第861回 遅発性筋肉痛と筋肉の成長


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“遅発性筋肉痛(DOMS)と筋肉の成長”は、多年に亘って巷間に広く流布している考え方のひとつで、あたかもDOMSが生じないトレーニングは不適切であるとか、或いは、実質的にDOMSを追い求めるといった投稿メールをFacebookで見かけます。
筋肉の成長/発達が最終ゴールなのに、“DOMS=筋肉の成長”と信じ込んでDOMSが最終ゴールになってしまっています。

痛いのが御所望なら全身くまなくハンマーで叩いてあげます。
DOMSが筋肉の成長をもたらすのなら、こうすることで成長が結果として起こらなければいけない。


DOMSとは何か

DOMS(Delayed Onset Muscle Soreness)とは、読んで字の如くトレーニング後に生じる遅発性筋肉痛のことで、初心者や様々なエキセントリックなトレーニングで頻繁に見られる。

エキセントリックとは伸長性筋活動のことで、筋肉が伸ばされながら力を発揮することです。例えば、ダンベルを体に近く持ってくるときはコンセントリック(短縮性筋活動)ですが、ダンベルを戻すときはエキセントリック(伸長性筋活動)になります。下り坂ランニングはDOMSを引き起こすことで知られていますが、これは高負荷でのインパクト時に筋肉が伸長しているからです。

“遅発性”という単語の由来は、典型的に筋肉痛がトレーニング後24時間以内には起こらず、36時間でピークになるという事実によるものです。
ずいぶん以前には運動中に生成される乳酸が筋肉痛の原因とされていました・・・今でも尚そのように考えている人がいます。

DOMSはずっと後にピークに達したという事実から、乳酸がDOMSの原因ではないことが明らかになりました。因みに、乳酸はトレーニング後30分くらいで消散します。
私はこのことを90年代初めに知りましたが、依然として乳酸が何らかの形で関連していると考えている人がいることに唖然とします。

下り坂ランニング、伸長性収縮を強いられる特殊バイク、或いは狂気の沙汰ともいえる10sets x 10 maximal eccentric repsの後で採られた筋生検では、筋肉の正常な構造がしばしば損傷しています。
エキセントリック=筋肉の損傷=遅発性筋肉痛=筋肉の成長!
故に、DOMSを追い求める。
そういうことですか?
いいえ!

1. 筋肉痛でトレーニングサイクルを始めるとき、特に新しい動作をするのは非常に辛くて最悪です。しかし、DOMSがもはや生じないサイクル終了の時点では、目に見えるような成長が常に起こっています。

2. 三角筋が一例ですが、幾つかの筋肉は何らかの理由で筋肉痛が生じるのは非常に稀です。しかし、しっかりと成長します。DOMSは必要ありません。

3. 各部位を週一回と云った低頻度でトレーニングする人たちが驚くようなDOMSを訴えることが頻繁にあります。しかし彼らの多くは筋肉が十分に成長していません。

4. トレーニング頻度がもっと多い人達(即ち筋群毎に週2~3回)では、常に“LESS DOMS but MORE growth”、つまり DOMSは少なく筋肉の成長はより一層であることが報告されています。

基本的に、上記はDOMSが筋肉の成長には関連しておらず、殆どの場合はDOMSが少ない方がより良い成長が得られることを示していると思われます。
これらはもっぱら事例的な観察ですが非常に一般的なことなのです。
大抵のレベルでDOMSは成長とは無関係のようです。


DOMSの原因は何か?

乳酸が原因ではないことが明らかにされると、次はDOMSが筋肉への実質的な損傷に関連している可能性が新しい研究で示唆されました。そこで、エキセントリックトレーニングが多少の筋肉損傷と成長を引き起こすことは分かっており、これがDOMSに関係しているということが暗に示されました。これは当てはまるかも知れないし、或いは当てはまらないかも知れず、真偽は明らかになっていません。

顕微鏡で調べた処、筋細胞内の乱れ、つまり、Z線(Z帯,Z盤)などの消失を伴う破壊が認められている。マラソン初心者では頻繁に最悪のDOMSが生じ、完全に回復するまでmax6週間は掛かります・・・初めてのマラソン直後では、階段を降りるとき筋肉で支えることが出来ず、後ろ向きでしか降りることが出来ないという報告がいくつもあります。

従って、筋肉を増やしたい ⇒ マラソンで走る⇒筋肉痛が無くなるまで6週間の休息を取る⇒そして・・・否、ちょっと待ってください!

DOMSが損傷によるものであるという考えは近年では疑問視されており、それは寧ろリモデリング事物として再概念化されています。これは本当にセマンティクス(意味論)な議論されるべき問題です。
DOMSが筋肉のリモデリングに関連しているかもしれないということは、依然として成長反応において関係があるように思われる。
上記の観察を除いて、現実の世界ではDOMSと成長の間には実際の関連性は無いように思えます

殆どの研究がコンセトリック(短縮性筋活動)とエキセントリック(伸長性筋活動)の組み合わせが成長に優れていると報告していますが、幾つかの研究でトレーニング量が同じならエキセントリックだけでも同じ結果を得られることが見出されています。

同様に、研究者が通常調べているのは成長それ自体ではなく、寧ろサイトカインの分泌やマクロファージの浸潤などに関しての炎症反応のようなものです。これはとても可変的ですが、損傷の程度に依存しているようです。

ある程度の筋肉の損傷と炎症はリモデリングを刺激するには必要でしょうが、筋力の回復に1週間以上を要するようではシビア過ぎて筋原線維の壊死を引き起こします。.

“Some(幾らか)”なら良いですが、“more”はベターではないし、“too much”は恐らく大変ことになるでしょう。回復に1週間まるまるかかるようなDOMSは良いと云うよりは寧ろ有害でしょう。極端なケースでは筋肉の損傷がひどく横紋筋融解症を引き起こします。

逆U字容量-反応曲線と呼ばれる概念が有りますが、少な過ぎても多すぎてもダメで、中間の程々が良いのです。


DOMSの他の問題点

さて、これまで科学者はDOMSをヒトでどのように測定したのか不思議に思ったことはないですか?
基本的に行われている方法は、先ず筋肉片を切り取ります。次に、下り坂ランニング、筋肉が断裂するかのように感じる特殊バイク、或いはとてつもなく過酷な10セット x 10 maximal eccentric repsなど地獄のようなトレーニングを行った後で再び筋肉片を採り、最初のものと比較します。

筋肉を切り取ると言っても、基本的にこれは筋生検のことで特殊な器具を用います。
しかし、同じ筋肉から少なくとも2度切り取る訳ですから、筋肉の損傷は生検そのものに起因するのではないでしょうか。


まとめ

現実の世界では、DOMSは筋肉の成長には関連しておらず、殆ど逆相関しているものと思われます。通常はトレーニング頻度が多くてDOMSが生じる人たちは、週1回の過酷なトレーニグで筋肉を破壊して凄いDOMSが生じる時よりも筋肉はより良く成長します。

ある人はDOMSが生じ、ある人には生じないと云ったことも起こり得ますが、それは個人差によるものです。
しかし、DOMSを目的としてDOMSに傾注するのは自虐的な愚行です。
トレーニングのゴールは筋肉の発達であり疲労や痛みではありません。

参照記事
Body Recomposition
June3 2015
DOMS and Muscle Growth
Mr Lyle McDonald

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