第892回 糖質制限ダイエットにまつわる馬鹿げた神話


単に英語力の問題か、それとも金儲け優先の所為なのか理由は定かではないが、しっかりした科学的エビデンスに基づき糖質制限ダイエットを語れるアドバイザーが日本では稀有である。
低炭水化物ダイエットに対する都市伝説的な風評をズバッと解明した記事が、Authority Nutritionに掲載されているので紹介します。

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Authority Nutrition
9 Ridiculous Myths about Low-Carb Diets
By Mr Kris Gunnars

低炭水化物食について多くの誤情報が巷間に流れています。

一部の人たちは、低炭水化物食は人間にとって最適の食事であり、誰もが採り入れるべきだと主張しています。
他の人たちは、低炭水化物食は一時的な流行に過ぎず、継続するのが難しいだけでなく、有害の可能性すらあると考えています。

ここでは低炭水化物食についての9つの一般的な神話をリストアップしました。

1.低炭水化物はファッドダイエットである

ファッドダイエット(Fad Diet)という言葉はもはや意味を為していない。

従前は、短期的な目的のために食事を極端に減らして減量する激しいクラッシュダイエット(Crash Diet)に対して使われていたが、現在では基本的に “自分たちが同意できないダイエットへの侮りの言葉”になっている。

今なお多くの人が低炭水化物をファッドダイエットと呼んでいるが全くナンセンスである。なぜなら低炭水化物食は20件以上の科学的研究で有効であることが示されているからです。

また、低炭水化物食は何十年にも亘って親しまれている。実際に、アトキンス初版本が1972年に出版されており、これは米国における一次低脂肪食ガイドラインの5年前のことである。

更に溯って調べてみると、低炭水化物食の本が初めて世に出版されたのは1863年で、その当時は大変な人気だった。

科学的に裏付けされ長きに亘って親しまれた低炭水化物食を、ファッドとして簡単に片づけるのは議論を避けようとする不誠実な企てでしかない。

まとめ:
低炭水化物食は、何十年にも亘って親しまれ、ヒトを対象とした20件を超える質の高い研究によってサポートされている。こういったものファッドダイエットと呼ぶのは間違いである。



2.低炭水化物ダイエットはやり通すのが難しい

低炭水化物ダイエットは一般的な食品群を制限するので継続して行うのが難しいと云う指摘がある。つまり、欠乏感に駆られてダイエットを放棄してしまい、その結果リバウンドすることになると云われている。

その点はある意味では正しいが、そもそもダイエットとは食品群や栄養素、或いはカロリーなど何かを制限をすることである。

低炭水化物食の素晴らしいところは、食欲の低減をもたらしてくれるので満腹になるまで食べることが出来、而も減量できるという点である。( 1 , 2 )
他方、カロリー制限食はお腹いっぱいになるまで食べられず、いつも空腹の状態で終っている。
常時お腹が減った状態で満足するまで食べられない・・・これこそ大部分の人たちにとって継続が難しいダイエットと言えるのではないだろうか。

それはそれとして、他のダイエット食と比べて低炭水化物食が遵守することが難しいことを示すデータはない。

低炭水化物食と低脂肪食の完遂率を比較した19件の研究をレビューしてみた。
結果は錯綜してはいるものの、平均すると実際に低炭水化物食群の方が研究の最後まで完遂した人が多い。低炭水化物食群の完遂率は平均79.51% で、低脂肪食群は平均77.72%だった。

群間差は大きくないが、低炭水化物食を継続することが他との比較で難しくはない事がはっきりと示されている。

まとめ:
データは、低炭水化物食を継続するのは難しいという考え方をサポートしていない。
どちらかと言えば、通常は低脂肪食と比較されることが多いが、低脂肪食よりも良好な遵守性を有している。



3.体重減少の大部分は水分減少によるものである

相当量の糖質がグリコーゲンとして筋肉や肝臓で保存され、食間にはグルコースへ分解されエネルギーとして使われる。肝臓や筋肉で保存されたグリコーゲンは水と結合する傾向がある。炭水化物をカットするとグリコーゲン量が減少し、かなりの量の水分が失われる。

また、低炭水化物食はインスリンレベルの大幅な低減につながる。
インスリンレベルが低くなると、腎臓は過剰なナトリウムや水分を排出する。( 3 , 4 )

このような理由から、低炭水化物食による体重減少の利点は、単に水重量の減少によるものだと云われているが誤りである。
低炭水化物食は水重量の減少だけでなく、特に肝臓や腹部の体脂肪も減少することが研究で示されている。( 5 , 6 )

