第872回 耐久性アスリート vs 不整脈リスク


4年前の強靭な松田選手の急性心筋梗塞による突然死は、サッカー界のみならずスポーツ界全体に大きな衝撃を与えました。本研究は持久力が要求されるアスリートを対象にしたものですが、町の足自慢の諸兄も自分を過信しないで心臓検査は受けておいた方が良いのではないですか。

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マラソン、トライアスロン、アルペンサイクリングなど持久力を要する競技に参加するアスリートの中には、心拍の不規則性(いわゆる不整脈)を起こして時には突然死に至るケースもある。

本論文は、「不整脈を検出するに当たって、安静時の左心室および右心室の機能に焦点を置いて診断してしまうと、運動中に生じる右心室不全の重要な兆候を見逃してしまい、致命的な事態に至る可能性がある」というベルギーUniversity Hospitals Leuvenらからの研究報告である。

現在アスリートの不整脈へのルーチン評価は安静時の左心室に重点的に着目しているので、今回の知見は重要な臨床的意義があると言えよう。

血液を肺に送り出す右心室の壁は左心室よりも薄く、運動時に遥かに大きなストレスにさらされ、運動時間が長くなると右心室の一時的な損傷に関連することが、Hein Heibuchel 及びAndré La Gerche両教授による先行研究で既に示されている。

今回の新研究で、La Gerche教授ら研究チームは、右心室に生じる問題は運動中のみであり、安静時には検出されないことを発見した。
La Gerche教授は、レーシングカーがガレージに置かれているときにテストしても、走行中に実際の起きるストレスを査定できないのと同じであると語っている。

研究方法についての詳細は後述しているのでご参照願度が、研究結果のポイントは次の通りです。

安静時の心機能は3群共に同様で、運動時の左心室の機能も同様であった。しかし、運動時の測定では、不整脈なし2群に比べて不整脈あり群では右心室の機能に変化が認められた。

運動時の肺と身体における血圧を測定することにより、右心室は左心室よりも機能を高める必要があることが分かった。つまり、右心室はアスリートの弱点となる可能性があるということである。
普通の健常なアスリートでは、右心室は運動負荷の昂進に耐えられるように機能していた。しかし、右心室に不整脈のあるアスリートでは運動負荷の昂進に応えることが出来ず、この問題は安静時の検査では正確に掴みきれなかったとLa Gerche教授は説明している。

運動中の右心室の機能不全は心筋に損傷があることを示唆している。
この損傷が脆弱性と心リズムの問題を引き起こしている。
脆弱性はシリアスではないが、心リズムの問題は潜在的に生命を脅かす。

本研究で、右心室機能不全を検出する造影方法の性能に殆ど違いはない事が分かった。
非侵襲的な心エコー検査で正確に変化を検出できた。
心エコーの幅広い有用性や費用効率を考えれば、これは非常に重要な発見である。
右心室に焦点を当てた測定は一般的に実施されていないが、本研究で用いられた測定方法は比較的簡単で臨床的ルーチンに組入れやすいであろう。

「運動中の心エコー検査は、われわれが行ったやり方をすれば、すぐに心機能を評価するのに用いることが出来る。ただ心エコー検査には一つ問題があり、MRIに比べると必ずしも画像が鮮明ではない。MRIがますます主流となっていく中で、本研究は心エコーを検査手法の選択肢のひとつとして考える試金石になるのではないかと思う」とLa Gerche教授は述べている。

現在、研究者は侵襲的なカテーテルは用いないが同様の技術でアスリートの検査を行っている。もっと大きなアスリート集団、並びに抱えている問題が深刻なのかどうかさえも認識していないアスリーを対象にして、この研究の正当性を立証することが重要であろう。
しかし、これら知見は少なくとも現在の臨床診療に影響を与え、アスリートの右心室に一層の注意を払うべく心臓医の関心を高めることになるのではないかと考える。
ここで説明している検査は臨床的にいつでも実行できるもので挑戦的な手法ではない。
目を閉じていれば何も発見できないということだ。

付随論説でSt George's University of London (UK)のSanjay Sharma教授およびDr Abbas Zaidiは、「本研究は幾つかの点で斬新かつ重要である」、「特筆すべき点は、“右心室の検査が潜在的に致命的な不整脈を呈するアスリートのリスク評価において、不可欠な構成要素である”ということと、”右心室は持久力が要求されるアスリートにとって真のアキレスであるということが認識されてきた“ということである」と記述している。

参照記事
Science Daily
June 2, 2015
Endurance athletes should be tested while exercising for potentially fatal heart condition


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研究論文
European Heart Journal
June2 2015
Exercise-induced right ventricular dysfunction is associated with ventricular arrhythmias in endurance athletes

持久力が要求されるアスリートでは運動誘発性の右心室機能障害は心室性不整脈と関連する。

目的:
激しい運動はアスリートの右心室(RV)に過度に不均衡な負担をかけ、催不整脈性リモデリングを促す可能性がある。
運動時RVのイメージング検査(画像診断)をすることで、不整脈リスクのあるアスリートの早期発見が可能になると考える。

方法および結果:

被験者
RV心室性不整脈を有するアスリート17名を被験者としてイメージング診断を行った。その内8名(47%)は体内に除細動器(ICD)の植込み手術を受けている8名、健常な持久力が要求される運動選手10名、及び非アスリート7名の3群を対象として検査を実施した。

検査方法
非侵襲的な超音波を用いた心エコー検査で、RV収縮末期圧-面積比、RV面積変化、および三尖弁環状の収縮期流速を測定した。
侵襲的なカテーテル検査(肺循環と体循環の動脈圧)と心臓MRI検査を組み合わせて、左心室(LV)及びRVの収縮末期圧-容量比、両心室容量(体積)及び左室駆出分画を測定した
いずれの検査も安静時および激しい運動時に行った。

検査結果
安静時の心機能は全ての群で同様であった。
運動時の左心室の機能も全ての群で類似していた。
しかし、除細動器(ICD)の植込み手術を受けているアスリートは、健常なアスリート及び非アスリートと比べて、運動することでRV収縮末期圧-面積比、RV面積変化、および三尖弁環状の収縮期流速が減少した(P < 0.0001 for interaction group × workload)。

運動時の心臓MRI検査では、除細動器(ICD)の植込み手術を受けているアスリートは、健常なアスリート及び非アスリートと比べて、RVの収縮末期圧-容量比の減少、およびRVの収縮末期圧-容量比と左室駆出分画の増加が有意に小さかった(P < 0.01 for the respective interactions)

ROC曲線(受信者操作特性)は除細動器(ICD)の植込み手術の有無によって、運動時のRV測定に明確な違いがあることを示した [AUC for ΔRVESPAR=0.96 (0.89–1.00), P < 0.0001]

結論:
安静時に心臓機能が正常でも、植込み型除細動器(ICD)の手術を受けたアスリートではRV収縮不全(不整脈)が生じることを運動負荷試験が明らかにしている。
RVストレステストは非侵襲的な心エコーがアスリートのリスク識別の手段として有望であることを示している。

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