第753回 超低炭水化物食が運動能力と耐性に及ぼす影響

30%カロリー制限した超低炭水化物食が肥満成人の運動能力と運動耐性に及ぼす長期効果について、University of South Australia大学のThomas P. Wycherley博士らから報告がありました。

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Journal of the American College of Nutrition
Jul2 2014
Long-Term Effects of a Very Low-Carbohydrate Weight Loss Diet on Exercise Capacity and Tolerance in Overweight and Obese Adults

目的:
カロリー制限した超低炭水化物食(LC)と同カロリーの高炭水化物食(HC)が、過体重および肥満の成人の運動能力と運動耐性に与える長期効果を比較する。

方法:
男性25名を含む76名の成人(年齢49.2 ± 1.1歳; BMI 33.6 ± 0.5 kg/m2)に、低カロリー(女性6Mj≒1429kcal、男性7Mj≒1667kcal/日)の超低炭水化物食(炭水化物4%/蛋白質35%/脂質61%)または同カロリーの高炭水化物食(炭水化物46%/蛋白質24%/脂質30%)を割り当てた。期間は52週間。
介入前後に体重や体組成、ハンドグリップ、等尺性膝伸展筋力を評価し、オールアウト増分運動負荷試験を実施した。

結果:
43人が試験を完遂した(超低炭水化物食群:23名、高炭水化物食群20名)
全体として次のような増減が生じた(P ≥ 0.18)
相対的な最大酸素摂取量:増加(+11.3%)
体重:減少(-14.6%)
体脂肪率:減少(-6.9%;absolute)
等尺性膝伸展筋力:減少(-12.4%)
ハンドグリップ強度:減少(-4.5%)
絶対的な最大酸素摂取量:減少(−5.2%; p ≤ 0.02 time for all)・・・食事との相互作用なし。

最大下運動中では、主観的運動強度の評価は両グループ共に変化は認められなかった(p = 0.16 time, p = 0.59 Time × Group)
高炭水化物食グループに比べて、超低炭水化物食グループでは呼吸商の減少が大きく(超低炭水化物食:−0.04 ± 0.01、高炭水化物食:−0.00 ± 0.01; p = 0.03)、脂肪酸化が増加した(超低炭水化物食:消費エネルギーの15.0 ± 5.3%、高炭水化物食: 0.5 ± 3.9%; p = 0.04).

結論:
過体重や肥満者では、超低炭水化物食は最大下運動中の脂肪の利用度を高めた。超低炭水化物食および高炭水化物食のいずれも、有酸素運動能力と筋力に及ぼす影響は同様であり、このことは減量のために超低炭水化物食を長期に採り入れても、身体機能や運動実行能力に有害な影響を及ぼさないことを示唆している。

マイコメント
同研究チームによる先行の過体重/肥満者を被験者とした8週間の短期研究で、主要評価項目である超低炭水化物食による身体機能や運動耐性への有害性は認められず、逆に脂肪酸化(燃焼)が高まったことが報告されましたが、今回の論文では52週間の長期試験を実施して先行試験の結果を肯定しています。
つまり、従来の研究では超低炭水化物ダイエットで運動すると、筋グリコーゲンや肝グリコーゲンが枯渇し、疲労や脆弱などの副作用をもたらすことが懸念されましたが、本論文は“カロリーが同じであれば、超低炭水化物と高炭水化物が運動機能/疲労感/運動強度に及ぼす影響に有意差は無い”ことを示しています。

次いで、先行研究での体重、BMI、脂肪量およびFFMの変化(下表)は、副次評価項目ゆえに信頼度の点で疑問は残りますが、超低炭水化物が高炭水化物食に勝っています。
研究者は、同カロリーだが食べるもので減量の群間差が出ると強調していますが、被験者は“men and women (BMI 26–43 kg/m2) with abdominal obesity and at least one other metabolic risk factor”、つまり、“BMI:26~43の腹部肥満で少なくとも一つの他の代謝リスク因子を有する男女”とあり、ここでも当ブログが指摘したインスリン抵抗性の有無が一要因となっている可能性を否定できません・・・尤も、インスリン抵抗性が8週間程度で臨床的にどれほど大きなインパクトを及ぼすかという疑問は残るので、更に追求する必要があるのではないかと思料しますが。
亦、自己報告ではありますが、摂取量についてはカロリー30% 減の規定食が割り当てられ、身体活動量についてはベースライン時の両群の身体活動スコア(任意単位:LC 7.0 ± 1.1 vs HC 7.1 ± 1.2)で差異が無く、8週間後も不変だったと報告されています(P = 0.90).
性差による違いについては分からないとしながらも、ホルモン分泌が影響しているのではないかとの見方をしています。

今回の52週間の研究論文においても、両群ともに摂取カロリーを女性~約1400kcal、男性~約1700kcal/日の低カロリーに抑えているので、減量および脂肪減少は当然至極と云えますが、両群の減量幅に特筆すべき違いが生じているのかどうかは、フルセンテンスを購読していないので詳しいことは分かりません。若し全文をお読みになった方がいらっしゃいましたら教えてください。

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ついでながら、
ここで糖質制限ダイエットの減量効果について“おさらい”しましょう!

糖尿病に関する栄養療法については、『全ての糖尿病患者に有用と決定づけられる理想的な食事パターンはない。糖尿病患者にとって、どの食事パターンを選ぼうとも重要なのは総エネルギー摂取量である。食事のパターンは、食品のアベイラビリティや特定の健康食品への理解、更に個人の嗜好/文化/宗教/知識/健康信念/予算/収入の問題などによって影響されるので、これらの諸要因を各人個別化評価して考慮すべきである』 と、米国糖尿病学会は直近の公式声明で述べています。

インスリン抵抗性を有している肥満者については、 “第706回のダイエット vs インスリン抵抗性” および “第704回のダイエット vs インスリン感受性” で説明した通り、低炭水化物食が減量に有効であることは論理的に頷けます。

ところが、インスリン感受性やニューメラシー及び認知能力に全く問題のない健常な一般人向けのダイエット、或いは、成長期の子供にまで見境なく、全ての人に対して所謂スーパー質制限ダイエットの優位性を絶対的/排他的に推奨し続ける人たちが相も変わらず散見されますが、その裏付けとなるしっかりした長期的なエビデンスは存在しません。
何度も繰り返しますが、医師が書いたダイット本や週刊誌記事などはエビデンスではありません。

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