第617回 インスリン分泌を高めるのは糖質だけ??


「インスリン分泌を昂進させるのは糖質だけです」と云う誤情報が流布されていますが、タンパク質(特に分岐鎖アミノ酸)がインスリンの分泌を促進させることは周知の事実であり、このことは数多くの文献が示していることです。
タンパク質を多く含む食品群がインスリンのスパイク(急上昇)の原因になることは、既に “第557回の糖質制限ダイエットvsインスリン” でも説明しましたが、今回はもう一件のピアレビュー(査読)論文を紹介したいと思います


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インスリン指数(Insulin Index)って何だかご存知ですか?
インスリン指数とは、食物を摂取した後にどれだけ多くのインスリンが分泌されるのかを表すものです。しかし、グリセミック指数(GI値)についての査読論文は240件有余ありますが、インスリン指数に関する文献は限定されています。インスリン指数という用語でMEDLINEに記載されている査読文献はたったの16件だけで、その中でも食品比較の結果を報告しているのは1件のみです。

その研究とは、American Journal of Clinical Nutrition 1997に掲載されている "An Insulin Index of Foods:The Insulin Demand Generated by 1000-kJ Portions of Common Foods" で、食品38アイテムのグリセミックスコアとインスリンスコアについて述べています。
今回の主目的は、論文の内容そのものの紹介ではなく、各食品アイテムのインスリン分泌を比較することですので、分かり易くまとめた一覧表とグラフをベースにして、ポイントのみを説明したいと思います。

グリセミック指数は、ブドウ糖50gを摂取後2時間までの血糖値上昇率を100として、食品の炭水化物50gを摂取した際の血糖値上昇を相対値で表すものですが、グリセミックスコアとインスリンスコアは、食品1000kj(≒240kcal)当たりの白パンを100として比較した値です。
基本的には、グリセミックスコアの低い食品のインスリンスコアは低く、逆にグリセミックスコアの高い食品はインスリンスコアが高くなっていますが、必ずしも全てがその限りではありません。

例えば、グリセミックスコアは低いけれどインスリンスコアが高い食品として、美味しくてもっと食べたくなるエネルギー密度の高い乳製品が特筆されます。この論文にもチーズのインスリンスコアが示されていますが、チーズの中でもカッテージチーズやリコッタチーズはインスリン指数が非常に高いことが知られています・・・2型糖尿病患者を被験者とする他の研究で、“グルコース50g”と“グルコース50g+タンパク質25g”を摂取後5時間のインスリンエリア反応で、卵白の190%に対してカッテージチーズは360%だったと報告されています。

タンパク質と脂質だけで炭水化物を含まない肉類、魚、卵などの幾つかの食品は、GI値がゼロであっても血中インスリン濃度を有意に高めます。

オールブランとはケロッグ社が販売するシリアルの商品名ですが、魚や牛肉はオールブランよりもインスリンのスパイクが大きいです。

“タンパク質が多く含まれている食品”と“脂質と精製された炭水化物が多く含まれているベーカリー製品”は、血糖反応に比べてインスリン反応が不釣り合いに大きいです。

加工されたベイクドビーンはグリセミックスコアが最も低い食品の一つですが、インスリンスコアは非常に高いです。

レジスタントスターチ(難消化性澱粉)とは、胃や小腸で消化・吸収されることなく大腸まで達するデンプンのことで、自然界では豆類や未熟なバナナに多く含まれています。レジスタントスターチが豊富な食事を摂取すると食後の血糖やインシュリンの上昇が緩やかになります
しかし、加工するとレジスタントスターチが失われ、インスリンスコアが高くなります。

社会学者(実証的研究)J.S. Coleman氏のように、インスリン指数はグリセミック指数より優れていると指摘する人たちもいますが、インスリン指数とグリセミック指数の優位性を比較することは今回の主旨ではありません。グリセミック指数を軽視して良いとも思ってはいません。『インスリン分泌を昂進させるのは糖質だけと云う情報はウソである』ことが分かって頂ければそれで十分です。

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<ご参考>
Internal Medicine News
“Novel food insulin index algorithm improved glycemic control”

アメリカ糖尿病学会年次学術集会で、シドニー大学のStephen Colagiuri教授は、“当該インスリン指数のアルゴリズムは、炭水化物をカウントの必要も無く1型糖尿病にも安全性・有用性が認められた”ことを発表しています。1型糖尿病の成人28名を被験者としたトリプル無作為化クロスオーバー比較試験で、インスリン指数を用いてインスリン投与量を推定することで、低血糖リスクも無く食後の血糖値を緩やかに出来たことが報告されました・・・ Diabetes Care 2011 Oct;34:2146-51