第356回 筋消耗の分子メカニズム


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ミトコンドリアは生きている人間の全ての細胞内に存在し、細胞内の生命活動に必要なエネルギーを供給する役割・機能を持つ器官です。特に筋肉細胞(遅筋)の中に多く含まれ、筋肉の収縮に必要なエネルギー(ATP)を作り出します。因みに、筋肉内のグリコーゲンをエネルギーとする速筋には少ないと云われています。

運動は2種類に大別されます。
一つは、ジョギング・水泳・ウォーキングなどのように、体内に酸素を十分に取り入れながら行う有酸素運動で、遅筋(赤筋)が主に使われます(酸化系)。
そしてもう一つが、短距離走や重量挙げなどのパワー系スポーツのように、息を止めて力を瞬発的に使う無酸素運動で、速筋(白筋)が主に使われます(解糖系)

換言すると、
遅筋は、持久力はありますがパワーや瞬発力には乏しい。
速筋は、パワーや瞬発力はありますが持久力に乏しい。

従って、速筋でミトコンドリアを増やし、持久力とパワーの両方を兼ね揃えることが出来たら願ったり叶ったりですが、実は遅筋と速筋の中間的な性質を持つピンク筋と呼ばれる筋肉があるのです。

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ある一定以上の運動強度に達すると,有酸素運動から無酸素運動に切り替わりますが、その変換点をATと言います。運動強度を上げていくと、あるポイントから血中乳酸値が上昇を始めます。このポイントをLT(乳酸性作業閾値)と云い、LT以下で走り続ければ乳酸が蓄積せずに走り続ける事が出来ますが、逆にLT以上で走ると乳酸が蓄積して走り続けられません。実際的にはLTをATと呼ぶこともあり、これら一連の用語は互換的に使われています。

ピンク筋を増強するため、LT付近の強度でのトレーニングが行われます。
しかし、このトレーニングはとても過酷です。

扨て、筋消耗時のミトコンドリアの分子メカニズムが明らかにされました。
難しい言葉が登場するので、先ずは語句の補足説明をしておきます。
オートファジー (Autophagy) は、細胞が持っている細胞内のタンパク質を分解するための機構です。そして、マイトファジー(Mitophagy)とは、ミトコンドリアを選択的に取り込み分解するオートファジーの一つで、特に障害を受けたミトコンドリアの除去を行っていると考えられています。

Cell Metabolism
The Ubiquitin Ligase Mul1 Induces Mitophagy in Skeletal Muscle in Response to Muscle-Wasting Stimuli
Nov7 2012

要約:
最近の研究で、ミトコンドリアの機能不全と、それによって起こるロス(マイトファジー)は、筋消耗の有力な誘導因子であることが明らかになった。しかし、筋消耗時にミトコンドリア機能のデレギュレーションを支配する分子メカニズムは不明である。本研究では、FOXO1/ 3転写因子が関与する機構を介して、筋消耗の亢進がミトコンドリアE3ユビキチンタンパク質リガーゼ1(MUL1)をアップレギュレートしたこと示している。骨格筋と筋芽細胞の培養におけるMUL1の過剰発現は、マイトファジーの誘発に十分であった。一貫して、MUL1発現の抑制はマイトファジーに対する保護だけでなく、筋消耗の亢進への反応で観察される筋消耗を部分的に和らげた。加えて、MUL1の上方調整は、ミトコンドリア分裂を増加させながら、ミトコンドリアの融合タンパク質MFN2のユビキチン化と分解をもたらした。
まとめると、これらのデータは、筋消耗時のミトコンドリア数の低減の分子基盤を説明するものである。