第560回 腹部・ヒップ・大腿部の肥満を徹底解明 Part3


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臀部・太ももの脂肪 vs 代謝リスク
臀部・太ももの脂肪が代謝リスクと関連するメカニズムはあきらかになっていません。
しかし、臀部・太ももの脂肪組織の貯蔵容量は、身体中央部の脂肪量レベルの決定に役割を演じていると考えられます。
非肥満女性における最近の無作為化対照試験では、脂肪吸引で太ももの脂肪を除去すると、腹部に優先的に脂肪が再蓄積しました。このことは、末梢部での脂肪貯蔵が、中央部の脂肪部位の拡大を防いでいることを示唆しています。
このような "脂肪の再分布"が、長期的に代謝リスクに影響を及ぼしていると思われます。
しかし、臀部・太ももの脂肪組織が、代謝に活性的な役割を果たしている可能性も否定できません。
雄マウスでの研究では、鼠径部皮下脂肪の移植は、腹腔内の精巣上体に比べて、体重増加が抑えられ耐糖能が向上しています。
一方、他の研究室では、腹腔内に精巣上体脂肪を移植しても耐糖能が改善することが報告されています。雌マウスの皮下脂肪が潜在的な効果を持っているかどうかは判っていないので、現在その研究が行われています。

脂肪組織の代謝機能における性差
脂肪組織の主要な機能は、適切かつ高度に調整された貯蔵とエネルギーの放出です。
循環中の遊離脂肪酸(FFA)又はリポプロテインリパーゼ(LPL)の作用を介したカイロミクロン、VLDL及び中性脂肪由来の遊離脂肪酸(FFA)は、細胞内中性脂肪として蓄えられます。貯蔵された中性脂肪は食間や飢餓状態に応じて動員されますが、この時にインスリンとカテコールアミンが主要な調整シグナルとして作用します。
中性脂肪の貯蔵と動員の統合的調整は、脂肪組織の内分泌系の機能とともに、全身の代謝に不可欠です。
臀部・太ももの脂肪に対する腹部の脂肪での性差については詳しくレビューされてきているので、此処では性別の特性を強調します。

脂肪組織でのエネルギー貯蔵:男女間の微妙な差
性差による違いで、女性が皮下の脂肪細胞に、男性は腹腔内に貯まりやすいと考えることはリーズナブルであり、実際にin vitro試験で、女性の皮下脂肪細胞組織には、男性に比べてLPL活性化、脂質合成およびインスリン刺激性グルコース取り込みがより高くなっていました。しかし、in vivo研究では答えはもっと複雑であることを示しています。

<小生の補足説明>
vitroはガラスの意で、in vitroは「ガラス器の中で」という意味です。
in vivoは「生体内で」という意味で、生物体での現象を指すのに対して、in vitroは生物体からの抽出物で観察される現象を指します。
因みに、ex vivoは培養組織や培養細胞で観察される現象を指します

女性は、食事由来のFA(脂肪酸)を、男性に比べて高い割合(38%:24%)で皮下脂肪に蓄えますが、これは皮下脂肪の質量の大きさに因るものであって、腹部・臀部・大腿部における脂肪組織の単位当たりのFA(脂肪酸)の取り込みは男女間で同じです。一方、男性では内臓脂肪による食事由来のFAの取り込みは、相対値及び絶対値のいずれにおいても女性を超えます。
したがって、食後のFFA(遊離脂肪酸)の貯蔵の違いは、男性では内臓脂肪組織の拡大に寄与する可能性が高いですが、女性では皮下脂肪組織の拡大に寄与する度合いが低いようです。
しかし、特定の条件下では、末梢部の皮下脂肪デポに脂肪を貯蔵する傾向は、女性でより明らかになっています。高カロリー/高脂肪食に反応して、脂肪組織に貯蔵される脂質グラム当たりの食事由来の中性脂肪は、男性に比べて女性の臀部・太ももの皮下脂肪組織で優先的に増加します。
さらに、臀部・太もも部が肥満している女性では、食事性脂肪は腹部の皮下脂肪組織よりも、末梢部でより効率的に蓄積されます;上体肥満女性や肥満男性ではそのような部位的な違いはありません。
これらの知見は、LPL活性化がデポにより異なるためであると考えられ、循環中性脂肪の取り込みにおけるレート決定のステップとなります。
LPLへの性ステロイドの作用のデポ別差異の評価を含め、デポ・性別特有の現象についてのメカニズムを評価するには更なる研究が必要です。
食後の脂肪組織での純脂肪蓄積には脂肪分解を阻害することが必要ですが、血液中のインスリンレベルが高まることで達成できます。
このメカニズムは、末梢部肥満の女性に比べて、男性および上半身肥満の女性において効果が低くなります。
インスリン感受性(女性がより高い)の違いは、閉経後の女性ではなく閉経前の女性の単離脂肪細胞のin vitro試験で再現されます。
男性や上半身肥満の女性に見られる“有害な食後の代謝プロファイル”と必然的に関連付けることもできます。
かつては摂食状態で、LPLを介して中性脂肪を多く含む循環リポタンパク質からの脂肪酸の取り込みが、脂肪組織への脂肪酸供給の主要または唯一のメカニズムであると考えられていましたが、吸収後状態での循環FFAの直接摂取の重要性が認められています。
この経路は、明確な性的二型を示しています。女性の体脂肪に占める循環FFAの割合は、全身レベルで2倍です(4.0%:8.2%)
更に、リーンな男性での循環中の遊離脂肪酸の貯蔵は、腹部に比べて太ももは効率性が低いですが、リーンな女性ではデポの差は示されていません。
肥満者の場合、FFAの直接取り込みは、女性の太ももの脂肪組織で特異的に高まります。
女性の末梢部脂肪デポも、女性の腹部の皮下脂肪や男性の皮下脂肪デポに比べて、身体活動(ウォーキング)時もFFA貯蔵により効果的です。
上述したように女性の内臓脂肪での貯蔵は低質量ですが、これに反してFFAの直接取り込みは女性の大網脂肪組織(内臓脂肪デポ)に顕著に認められます。従って、直接取り込んだFFAの滞積容量は、恐らく内臓脂肪の主要な決定要因ではないと考えられます。因みに、大網とは、胃の下部から垂れて腸の前面を覆う脂肪に富んだ薄い膜で、胃腸を保護しています。