6週間の低炭水化物食についての研究では、被験者は体脂肪が7.5ポンド(3.4 kg) 減少し、筋肉が2.4ポンド(1.1 kg)増えたことが示されている。( 7 )

水重量の減少は悪い事ではない。水重量を低炭水化物食への反論材料とするのはナンセンスである。5~10ポンドもの余分な水分をも持ち歩きたいなんて誰も思わないであろう。

まとめ:
低炭水化物ダイエットを行うと、体から余分な水がたくさん排出されるだけでなく、特に肝臓および腹部の体脂肪が多く減少する。



4.低炭水化物ダイエットは心臓に悪い

低炭水化物食ではコレステロールや飽和脂肪酸などの脂質の摂取比率が高くなる傾向がある。この為、血中コレステロールが高まり心臓病リスクが増大することが、新しい研究でしめされていると主張する人たちが多い。( 8 , 9 , 10 , 11 )

実際には低炭水化物食で心臓病リスクの重要な諸因子が改善する:( 12 )

・血中トリグリセリドが低減する。( 13 , 14 )
・HDL(善玉)コレステロールが増加する。( 15 , 16 )
・血圧は減少傾向となる。( 17 , 18 )
・インスリン抵抗性が改善し、血糖およびインスリンレベルの低下をもたらす。( 19 , 20 )
・炎症は低減する可能性がある。( 21 )

平均してLDLコレステロールのレベルは高まらない。
更に、血管の壁に入りこみやすい性質をもつ小型で比重が大きい超悪玉コレステロールを大粒子に変える傾向があり、これは心臓疾患のリスク低下につながる。( 2223 )

さはさりながら、研究では主に平均値を見ているので、中には低炭水化物食でLDLコレステロールが高くなる人もいる。こういった人たちはコレステロール値を下げるために何らかの手を打つべきであろう。

まとめ:
食事性のコレステロールや飽和脂肪酸が有害を引き起こすというエビデンスは無く、低炭水化物食に関する研究では心臓病リスクの主要な因子を改善することが示されている。



5.低炭水化物ダイエットは摂取カロリーを抑えてこそ有用となる

低炭水化物ダイエットは言ってみれば、摂取カロリーを減らして痩せることに他ならないと多くの人たちが主張する。

この指摘は正しいが、それでは全てが語られていない。

低炭水化物食による減量の主たる利点は、自動的に減量できるということにある。

カロリー計算や一人前分を減らすと云ったことをやらずとも、少ない量で満腹感が得られるのである。

低炭水化物食による食欲抑止効果は非常に強力で、低炭水化物食と低脂肪食を比較した研究では、両群の結果を同等にするには低脂肪食群では積極的にカロリー制限する必要があることが示されています。
低脂肪食でカロリー制限しても、低炭水化物食の方が通常は減量効果が大きい・・・時として2~3倍の差が生じることがある。( 24 , 25 )

低炭水化物食の利点は減量だけではないことが認識されていない。メタボリックシンドローム、2型糖尿病、及びてんかんなどの特定の健康状態に対して非常に有効なのである。( 26 , 27 , 28 )

これらのケースでは、健康上の利点はカロリー摂取量の減少の利点を遥かに超える。

低炭水化物食には大きくはないが代謝上の利点もある。
低炭水化物食では必然的にタンパク質の摂取比率が高まる傾向にあるが、これが代謝を高めるのである。( 29 , 30 )

まとめ:
低炭水化物ダイエットがカロリー摂取量の減少に起因していることは事実である。しかし、これが無意識のうちに起こるという事実大きな利点なのである。低炭水化物食にはカロリーを超えた代謝健康上の利点もある。



6.低炭水化物食にすると健康な植物性食品の摂取量が減少する

低炭水化物食はlow-carbであってno-carbではない。

炭水化物をカットするということは、植物性食品の摂取をずっと少なくする必要があるということ意味するというのは神話である。

実際には1日50gを超えることなく多量の野菜、果実、ナッツ、種子を食べることが出来る。

一日当たり炭水化物100〜150gでも低炭水化物食である。この場合には数切れの果実やジャガイモ/オート麦など健康的なデンプンでさえも少量ながらも食べる余地がある。

筆者個人としては低炭水化物ダイエット中には野菜を沢山食べることはない。それでも体が必要とするビタミンC、カリウム、繊維、或いは植物中に大量に含まれているその他の主要栄養素が不足することはない。

低炭水化物ダイエットに関する本の殆どが、健康的な植物性食品(特に野菜)を大量に食べることを奨めている。

まとめ:
超低炭水化物食であっても、炭水化物の含有量が少ない植物性食品を沢山食べることは可能である。野菜、果実、ナッツ、種子は炭水化物の含有量が低い健康な植物性食品である。



