第871回 糖質制限ダイエットをめぐる都市伝説


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低炭水化物(糖質制限)ダイエットは素晴らしい。
肥満、生活習慣病、糖尿病は世界的にも大きな健康問題となっているが、低炭水化物ダイエットを採り入れることで、これら通常疾患や重篤疾患が快方に転じ得ることが研究で明らかになっている。

低炭水化物ダイエット狂信者と呼ばれる人たちはこのように標榜していますが、ここ数年で低炭水化物(糖質制限)コミュニティの間で多くのドグマ(教説)が着実に拡大深化してきており、科学的根拠のない多くの神話で足場を固めてしまっているようです。

この様な現象は危険な集団思考(集団浅慮)によって導かれた不合理な結果と言えるでしょう。これは栄養界では頻繁に見受けられることで、往々にして科学に対する歪んだ偏見を生み出しかねません。

独断的で過激的な考え方は、低炭水化物ダイエットが広く受け入れられる一助とはなりません。インテリ層はこの種の議論に辟易して遠ざかってしまうし、一般の人たちは非科学的な情報に戸惑い混乱に陥ってしまうからです。
もう同じ間違いを繰り返すのは止しましょう。

低炭水化物ダイエットをめぐる10の神話


1.低炭水化物は誰にとっても最高のダイエットである

低炭水化物ダイエットは超健康的です。
現状では、世界各国の栄養機関・組織は瑕疵ある低脂肪ダイエットを推奨しています。
ところが、低炭水化物ダイエットの方が体重減少の効果は大きく、病気に対する殆どのリスク因子を改善できることを複数の研究が一貫して示しています( 文献1 文献2 文献3 )

この様に喧伝されていますが、低炭水化物は誰にでも適するものではありません。

人間には個人差というものがあり、誰かに有効であっても他の人にも同じように作用するとは限りません。私の周りにも低炭水化物ダイエットを頑張った人もいるし、期待した成果が得られなかったのかor 単に性に合わなかったのか理由はともかく、低炭水化物ダイエットを嫌う人も大勢います。

ある人たちにとっては低炭水化物がもっぱら有害なこともあります。
肉体的にアクティブな人たち、特に無酸素運動を沢山こなすアスリートが好例で、座りがちな人たちより多量の炭水化物を必要とします。

私たちのニーズと嗜好は各人で異なっています・・・まさしく十人十色なのです。


2.炭水化物は肥満の元凶である


Sugarと精製された炭水化物が体に悪い事は多くの人が認めていることです。

しかし、そのことを以て全ての炭水化物を悪者扱いすることは、トランス脂肪酸と植物油の有害性を以て脂質は全て悪者だと言うのと同じようなものです。

真実は...すべての炭水化物が肥満の元凶というのは間違いであり、それらを含む食事の種類やコンテキスト(状況/背景など)にもっぱら依存する・・・ということです。

炭水化物で太るには、精製した上で他と組み合わせて超美味に仕上げて過食を促すことが必要なのです。

ジャガイモが良い例です。ジャガイモには食物繊維が含まれ、エネルギー密度が低く、すぐに満腹感を感じるでしょう。しかし、ジャガイモそのものにエキサイトすることはありません。

他方、コーン油でしっかりと揚げて、塩/胡椒/ディッピングソースなどで味付けしたポテトチップスは、食べ過ぎやすく非常に太ってしまう食品になってしまいます。

総カロリーの約70%が炭水化物のパプアニューギニアのキタバ族やアジアのお米を主食とする人たちなど世界中の多くの人たちが、加工を施さないリアルフーズなど高炭水化物食で健康を維持しています。


3.ニンジン、果物、及びジャガイモは炭水化物なので不健康である


炭水化物が含まれているという理由で悪者扱いされた伝統的なリアルフーズをたくさん見てきました。果物、ジャガイモ、ニンジンなどの食品がそうです。

真実は・・・超低炭水化物やケトジェニックダイエットでは、これらの食品を制限することが必須です。しかし、これら食品に何か問題があるという意味ではありません。

人々は往々にして黒と白で物事を見る傾向があります。
食品の場合はbad or goodのいずれかです。
しかし、真実は・・・栄養面ではすべてはコンテキストに依存し、“ヘルシー”は相対的な用語である・・・ということです。

