第889回 筋トレが安静時代謝量に及ぼす影響


掲題の件について、米国Connecticut大学JC Aristizabal et alの研究論文がEuropean Journal of Clinical Nutritionに掲載されているので紹介します。
筋量アップと基礎代謝量/安静時代謝量について、これまで当ブログが ”第745回 筋肉と代謝量についての都市伝説” や “第2回 筋肉を付けて基礎代謝アップという話は間違い” で指摘してきたことが間違っていないことを裏付ける内容となっています。


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JC Aristizabal et al.
European Journal of Clinical Nutrition (EJCN)
Oct8 2014
Effect of resistance training on resting metabolic rate and its estimation by a dual-energy X-ray absorptiometry metabolic map

背景:
健常な体作りの為のフィットネスプログラムの一環として、保健機関は筋トレを推奨していますが( 論文1 論文2 )、筋トレが安静時代謝量(RMR:Resting Metabolic Rate)に及ぼす影響は今ひとつ明確になっていない。
筋トレをするとRMRは高まる( 論文3 論文4 )、RMRは減少する( 論文5 )、或いは不変である( 論文6 論文7 )と云ったように研究間にバラツキがある。
筋トレは安静時代謝量や総エネルギー消費量(TEE=Total Energy Expenditure)を高め、ウェイトマネージメントにプラス効果をもたらす可能性があると考えられている。( 論文3 論文8
その主要なメカニズムとしては、筋トレによってFFMが増大することで安静時代謝量が高まるという見方が強い。( 論文9 論文10

FFMと甲状腺ホルモンはRMRに交絡的に影響する。( 論文13 論文14
甲状腺ホルモンがRMRを高めることは明らかになっているが、そのメカニズムは未だ解っていない。( 論文15 論文16 論文17 論文18

FFMは代謝量の低い骨格筋(13 kcal/kg/day)や代謝量の高い心臓/腎臓(440kcal)や脳(200 kcal)など異種の組織や臓器が含まれる。( 論文19 論文20 論文21
従って、FFMが骨格筋のみの増加によって高まるとすると、トータルFFMの1kg当りの代謝率は減少することになり、筋トレによるRMR反応の説明が難しくなる。( 論文22 論文23

ご参考:FFM(Free Fat Mass)及びLBM(Lean Body Mass)はいずれも”除脂肪量”と訳されますが、具体的に言うと、筋肉(骨格筋/随意筋)、内臓器官、骨、血液、皮膚など脂肪以外の組織の総量です。両者には違いが一つあり、FFMにはessential Fatが含まれていません。essential Fatとは骨髄脂肪と細胞膜を指します。

間接熱量測定は体全体のエネルギー消費量の測定に用いられるが、代謝マップからは組織や臓器ごとのエネルギー消費量を推計できる。従って、運動に反応しての臓器や組織の質量や活性を比較するには代謝マッピングは有用かも知れない。


目的:
本研究では “プロテイサプリを摂取して筋トレを行った場合のRMRへの影響” 及び “二重エネルギーX線吸収法(DXA)代謝マッピングで得られたFFMからRMR反応は予測できるのか” というポイントについて調査することにした。


方法:
前向き/並行3群間比較デザインで、「レジスタンストレーニング+プロテインサプリ」が安静時代謝率/量(RMR)に及ぼす影響を評価した。
二重盲検方式で健康な被験者にホエイ、ソイ、カーボを無作為に割り当てた。
全被験者にレジスタンストレーニングを96ワークアウト(期間~9カ月)やってもらった。

被験者
休日も活発に過ごし少なくとも実験前1年間はレジスタンストレーニング歴のない18~35歳の男女を募集した。
筋トレを制限されるような健康状態、高血圧、糖尿病、過去3ヶ月で体重増加<3kg、コレステロールや血圧を抑える薬を飲んでいる人、アスピリンなど抗炎症薬の使用者、喫煙者、1日3杯または週21杯を超える飲酒、妊娠、ホエイ及びソイへのアレルギー起こす人達は選考基準から除外した。

トレーニング内容
ピリオダイゼーション方式によるレジスタンストレーニングを行った。
ご参考:ピリオダイゼーションとは、筋肥大/筋力/パワー/ピーキング/休養期を期間毎にターゲットとするトレーニングプログラムです。

期間毎に使用重量を増やしながらレップス数を減らして行くリニア(線形)ピリオダイゼーション方式と、使用重量/レップス数/セット数を毎回変えていくノンリニア(非線形)ピリオダイゼーションは方式があるが、本研究では後者を採択した。

種目はスクワット、ハングクリーン、ベンチプレス、二頭筋カール、ふくらはぎ筋、腹筋、ラットプルダウン、ランジ、アップライトロウ、プッシュプレス、ウェイトプレートリフト

頻度は週3回(~9ヶ月で96ワークアウト)
3回 x 12週間mesocycle
ご参考:microcycleは週ごと、mesocycleは月ごと、macrocycleは3ヶ月以上のことです。

サプリメント
等カロリー/等窒素のホエイ又はソイを、トレーニング日はトレーニング終了直後に、非トレーニング日は朝食時に毎日割り当てた。
・ホエイ群:ホエイプロテインconcentrate21.6g+マルトデキストリン22.5g
・ソイ群:ソイisolate20g+マルトデキストリン24.5g
・対照群(炭水化物):マルトデキストリン45.2g
ご参考:マルトデキストリンは食品添加物として用いられる多糖類です。

