第936回 男性と女性の生理機能


筋肉が少なく頑固な脂肪で悩む若い男性がLyleに相談しています。色々と参考になると思うので紹介しておきたいと思います。

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Q:
近く出版ご予定の著書の中の“女性への推奨”は、テストステロンレベルが低い若い男性にとって、どれくらい考慮すべきものなのでしょうか?
TRT(テストステロン補充療法)にかける金銭的な余裕がなく、且つ、妊娠を問題視する必要もない低テストステロンレベルの若い男性として、食事やフィットネスなどのガイドラインに関しては、男性用それとも女性用いずれに従うべきか常に疑問に思っています。私の場合は、低テストステロンレベルが筋量不足と女性っぽい頑固な脂肪部位となって現れています。私と似たような状況にある男性は、どのくらいの頻度で/どのようなシチュエーションで女性用に設定されたガイドラインや指示に従うべきでしょうか?

A:
先ずは、なぜ男性と女性の生理機能にホルモンレベルの違い以上のインパクトがあるのか、その理由を説明する必要があると思います。もちろん生理機能が全てという訳ではありません。しかし一番であることは確かです。

知識をひけらかすような説明になりますが、かつてのユダヤ教の預言者たちのように王妃イゼベルに磔にされることはありますまい。

さて、「sex」と「gender」はどちらも「性」を意味しますが、厳密に言うと、「sex」は睾丸/ペニス/卵巣など生物学的に判別される肉体的な性を意味する語です。「gender」は生物的な性別ではなく、社会的な側面から識別される性、つまり男らしさや女らしさを意味する語です。一歩踏み込んで申し添えると、生物学的な男性は女性と同定することができるし、生物学的な女性は男性と同定することができます。

研究では、科学者たちはsexとgenderを交互に使っていますが、わたしも実はそうです。もちろんこの二つの単語が同じではないことは承知しており、特に深い意味も無く文体上の体裁から使っているという理由に他なりません。

それでは男の子と女の子を区別する幾つかの違いについて簡単に説明します。


男性と女性の染色体

受精時の精子と卵子の持つ性染色体の組み合わせで生物学的な性は決まります。つまり、熱烈に愛し合っている男女や出会い系アプリTinderで知り合った男女など色々なカップルが想定されますが、いずれにせよ母親(XX)と父親(XY)からXの染色体をひとつずつ受け継ぐと女の子になり、母親からのXと父親からのYを受け継ぐと男の子になります。たまにXXYといった遺伝子異常が見られ、女性のスポーツで物議を醸していますが、ここでは触れないことにします。

しかし、これらの違いは男性と女性の第一段階での性分化に過ぎません。ヒトの成長の決定因子としては遺伝子が大きな座を占めており、成長過程で男性なのにテストステロンが少ないとかエストロゲンが多いといったことは大事なことではありません。異常な病気でもない限り男性が女性の染色体を持っていることはありません。故に、女性の多くの細胞には基本的に男性とは異なる発達的な特徴がみられます。

男性と女性の骨格筋は相対的に同一ですが、女性の少なくとも一部の脂肪パターンは遺伝子的な要因によって決定され、男性とは大きな違いが見られます・・・たとえ思春期までに体脂肪パターンが顕著に発達しなくとも、下半身で脂肪細胞の増加や変容が起こり始めています。


胎児の発育

第一段階の性分化に次いで、胎児期に組織の形成や生殖腺の分化が始まり、多くの生理機能が決定されていきます。
生殖腺原基自体は遺伝的性とは無関係に精巣へも卵巣へも分化できる潜在的な能力を有していますが、通常は遺伝的性に従って性分化してゆくことになります。

例えば、妊娠糖尿病および飢餓の女性では、胎児の行く末を肥満やメタボリックシンドロームなどへと方向づけるプログラム化が進みます。
大まかに言ってその理由は、胎児は栄養素が不足しているので、カロリーをより効率的に貯め込み、且つ、なかなか無くならないように倹約的になるということです。

生殖腺は分化した後に各種ホルモンを産生します。代表的なものが性ステロイドであるアンドロゲンやエストロゲンで、胎児のホルモン暴露に関係して多大な生理機能をプログラム化していきます。アンドロゲンに多く晒された女の子はより男性化し、脳は骨格筋の構造とは異なる発達を遂げていきます。男の子が逆にエストロゲンに多く、又はアンドロゲンに少なく晒されると相対的により女性化していきます。彼らの脳は骨格筋の構造とは異なって発達していきます。

このような胎児期のホルモン曝露が長期的なホルモンレベルに影響を与えるかどうかは、現在では少し議論の余地が残っています。つまり、子宮内でアンドロゲン化された女性が大人になるに連れてテストステロンが高まっていくのか、或いは、男性は高エストロゲンレベル化されるのだろうか。わたしにはそうとは思えないが、研究には少しバラツキがあるのが実状のようです。

これを調べる簡単な方法があります。それは"2nd to 4th digit ratio"と呼ばれ、人差し指(2nd digit)と薬指(4th digit)の長さを比べるのです。「長さ」とは、指の先から、指の付け根のシワのうち、一番下(指先から遠い方)までの長さのことです。面白いことに、母親の胎内で男性ホルモンをより多く浴びて、女性ホルモンをより少なく浴びると、人差し指が短くなるというのです。
そして、この比率はおもちゃの好み、運動能力、潜在的な性的性向など多くのことと相関するそうです。