欧米のジャンクフードを食べている人にとっては、ジャンクフードを少しでも果物に置き換えると“ヘルシー”となるでしょうが、ケトジェニックダイエットで症状を管理している糖尿病患者にとっては、同量の果物が“アンヘルシー”になります。

ウェブで挑発的なメッセージを投稿している低炭水化物の狂信者は、コンテキストには一切関係なく人を怖がらせてニンジンや果物から遠ざけようとしていますが、肉や卵について恐怖を植え付けようとする過激なビーガンよりもタチが悪いと思います。


4.低炭水化物ダイエットは必ずケトジェニックでなければならない


ケトジェニックダイエットとは超低炭水化物ダイエットのことで、通常は1日当たり炭水化物50g未満とし、脂質摂取は非常に高くトータルカロリーの60~85%です。

低炭水化物とは一日当たりの炭水化物が100~150g程度、あるいはもっと多いかも知れません。

補足説明
Mr Lyle McDonaldによれば、一般的なダイエットで低炭水化物食と云えば炭水化物をトータルカロリーの20%未満とし、ケトジェニックダイエットは100g未満とするのが通説です。
一方、糖尿病の権威と呼ばれるDr Richard Bernsteinは、低炭水化物食は炭水化物50~130g(10~26%相当)、低炭水化物ケトン産生食は炭水化物50g未満(10%相当)と定義しています。
纏めますと、広義ではケトジェニックダイエットは低炭水化物ダイエットのひとつですが、実際にはこのように異なっています。

糖尿病、メタボリックシンドローム、てんかん、及び肥満などの特定疾患を有する人たちにとっては、ケトーシスは非常に有益な代謝状態と言えますが( 文献4 文献5 文献6)、低炭水化物ダイエットこそが唯一の方法であるということではありません。

超低炭水化物やケトジェニックダイエットが急激な減量や幾つかの疾患状態に非常に効果的だとしても、これは誰にでも通用する訳ではありません。

現実には私の周りにもケトーシスに不快を感じる人が大勢いますが、そんな時には果物を少し追加することで突然気分が良くなり始めました。


5.炭水化物は全てsugarである

全ての炭水化物はsugarにブレイクダウンされるというのは本当ですが、大いに誤解を招く恐れがあります。

技術的に語ると、sugarという単語にはグルコース/フルクトース/ガラクトースのような様々な単糖が含まれています。

糖尿病患者では穀物やジャガイモなどのデンプンは、消化管でsugarに変わり血糖値を上げるのは事実です。

しかし、化学者でない一般の人たちの間では、sugarといえば白くて不健康な粒状のもの・・・スクロースを指します。

一般の人たちに「すべての炭水化物が糖に変わる」と伝えると誤解を招き、ジャガイモとキャンディーバーは一緒なんだと思わせてしまうでしょう。

テーブルシュガー(砂糖)はグルコースと果糖からできていますが、澱粉はグルコースのみです。最も有害とされているのは果糖ポーションであって、澱粉には同様の有害性はありません( 文献7 文献8

デンプンが砂糖や HFC S(異性化糖)と同等であると信じ込むようにミスリードするのは不実な行為です。


6.低炭水化物ダイエットで体重を増やすことは不可能である

炭水化物とインスリンが低い限り体重増加は無理であると考える人がいます。

しかし、真実は・・・低炭水化物で体重を増やすことはとってもたやすい・・・ということです

特に過食しがちな人たちでは、チーズ/ナッツ/ピーナッツ/生クリームといった低炭水化物の食品で太ってしまいます。

これらの食品を大食いするのはとても簡単なので、減量が行き詰ったりリバウンドが起こったりすることさえあります。

私が過食障害だった当時は、ピーナツバターをたくさん食べていました。
有機ピーナツバターを一瓶全部(脂質70%、炭水化物15%)毎晩平らげていましたが、この食行動を止めるまで、体重はまるで時計が刻むように増えていきました。

