第557回 糖質制限ダイエット vs インスリン


久しぶりにヤフー知恵袋を覗いてみました。
一部の “糖質カット狂信者”と称される人たちの、非科学的かつ独善的で、而も品位を欠く横暴な言動がひときわ目立ちます。おまけに某医師の糖質制限ダイエット本をクドイほど紹介しているのも見るに忍びません。
このような中で、特定少数の優良回答者の皆さんの御活躍ぶりに、衷心よりエールを送りたいと思います。

画像


欧米で典型的な低炭水化物/高タンパク質ダイエットと言えば、“炭水化物20%未満、脂質50%以上、タンパク質30%”を意味します。話題のスーパー糖質制限ダイエットの栄養比率は、凡そ“糖質12%、脂質56%、タンパク質32%(低炭水化物/高脂肪/高タンパク質)”となっており、『血糖値を高めるのは糖質だけである。炭水化物を摂取さえしなければ、カロリーを気にせずに肉や魚をお腹いっぱい食べられる。しかも空腹感を感じにくいのでストレスが少なく無理なく痩せられる』といったセンセーショナルなキャッチフレーズを並び立てていますが、この考え方には大きな落とし穴があるので解説しておきます。

画像

『糖質』とは、一口で言うと「炭水化物から食物繊維」を引いたものです。「糖類」は『糖質』に含まれ、「二糖類(砂糖、乳糖、麦芽糖)+単糖類(ぶどう糖、果糖)」を指します。

糖質制限ダイエットの図式は、『糖質摂取→血糖値スパイク→インスリン分泌→脂肪蓄積→肥満』で、“糖質を摂取すると血糖値が高まりインスリンが分泌されるが、インスリンには血糖値を下げるだけでなく、脂肪を蓄積する作用がある。従って、根源の糖質を制限することによって肥満への流れを断つ”というものです。
確かに、血糖値に大きなインパクトを与えるのは炭水化物だけです。しかし、タンパク質がインスリンの分泌を高めることを彼らは見落としているようです。

米国ミネソタ大学の研究で、タンパク質(分岐アミノ酸)は血糖値を高めないが、インスリンの分泌を高めることが報告されています。

<内容骨子>
炭水化物をタンパク質に置き替え、つまり炭水化物の摂取エネルギー比率を55%→40%に減らし、タンパク質を15%→30%に増やした。
その結果、食後血糖値は減少、インスリン濃度は増加、グリコヘモグロビンは減少した。
腎機能には変化はなかった。

グラフ-1
グラフの白線は健康な人がタンパク質50g(ビーフ)を摂取したケースですが、血糖値は食後5時間高まっていないにも拘わらず、インスリンは顕著に分泌されています。
他方、黄線は2型糖尿病患者で、血糖値は高レベルから始まっていますが、タンパク質50g(ビーフ)を摂取すると2時間は横ばい状態ですが、やがて下がり始めます。2型糖尿病患者のインスリン分泌量は、健康な人の4倍分泌されています。

画像


グラフ-2
2型糖尿病患者が、“グルコース50g(ピンク)”および“グルコース50g+タンパク質25g(黄色)”を摂取後5時間のグルコースエリア反応です。

画像


グラフ-3
2型糖尿病患者が、“グルコース50g(ピンク)”と“グルコース50g+タンパク質25g(薄緑)”を摂取後5時間のインスリンエリア反応です。タンパク源は、beef(ビーフ)、turkey(七面鳥)、gelatin(ゼラチン)、egg(卵白)、cottage cheese(カッテージチーズ)、fish(魚)およびsoy(大豆)であるが、その中で反応が一番小さかったのは卵白で190%、最も大きかったのはカッテージチーズで360%だった。

画像


グラフ-4
グリコヘモグロビン%(tGHb)は、ヘモグロビンにグルコースが結合した糖化物のことで、血糖値が高ければ高いほど増加するが、2型糖尿病を被験者とした5週間の本研究では、
タンパク質の摂取が15%の場合8.0%から7.3%、タンパク質の摂取が30%の場合8.1%から7.3%にそれぞれ減少した。

画像


<補足説明:>
私は日本糖尿病学会の廻し者ではありません (^.^)
ダイエットの目的や個別性に応じて、炭水化物の摂取量を然るべく制限することに異論はありません。しかし、特定ホルモン而もその一部の作用のみを注視し、木を見て森を見ずになってはいけないということを力説したいのです。ビジネスでもなんでもそうですが、物事は「点」だけでなく、大きな視点から「面の展開」で捉えることが重要です。グローバルなマーケット動向に疎い企業家も然り、海外の一流文献を幅広く読んでいない医療関係者ほど狭小的な見方をする傾向にあります。
“第345回の摂取したカロリーの体内での吸収と利用” “第230回のダイエット vs 食事の質” など随所で説明しているように、脂肪減少の絶対量は、栄養素構成がどうであれ、エネルギー収支の欠損に因って決まるのです。

百家争鳴!
以弁飾知!

応用生理学や栄養生化学の知識が不勉強な医師、質の低いトレーナー、或いはスポーツ栄養学に疎い栄養士までもが、通説を非難することで名を馳せるべく、玉石混淆の情報をまき散らします。

御如才なきこととは思いますが、ダイエットと一口で言っても、医療的な見地から見た健康増進を主眼としたもの、或いはスポーツパフォーマンス向上や美容を目的としたものがあり、更に糖尿病患者と健康な一般人(思春期/成人/中高年)の明確な棲み分けも無く、糖質カットという特定のダイエット法のみを以て、これらすべてを同じ土俵で単一的に語ることに無理があります。

加えて、カロリー制限であれ糖質制限であれ、ただ体重を減らすだけなら食事管理のみで解決できますが、お腹回りや上腕のタルンタルンを取り除くなどボディメイクを目指すのなら、エクササイズが不可欠であること、延いてはそれに見合った適切な栄養管理が肝要であることを失念しないでください。
ニューメラシー層(or 無知は至福)に主眼を置いた糖質制限ダイエットのコンセプトで理想的なボディメイクに臨んでも、必ずや大きな壁にぶつかってしまうでしょう (^.^;)

関連記事
第172回の食事のバランス
第321回の高脂肪食は運動しても肥満を誘引する
第551回の糖質制限ダイエット vs 減量効果
第548回の米国糖尿病学会が推奨する栄養療法