第911回 ボディビルダーの筋肉は役立たず?


ボディビルダーの筋肉は実用性のない見せかけの筋肉だと云われています。
実のところはどうなんでしょうか?

NAVERまとめ
ボディビルダーの筋肉は使えないというのは誤解であると反論しています。

動画「腕相撲のプロ VS プロボディビルダー」
こちらではボディビルダーがいとも簡単に負けています。

動画「ボディビルダーの力は弱いのか?脚は速いのか?」
北島達也氏が解説しています。

筋肥大が筋力アップの妨げに?!
筋肥大が進んで行くと筋繊維横断面積当たりの筋力が低下していく。この理由として筋繊維の配列の変化、つまり羽状角があまりに大きくなると、腱に真っ直ぐ伝わる力が小さくなってしまう。一般に羽状角は5~25度であり、筋力のロスは0.99~0.91程度とあまり大きくないが、上級ボディビルダーの場合では50度を超えることがあり、筋力のロスは0.57になってしまうそうです。

Drスクワットの異名を持つ元世界記録保持者フレッド・ハットフィールドは、見るからに筋骨隆々としたビルダー/トム・プラッツよりスクワットで90kg越えを記録したという逸話が残っています。しかし、特定のパワーリフターと比較してボディビルダーの拳上重量が下回っていると言っても、一般の人たちと比較すると桁違いに優っているのは事実です。

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今般、英国Manchester Metropolitan大学のHans Degens教授ら研究チームから、「ボディビルダーの筋繊維は一般人よりも大きく、遥かに大きな力を生み出せるのは事実だが、1g当たりの筋肉が生み出す力を比較すると一般人よりも劣る」ことが報告されました。

Experimental Physiology
Single muscle fibre contractile properties differ between bodybuilders, power athletes and controls

論文タイトル:
単一筋繊維の収縮特性はボディビルダー、パワーアスリート及び一般人で異なる。

イントロ:
パワーアスリートのパフォーマンスは大別して2つの特性によって決定されます。
ひとつは「動員された筋肉の能力を産生する最大force & power」で、もう一つは「長時間の高負荷での取組みに対するforce & powerを維持する能力」です。
筋肉のpeak force及びpeak powerは筋量と筋断面積に大きく依存します。
最大持続powerの主たる決定要因は、動員された筋繊維のミトコンドリア密度です。
アスリートは理想として筋力と耐久力の両方を最大化することを目指しますが、繊維断面積(FCSA)とミトコンドリア密度との間には逆相関の関係が存在します。最大細胞外酸素圧によって制限されることが示唆されており(Van der Laarse et al. 1997; Wessel et al. 2010)、故に持続可能powerに不利となる筋肥大の限界があるだろうと考えられています(Degens, 2012)。
少なくとも理論的には高power出力と筋持久力の両方を必要とするアスリートは、筋繊維サイズの同時増大がなくともピークpowerと最大等尺性forceを高めることにより、この難問を解決することができます。つまり、筋量当たりのピークpower(specific power)と断面積当たりの最大force(specific tension; F0)を増大させるということです。
このような改善は、階級制あるいは過体重がパフォーマンスを制限するスポーツを行うアスリートだけでなく、筋肉の低下が大きくFOの減少をもたらす高齢者にも有益となるでしょう(Frontera et al. 2000; Degens et al. 2009; Narici & Maffulli, 2010)。
そこで、specific power と F0を改善することが可能かどうか、もし可能ならどのようなトレーニングがベストなのかという疑問が出てきます。
単一スキンドファイバー片を用いて、非ボディビルダーよりも男性ボディビルダーは筋繊維タイプⅡのFOは高く、タイプⅠのFOが低いことが示されています(D'Antona et al. 2006)。
しかし、他の研究では単一筋繊維のFOはレジスタンストレーニングの影響を受けないことが報告されています(Widrick et al. 2002; Erskine et al. 2011)。

このような相容れない不確定な観察研究は持久性トレーニングでも見られます。
健康な若者を被験者とした研究で、マラソントレーニングは繊維断面積(FCSA)の減少とともにタイプⅠとタイプⅡAのFOを高め、延いては最大張力を維持したことが報告されていますが(Trappe et al. 2006)、他の研究では12週間の有酸素運動プログラムでタイプⅠのFOが減少したことが報告されています(Harber et al. 2012)。

F0から離れて、specific peak powerも最大短縮速度とforce–velocity(速度関係)の曲率によって決定され、ここではHill方程式(Hill, 1938)での熱定数を表すa/F0として表現されています。高a/F0は低曲率を意味し、同一のF0と最大短縮速度を持つ筋肉や筋繊維への高peak powerをもたらします。

最大短縮速度はレジスタンストレーニングによる影響を受けませんが(Widrick et al. 2002; Erskine et al. 2011)、ボディビルの場合では減少すらしてしまうようです(D'Antona et al. 2006)。他方、持久力トレーニングは特に筋繊維タイプⅠの最大短縮速度を高めることが報告されています(Trappe et al. 2006)。

最大短縮速度が異なる活動タイプによってどんなメカニズムを介して影響されるのかは明らかになっていませんが、収縮タンパク質の翻訳後修飾に関連することは有り得ると考えられています。

アクチン線維とミオシン線維はアデノシン3リン酸を加水分解したときのエネルギーを使って滑り運動を行いこれが筋収縮の源となります。収縮タンパク質の翻訳後修飾は、高齢に伴いスローダウンすることが、スライドガラス上に人工的に筋肉運動を再現したin vitro motility assayで報告されています(Li et al. 2015)。
我々が知る限りでは、単一筋線維セグメントのa/F0におけるトレーニング誘発性の変化、並びにspecific peak powerへの影響は報告されていません。