これら食品は多くの人にとっては問題ありませんが、カロリー制限なしで減量を可能にしたいと思う人であれば、こういった食品を適量に抑える必要があります。


7.バターとココナッツオイルを飲むのはグッドイデアである

数十年に亘って“アンチ脂肪”が広く喧伝されていますが、複数の研究が飽和脂肪酸は無害であることを示しています( 文献9 文献10 文献11

高脂肪の乳製品、脂身の肉、ココナッツオイル、或いはバターを避ける理由はありません。これらは健康食品です。

しかし、標準的な量の飽和脂肪酸なら構わないという理由を以て、食事で沢山とることがグッドアイデアだと考え方を拡大するには無理があります。

近年のトレンディとしてコーヒーにバターとココナッツ油を加えますが、適量であれば構わないと思います。恐らく食欲低下につながるので体重増の原因にはならないでしょう。

しかし、脂肪を毎日20~50g或はもっと食事に加えると、肉や野菜などその他の栄養食品の摂取量が減り偏った食事になってしまいます。


8.カロリーは重要ではない


低炭水化物を実践している人たちの間では、カロリーは重要でないという誤解が罷り通っています。
カロリーはエネルギーの尺度であり、体脂肪は単にエネルギーが保存されたに過ぎません。
我々の体は消費エネルギーより摂取エネルギーが多くなれば、過剰エネルギーは体脂肪として蓄積されます。
摂取エネルギーより多くのエネルギーを消費する場合には、エネルギーとして蓄えられた体脂肪を使用しています。

低炭水化物ダイエットがうまく動作する理由の一つは食欲が減じることです。つまり、自動的に摂取カロリーが少なくなるよう工夫しているので、カロリー計算や一人前を減らしたりするといったことは必要ありません( 文献12 文献13 )

もちろん、これらの食事はインスリンのような重要な代謝ホルモンの機能を最適化しますが、ダイエットがうまく行く主な理由の一つは、意識しなくとも摂取カロリーが抑えられるということです。


9.食物繊維は健康とは無関係である

食物繊維は難消化性炭水化物です。

人間は繊維を消化する酵素を有していないので、それは相対的に変化せずに通過します。

しかし、食物繊維ha健康とは無関係ではありません。

短鎖脂肪酸とは酪酸、プロピオン酸、酢酸などの有機酸のことで、食物繊維やオリゴ糖を腸内細菌が発酵することで生成されます。特に酪酸は腸上皮細胞の最も重要なエネルギー源であり、抗炎症作用など優れた生理効果を発揮します( 文献14

実際に、多くの研究が食物繊維特に水溶性食物繊維が、体重減少やコレステロール改善など種々の健康上の利益をもたらすことを示しています( 文献15 文献16 文献17 )

食物繊維には、何ら作用のないものから健康に非常に有益なものまで数多くの種類があります。


10.低炭水化物が病気を癒すなら、そもそも炭水化物が病気を引き起こしたということになる

代謝的に健康な多くの人は、リアルフーズを食べている限りは、健康に良好な炭水化物を容易に確保していくことができます。

しかし、インスリン抵抗性や肥満を発症すると、代謝ルールに何がしかの変容が生じるようです。

欧米食により代謝不全を起こしている人たちは、すべての高炭水化物食品を避けた方が良いかもしれません。

しかし、たとえ炭水化物を食べないことが病気の回復に必要だとしても、炭水化物が病気を引き起こしたということにはなりません。

健康維持を望む健常な人は、高炭水化物であっても加工されていないリアルフーズを食すことは素晴らしいことでしょう。
予防は治療法と同じである必要はないということです。


Take Home Message(覚えておいてほしいこと)

栄養に関しては、集団思考は大きな問題です。
人は側(味方)につく傾向があります・・・つまり、選択した側に同意する人たちが書いたブログや書籍しか読まないのです。

集団思考はビーガンの間ではとても大きな問題です。科学を歪んだ視点から捉えながら完全に洗脳されているケースが散見されます。

低炭水化物コミュニティでも同様のことが起きています。

集団思考に捉われるだけでなく、常に反対論にも目を向ける必要があります。
科学は日進月歩で進んでおり、今日の真実が明日には間違いだと証明されることもあります。

低炭水化物ダイエットを必要とする人たちを救うために、ビックリするほど凄い利点を推進していくことは良い事ですが、反対意見を無視することや科学を歪めることだけは止しましょう。もっとクールになってください。これが聞き入れられないのならビーガンと同然です。

参照記事
Authority Nutrition
10 Myths within the Low-Carb Community