第464回 筋グリコーゲン減少とパフォーマンス向上


画像


福岡大学基盤研究機関身体活動研究所
塩瀬圭佑氏らによる研究論文を引用して紹介します。

筋肉のグリコーゲンを効率的に減らすには? New!
骨格筋グリコーゲンの効率的な減少を目的とした高強度間欠式運動プロトコル
塩瀬圭佑他 体力科学, 60 (5): 493-502, 2011

ヒトの体内にはグリコーゲンと言われる糖質のエネルギー源が貯蔵されています。グリコーゲンは、特にマラソンなどの持久性運動中、重要な役割を担っています。これまで、骨格筋グリコーゲンを一時的に減少させることで、高糖質食摂取によるグリコーゲン再貯蔵 (グリコーゲンローディング)の効果が高まることや運動トレーニングの効果をより享受しやすい状態になることが報告されています。したがって、グリコーゲンをいかに簡単に減少できるかは競技パフォーマンスの向上を考えるうえでとても重要なポイントになるといえます。

通常グリコーゲンを減少させる場合、あまりきつくない程度の持久性運動を長時間行います。一方、よりきつい運動を行った場合では短時間に多くのグリコーゲンが消費されることもわかっていましたが、このような運動をわずかな休息のみを挟み繰り返しても途中からグリコーゲンはほぼ消費されないことが分かっていました。これは、あまりきつい強度の運動を行うと筋のpHが低下し、グリコーゲンを消費するのに必要な酵素の働きやパワーを発揮するのに必要なカルシウムイオンの受け渡しが上手くいかなくなるためであると予想されています。

今回私たちは、より効率的なグリコーゲンの減少方法を確立するため、全力運動の間に十分な休息を挟み実施した場合の骨格筋グリコーゲン量の変化を調べました。本研究では、 (1) 全力運動を4分の休息を空けて4回  (2) 1,2回目の全力運動後、30分間の消極的休息(安静状態)を挟み3,4回目の全力運動  (3) 1,2回目の全力運動後、30分間積極的休息 (軽強度での自転車運動)を挟み3,4回目の全力運動 の3条件で運動を実施し、グリコーゲン量の変化と運動中に発揮されるパワーを比較しました。その結果、条件(1)よりも条件(2)の方が、条件(2)よりも条件(3)の方が発揮されるパワーが大きく、グリコーゲンは条件(2)よりも条件(3)でより低値まで減少することも明らかとなりました。

これまでの研究結果と比較すると、中強度での持久性運動に比べ条件(3)ではより短時間で低値までグリコーゲンを減少できることが期待できます。確かにきつい運動ではありますが、練習に十分な時間をとれないような場合はこのような方法をトレーニングに取り入れてみるのもいいかもしれません。

楽々実施できる高強度運動とその効果 New!
Effectiveness of sub-maximal intermittent exercise on muscle glycogen depletion, PGC-1α and PDK-4 gene expression.
Shiose et al. Open Journal of Molecular and Integrative Physiology 2: 119-126, 2012

「筋肉のグリコーゲンを効率的に減らすには?」というタイトルの論文紹介でもお伝えしたように、グリコーゲンをいかに簡単に減少できるかは競技パフォーマンスの向上を考えるうえでとても重要なポイントです。グリコーゲンは一般的に長時間のきつくない程度の運動によって減少されますが、以前ご紹介したように、全力での運動を十分に休みながら実施することでより効率的に減少できます。しかし全力での運動は身体への負担が大きいというデメリットがあり、より多くの方に応用できる方法の検討が必要でした。

また近年の報告では、グリコーゲンが減少した状態ではperoxisome proliferator-activated receptor gamma coactivator 1-α (PGC-1α) や Pyruvate dehydrogenase kinase 4 (PDK-4)といわれる遺伝子の発現が高まることが知られています。PGC-1αはエネルギーの産生器官であるミトコンドリアの機能や量を高め、PDK-4はミトコンドリアでの脂質代謝量を向上させる重要な役割を有しています。しかし、これらの遺伝子の発現がグリコーゲンの減少程度に応じたものであるかは明らかではありません。

そこで今回の研究では、全力に至らない程度の比較的高強度な運動を用い簡易にグリコーゲンを減少させる方法を検討すると共に、このような運動を実施した場合のPGC-1αとPDK-4の遺伝子発現に関して調査しました。

対象者は2条件の運動を行いました。一つの条件では最大酸素摂取量の100%に相当する負荷値で1分間運動し (IE100%)、もう一方の条件では最大酸素摂取量の80%に相当する負荷値で75秒間運動しました (IE80%)。どちらの条件も運動間には4分の休息を挟み、計12回運動を実施しました。その結果、両方法は過度な身体的負担なく実施できると共にIE100%では約60%, IE80%では約45%のグリコーゲンが減少することが明らかとなりました。また、PGC-1αとPDK-4の遺伝子発現はいずれも運動前にくらべ運動後で向上しており、さらにグリコーゲンの減少程度が大きかったIE100%ではPDK-4の発現がより高いことが明らかになりました。

今回認められたグリコーゲンの減少程度であれば、その後より筋肉にグリコーゲンを再貯蔵しやすい状態になることや運動トレーニングの効果をより享受しやすくなることが十分に期待されます。また、わずか〜75秒の少しきつめの運動と十分な休息から構成される運動方法は、楽々実施することが出来ます。PGC-1αとPDK-4の働きを考えれば、競技成績の向上はもちろん、生活習慣病の予防・改善効果も期待できるかもしれません。一度実践してみてはいかがでしょうか。