュイン以外の要因が寿命延長に寄与しているにもかかわらず、それが見逃されていたという過去の研究の不備を突き、「サーチュインは長寿の鍵とは言えず、寿命延長効果はないとみられる」と結論付けています。

マサチューセッツ工科大学のレオナード・ガランテ教授も、ネイチャーに掲載された「短報」の中で、自身が行った過去の実験には不備があったことを認めています。

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寿命延長の効果はなくても健康上の利点はある!
スイス連邦工科大学ローザンヌ校のCarles Canto氏とJohan Auwerx氏はネイチャーに寄せたコメントで、今回の研究は、イースト菌の寿命の研究から疑問が浮上していたサーチュインの寿命延長効果にとどめを刺したと指摘した一方で、サーチュインは寿命延長の万能薬ではないものの、大きな健康上の利点がある可能性はあると述べています。
直接的or間接的な効果かは別として、サーチュインはマウスなどの哺乳類を、高脂肪の食事や加齢関連の疾病による代謝ダメージから守る効果があることが示されていた。
Canto氏らは、SIRT1の活性化は、全般的な加齢による生理学的な衰えを遅らせ、先天性・後天性の病気の治療として有望なアプローチであることに変わりはないと述べています。
言い換えると、サーチュインは健康な動物の寿命を延ばす効果はないかもしれないが、食べ過ぎによって身体が受けたストレスを緩和する効果がある可能性はあるとしています。

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