食事カウンセリング
被験者には各人に必要なエネルギー量を満たす食事を摂ってもらい、食事から摂るタンパク質の量は体重1kg当り1.0~2.0gとした。
エネルギー必要量は被験者の身体活動レベルに応じて、RMRに活動係数を乗じて推計した。
被験者は6週間後ごと、或いは必要に応じてもっと頻繁に食事カウンセリングを受けた。
食事情報の質を高めるために、個人情報端末、料理用はかり、プロテイン量についての小冊子を提供した。

測定方法
体重はデジタルスケールで、身長は携帯スタジオメーターで測定した。
体組成値は二重エネルギーX線吸収測定法(DXA)でベースライン及び9ヶ月後に測定した。
FFM及び脂肪量は市販のソフトウェアを使って計算した。
DXA代謝マップはDXA測定による脳、骨、心臓/肝臓/腎臓/脾臓など主要な臓器、骨格筋、体脂肪などの質量を推計して作成した。


結果:
61人の被験者が試験を完遂した。
・ホエイ群18名(女性6名、男性12名)
・ソイ群21名(女性11名、男性10名)
・対照群(炭水化物)22名(女性9名、男性13名)

ベースラインでの身体的特性に有意な群間差は無かった( table1

食事によるエネルギー摂取量は各群それぞれ1日当たり/体重1kg当りホエイ群28.2kcal、ソイ群29.0kcal、炭水化物群28.1kcalと同レベルで安定していた。

プロテインサプリによるエネルギー摂取量は、ソイ群および対照群に比べ、ホエイ群が多かった(1.3–1.4 vs 1.0–1.1 g/体重kg P<0.01)

脂質と炭水化物の摂取量には有意な群間差は無かった。

各群の多量栄養素の摂取配分にはバラつきがあり、タンパク質14~19%、炭水化物52~59%、脂質25~30%であった。

ベースライン及び9ヶ月の“ホエイ群/ソイ群/炭水化物群のRMR”と”多量栄養素の酸化“は下記の通り( table2 )

RMRは全コホートで有意に増加し(73±158 kcal/day, P<0.01)、群間差は認められなかった。

FFMを標準化するとRMRの有意な変化は認められなかった(−0.10±3.4 kcal/day, P>0.05)

各群でFFMのkg当たりのRMRには群間差はなかった。

タンパク質の酸化は全コホートで増加したが(0.17±57 g/kg/day, P<0.05)、群間差は無かった。

炭水化物と脂質の酸化については有意な変化は認められなかった。

二重エネルギーX線吸収測定法(DXA)代謝マッピングで安静時代謝量を予測することは出来ない


ディスカッション:
本研究の主目的は、プロテインサプリを摂りながらの長期レジスタンストレーニングが安静時代謝量(RMR)に及ぼす影響、並びに運動へのRMR反応はDXA代謝マッピングや甲状腺ホルモンによって推定し得るのかという点を評価することであった。
レジスタンストレーニングに反応して、RMRは全コホートで5%(73±158 kcal/day, P<0.01)有意に高まり、ホエイ/ソイ/対照群との間に差は見られなかった。

先行研究と同様に、筋トレによるRMRの増加は、少なくとも一部はFFMの増大によるものであることが再確認された。このことは、RMRの差異が1kg当りのFFM値を標準化すると消失したという事実と、FFMとRMRのベースライン(r=0.760 P<0.01)と9ヶ月(r=0.792 P<0.01)の相関関係によって支持されている。

RMRの増加が骨格筋量の増強のみによるものとすると、RMRの増加は31.2 kcal/day (13 kcal/kg/day × 2.4 kg FFM)と推計され、これは本研究で観察された73 kcal/dayの半分以下となる。従って、RMRの増加には代謝的な活性な他の組織の質量増加が何らかの理由で絡んでいると考えられる。

DXA代謝マッピングは骨格筋や他の主要な臓器などでの有意な増加を示した(下表)。
DXA代謝マッピングでFFMコンポーネントなどの変化は同定できたが、ベースラインと9ヶ月後のRMR、およびRMRの変化を予測することは出来なかった。
これらの結果は先行研究( 論文26 論文27 論文28 )とは異なるが、脳やその他の主要臓器の質量を過小評価していることが考えられる。甲状腺ホルモンはRMR予測を改善した。

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RMRの増加が運動後48時間を超えて生じたという事実は、これが慢性的効果であることを示唆している・・・運動頻度は1日置きが望ましい事を物語っている。
筋トレがRMRに与える影響(increased by 73 kcal/day)と体組成(2.4 kg FFM increase and 0.3 kg loss of fat mass)はまあまあといった程度で、恐らく肥満を管理する上での独自の戦略として正当化するには不十分だが、高リスクの学生にとっては肥満予防の優れた戦略となるかも知れない。


結論:
9ヶ月間の筋トレで、安静代謝量は平均して73kcal/1日(1653±302⇒1726±291 kcal/day)増えた。プロテインサプリの有意な相乗効果は無かった。二重エネルギーX線吸収測定法(DXA)代謝マッピングでベースライン時と9ヶ月の安静時代謝量を予測することは出来ず、RMRの変化とは関連していなかった。
筋トレによる代謝反応の~50%程度はFFM(除体脂肪)と甲状腺ホルモン(チロキシン)に因るものであり、その他の要因が代謝反応に与していることを示唆している。

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