要約しますと、男女間の脂肪滞積の違いは、部分的に次の二つの理由で発生すると考えられます:つまり、
a)女性では、皮下脂肪による吸収後直接FFA(遊離脂肪酸)の優先的な取り込む
b)男性では、内臓脂肪による食後の食事由来のFFA(遊離脂肪酸)取り込みの亢進

脂肪組織からのエネルギーの放出
女性の脂肪組織では脂肪分解がより活性的である。
通常の脂肪酸の恒常性を達成するためには、脂肪組織でのFFAフラックス(流束)を全身のエネルギー所要量とマッチさせる必要があります。
他の組織のニーズを上回る過剰なFA分泌は、循環FFAレベルやフラックスを昂進させることにつながり、インスリン抵抗性、異所性脂質蓄積、および脂肪毒性に次々と発展していきます。
したがって、総FFAフラックス(流束)は全身のエネルギー所要量(安静時エネルギー消費量)と密接に相関していることは驚くに当たりません。女性の方が高脂肪レベルであることを考えると、FFAリリース(脂肪分解)は、男性に比べて抑制されているという仮説が立てられます。反対に、女性の方が安静時エネルギー消費量に関連する脂肪分解が(約40%)有意に高い。
女性は、高エネルギーを必要とするエクササイズ中に、男性よりも脂肪酸化への依存度が大きいので、有害な結果を引き起こすことはありません。したがって、脂肪分解の亢進は女性におけるFFAの優先使用に適合したメカニズムと云えます。
他方、FA酸化が男女間で同程度の時は、女性の脂肪分解率は安静時の条件であっても男性よりも高くなっています。これは循環FFAのレベルが~15%より高いことと関連付けられていますが、全身の代謝上への悪性影響とは関連しません。それは女性にとってインスリン感受性を維持するには、代替的にFFAを効果的に処分しなければならないという論理になります。
確かに、最近の研究では、女性がより高い非酸化FFA処理(すなわちエステル化しトリグリセリドとして貯蔵)を示し、一晩絶食した後に、“VLDL-TGへの結合”よりも“ケトン体への肝酸化にFFAを優先的に分配する”ことが実証されています。
FFAはまた、前述の直接FFAの取り込み経路を通って脂肪組織にシャトルバックすることができます。
全身の脂肪分解での性差は、男女の循環FFAの循環の主要な供給源である上体腹部の皮下脂肪で生じるように思われます。
女性の腹部皮下脂肪でのノルエピネフリン刺激による脂肪分解は、vivoおよびex vivoの両方で男性を超えています。同様に、運動後の循環グリセロールの増加は、男性に比べて女性で高まります。同様に、腹部皮下脂肪によってグリセロールがリリースされます(性差による違いは臀部・太もも大腿部の皮下脂肪での性差はなかった)。
長時間の絶食(最大72時間)は、カテコールアミンレベルと同様の上昇を示しますが、男性に比べ女性では脂肪分解の促進を阻害するようになります。
ex vivoとin vivoでの脂肪分解の亢進が男性ではより高い内臓脂肪については、その反対のことが当てはまります。しかし、これは門脈循環を介する肝臓へのFAフラックスにはより大きく影響し、全身のFFAフラックスには殆ど影響しません。最後に、男性ではex vivoでの脂肪分解は後腹膜デポよりも腹腔内デポ(大網と腸間膜)でより高く、女性ではこれと反対のことが起こりますが、これら観察のin vivoつまり生体内における生理的な意義は明らかになっていません。
纏めますと、
男性に比べて女性は、脂肪組織に貯蔵されている中性脂肪の動員率が高く、その理由としては、エクササイズのような高エネルギーが必要な条件下では、エネルギー源として遊離脂肪酸により依存するからだと考えられます。同時に、女性は遊離脂肪酸の使用により効率的で、延いてはインスリン感受性を保持します。しかし、脂肪分解のデポ差は、男性に比べて女性での末梢部の脂肪滞積の説明とはなり得ない。

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