調査結果はあいまいですが、全体的な印象としてはF0と specific powerは定期的な運動によって変えることができるようです。
従来のトレーニング研究の大半は、長期的なトレーニング効果を測定するには短すぎるが、研究間の不一致は、これら従来の研究でのトレーニングのタイプや期間の違いに起因するものと思われます。
従って、本研究の目的は、長期的な異種レジスタンストレーニグがspecific power とF0に与える影響を見極めることで、そのためにボディビルダー、パワーアスリート、及び対照群から採取した単一スキンドファイバーセグメントの収縮特性を解析しました。

ボディビルダーの最も重要な目標は筋肉サイズの増大であり、大会前の減量期では有酸素運動の要素を持つ低中強度/高量のレジスタンストレーニングを行うことで達成されます。
パワーアスリートのパフォーマンスは、“peak force/peak power” 及び “高強度での取組みが要求される長い競技中にこれらを維持反復する能力” のコンビネーションで決定されます。
これを達成するために、パワーアスリートの運動プログラムは、高強度/低量のレジスタンストレーニングに加えて有酸素運動を補助的に行うことを特徴としています。
我々はレジスタンストレーニングをやらない対照群に比べて、パワーアスリート及びボディビルダー(ボディビルダーの場合は特にタイプⅡ筋繊維)のspecific powerとF0の増大を期待しました。

方法:
ボディビルダー12名(BB群: 平均年齢29.8 ± 4.8 y;身長 177.8 ± 4.1 cm; 体重91.7 ± 13.4 kg)、アメフト選手、トラック/フィール競技のアスリート、ウェイトリフターなどパワーアスリート6名(PA群: 23.4 ± 3.9 歳; 185.0 ± 4.3 cm; 103.0 ± 7.3 kg)、及び対照群14名(C: 24.0 ± 3.5 歳; 180.9 ± 5.3 cm; 77.9 ± 6.3 kg) を被験者とした。

ボディビルダー群は、オフ6ヶ月では中高強度/高量の筋トレ(4~5 セット/8~15 レップス/1RMの 60-80%/週3~5回)で有酸素運動はしていない。大会前の減量期では有酸素運動の要素をもつ低中強度/高量の筋トレを実施。筋生検を採集した時点はオフ期であった。
パワーアスリート群は、中高強度/低量の筋トレ及びランニングやサイクリングなど有酸素運動を追加的に週127±150分おこなった。
因みに、対照群はよく運動はしますが筋トレをやっていない一般人(ランニングやサイクリングを週153±133分/レクレーショナルスポーツを週102±143分)です。

これら3群の大腿外側広筋から採取した筋線維を単離して収縮特性を比較した。

SDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS-PAGE)を用いて、単一筋繊維での最大等張性収縮が行われた。

結果:
ボディビルダー群及びパワーアスリート群の筋繊維は対照群に比べてより高い最大等尺性張力を示した(32%, 50%, P < 0.01)

ボディビルダー群の筋繊維の断面積は、パワーアスリート群および対照群よりそれぞれ67%/88%大きかったが(P<0.01)、パワーアスリート群と対照群との比較では有意な差異は認められなかった。

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ボディビルダー群の筋繊維のSpecific tension (F0)は、パワーアスリート群および対照群に比べて各々62%/41%低かった(P < 0.05)

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筋繊維タイプに関係なく、パワーアスリート群の筋繊維のpeak powerはボディビルダー群の筋繊維より58%高かったが(P < 0.05)、ボディビルダー群の筋繊維はかなり肥大しているにも拘わらず対照群と同様であった。

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この実験は、高強度/低量の筋トレ+有酸素運動が筋肉のpeak powerを改善するが、低中強度/高量の筋トレはpeak powerには効果なくspecific tension (F0)の減少をもたらすことを暗示している。

我々は、specific tension (F0)の減少は筋原線維の密度や収縮タンパク質の翻訳後修飾の相違に起因すると仮定する。

マイコメント:
トップビルダーがパワーアスリートに転身して成功したという話は耳にしたことはありません。そもそもボディビルダーの究極目標は筋肥大であり、俊敏性/機動性/スポーツパフォーマンスの向上ではありません。

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筋肥大のタイプは2大別されます。
Myofibrillar growth(筋原繊維の発達)とSarcoplasmic growth(筋形質の発達)で、前者は機能的肥大/後者は非機能的肥大とも呼ばれます。「筋繊維=筋原繊維+筋形質+結合組織」、「筋形質=筋細線維+グリコーゲン+ミオグロビン+水分etc」のことです。
筋形質の成長はパフォーマンス向上には貢献しませんが、外見上は大きく見える要因となります。故に、パフォーマンスを志向するアスリートは前者を狙いますが、全体的なサイズアップの体格を志向するボディビルダーは両者を狙うのが一般的です。

筋量/筋力アップのトレーニング方法は基本的に高負荷レジスタンストレーニングで、Max.60%の低強度で高レップス行うやり方は、耐久力(スタミナ)と筋持久力を高めるには悪くないですが、筋量・筋力アップには効果的な方法ではありません。本研究では、大会を控えた減量期に体が全体的にカタボリックになっている状態で、低中強度/高量レジスタンストレーニングを行うという条件設定となっています。
増量期 → 減量期において、FFMが3.9%減少/1RMスクワットが13.8%減少したという報告があります(Rossow et al. 2013)

筋トレをやらない対照群との比較で、ボディビルダー群の筋繊維1g当たりの特定張力(FO)は41%低く、最大パワー(peak power)では同等だったという点については、「あぁ~そうなんだ」と言う以外に言葉はありません。
いずれにしても本論文を精読してスペシフィックなコメントをするのは小生には荷が重すぎます。