7.ケトーシスは危険な代謝状態である

ケトーシスについてはきちんと理解されずに混乱しているようだ。

炭水化物の摂取量が例えば一日あたり50g未満といった少量しか食べないと、インスリンレベルが低減し脂肪細胞から多量の脂肪酸が放出される。
肝臓が脂肪酸で満杯になると、ケトン体と呼ばれる物質への変換が始まる。

ケトン体は血液脳関門を通過することができる分子で、飢餓や炭水化物を食べていない時には脳へのエネルギー源となる。

しかし、多くの人は「ケトーシス」と「ケトアシドーシス」を混同視しているようだ。
後者は主に1型糖尿病患者に起こる。インスリンが不足した状態では、グルコースの代りに脂肪の代謝が亢進し、ケトン体が作られる。1型糖尿病患者では、インスリンを十分に補わないと、血糖値が上がり続け、ケトン体が血液中に蓄積しケトアシドーシスをきたす。
ケトアシドーシスは危険な代謝状態で、紛れも無く命取りになる。
低炭水化物食で生じるケトーシスは健全な代謝状態であり、これとは全く関連が無い。

例えば、てんかんの治療効果を有することが示されており、がん治療やアルツハイマー病のような脳疾患に対して研究されている。( 27 , 28 , 29 )

ケトアシドーシスは悲惨だが、ケトーシスは良いことであり、これら2つは同じではない。

まとめ:
超低炭水化物食はケトーシスと呼ばれる有益な代謝状態につながる。ケトアシドーシスはコントロール不良の糖尿病で起きる危険な状態だが、これとは同じではない。



8.脳は機能するためにブドウ糖(炭水化物)を必要とする

“炭水化物を食べないと脳は機能しない”と誤解している人が多い。

炭水化物は脳にとって好ましいエネルギー源であり、1日当たり約130gが必要だと言われている。これは部分的には正しい。
脳の幾つかの細胞はエネルギー源としてグルコースしか使えない。
しかし、脳の他の部分は実際にはケトン体を使うことが出来る。

ケトーシスの状態を作り出すために炭水化物の摂取を低く抑えると、脳の大部分はグルコースの使用を止めて、代替エネルギーとしてケトン体を使い始める。

さはさりなん、血液中にケトン体が溢れても、脳のある部分は依然としてグルコースを必要とする。

ここで糖新生と呼ばれる代謝経路が重要になる。炭水化物を食べないときは、体内でタンパク質からグルコース、脂肪代謝の副産物(ケトン体)が作りだされる。

ケトーシスと糖新生により、少なくとも脳へのエネルギー供給という意味では、実際には炭水化物を食べる必要はない。

初めての低炭水化物食に体が順応してしまえば、逆に脳の機能は良くなったという報告が数多くなされている。

まとめ:
低炭水化物食で脳の一部はエネルギー源としてケトンを使用することが出来る。それでも、僅かではあるが脳の他の部分ではグルコースを必要とするが、糖新生によって作り出される。



9.低炭水化物ダイエットは身体能力を損ねる


殆どのアスリートが高炭水化物食を行っており、炭水化物は身体パフォーマンスに不可欠であると考えている人たちが多い。

炭水化物を減らすと当初はパフォーマンスの低下につながるのは事実だが、通常は一時的な減少に過ぎない。エネルギーとして炭水化物の代りに脂肪を使うべく体が順応するのにちょっとした時間差があるからだ。

特に持久性運動での身体パフォーマンスには、体が順応するまで2~3週間はかかるが、低炭水化物食が優れていることを多くの研究で示している。( 30 , 31 , 32 , 33 )

更に、低炭水化物食が筋量及び筋力に有用な効果を及ぼすことも研究で示されている。( 34 , 35 )

まとめ:
低炭水化物食は、ほとんどの人で身体パフォーマンスに有害とはならない。しかし、体が順応するまで数週間は要す。



Take Home Message:

1日を終えてみると分かることだが、低炭水化物食が大きな健康上の利点を有している。
肥満、メタボリックシンドロームおよび2型糖尿病を有している人たちには非常に有効である。
しかし、低炭水化物食が有益であるといっても、十人十色なので誰にでも言い得ることではない。

マイコメント
公の場で糖質制限ダイエット推奨者として名乗りを上げるなら、少なくともこの位の論陣は張って欲しいと思う。いずれにしても、いわゆる糖質制限狂徒が糖質制限ダイエットの優位性を排他的/絶対的に主張するのに対して、この記事の筆者はone size fits allではないと締め括っている点も見逃さないで欲しい。

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