質問者さんのケースでは、恐らく胎児期に子宮内のエストロゲンに多く晒されていたことが、その後の人生での生理機能の幾つかの側面のプログラム化に影響したものと考えられています。この意味で、質問者さんも触れているように何かしら女性的な生理機能が備わっているのかもしれません。


男性ホルモンと女性ホルモン

相対的に言って、男性と女性のベーシックホルモンは同じですが、そのレベルは異なっています。時にして違いが非常に大きい場合があります。
生殖ホルモンは多様ですが、ここではエストラジオールプロゲステロン/テストステロンに絞ってお話しします。男女共にこれらホルモンを持っていますが、それはそんなに単純ではありません。

少なくともいくつかの例では、一方の性別における所定の生殖ホルモンの効果は、他方の性別では逆となります。代表例として、もしあなたが低テストステロンレベルの男性で、そのレベルを上げると、インスリン感受性が改善します。しかし、女性の場合は逆で、例えば、ポリ嚢胞性卵巣症候群と呼ばれるようなものが起こると、テストステロンレベルは標準レベルの2~3倍ほどに高まりますが、インスリン感受性は悪くなります。
同一ホルモンであっても男性と女性では異なった結果がもたらされるのです。
これはまさに基礎となる生物学や遺伝学などとの相互作用によるものです

それではエストロゲンの場合でもこのような相反作用が生じるのだろうか?
正直言って詳細には調べていませんが、男性にも等しく影響することは想像に難くありません。有酸素運動中に使うエネルギー燃料として、女性では脂肪の比率が高くタンパク質は少ないことは御貴承の通りですが、少なくともある事例で男性にエストロゲンを注射した処、同様のことが起こったことが報告されています・・・つまり、有酸素運動前にエストロゲンを摂取すると、筋肉の異化を抑止する効果があると言えるのではないでしょうか。

男性と女性のテストステロン及びエストロゲンレベルを一覧表にすると次の通りです。

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先ずはテストステロンから説明していきます。
女性のテストステロンレベルは非常に低く男性標準の大体1/10~1/30です。
PCOS(ポリ嚢胞性卵巣症候群)の場合には2~3倍ほどに高まりますが、それでも男性よりも低い。女性は低レベルですが受容器の感受性が高いため、男性よりもテストステロンに対して遥かに敏感です。従って、ちょっとした変化で良きにつけ(筋肉の成長やパフォーマンス)悪しきにつけ(体毛、ニキビ、脱毛など男性の二次性徴)大きなインパクトをもたらします。男性でテストステロンレベルが低いことは確かに不味いことですが、性機能低下症でない限り典型的な女性のレベルよりも依然として高いです。

つぎはエストロゲンです。
範囲は異なりますが男性も確かにエストロゲンを産生しています。
女性は30~370 pg/mlとなっています。男性の最大値は女性の最少値を超えることがあるかも知れませんが、全体的には女性の方が有意に低い。男性は異常に昂進しない限り女性よりずっと低いということです。

月経周期

ホルモンレベルを除外すると、恐らく最も大きな男女間の違いは月経周期に関係しています。
月経周期は、前月の開始日から次の月の開始日の前日までの日数を数えます。期間は個人差があり大まかに言って25日~38日間です。たとえば、標準的な28日周期の人の場合の排卵日は月経開始日から14日目ですが、35日周期の人の場合の排卵日は21日目となります。

因みに、男性の月次ホルモンレベルは下記のグラフ通りで、日々の大きな変動は無く女性に比べると横一線となっています。


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女性の体は御貴承の通り、月経期 → 卵胞期→排卵期→黄体期という4つの周期で妊娠準備を行っています。
月経直後の卵胞期では、エストロゲンの量は低レベルで始まり排卵期直前にピークに達して、子宮内膜を厚くして妊娠しやすい体に整えてくれます。

排卵期は、卵巣で成熟した1個の卵子が卵巣から出ていく時期で、卵胞が成熟すると脳下垂体から黄体化ホルモン(プロゲステロン)が分泌され排卵が促されます。排卵された卵子は、卵管を通ってゆっくり子宮へと向かいます。

排卵後つまり黄体期では、エストロゲンは石ころのように転がり落ちますが、やがて上昇を続けピーク時の半分近くまで高まります。

これら女性のホルモンレベルは一ヶ月を通して大きく変化し、エネルギー使用、回復やトレーニングへの適応能力、ムード、空腹感、食欲、食べ物への渇望、潜在的な損傷、月経前症候群などに影響を与えます。私の本の中では、これらに影響する様々なホルモン修飾因子に触れ、“これらが具体的にどのように変化するのか”、“食事管理やトレーニングをどうすべきか”について多くのページを割いています。

上述したように、男性ではテストステロンやエストロゲンレベルに日々の大きな変化はありません。従って、私の本に記載している情報は、女性を理解する一助にはなりますが、あなたの状況には適用しないでしょう。
あなたは恐らくインスリン感受性が低いので低炭水化物食を推奨しますが、摂取カロリーの余剰は抑え気味にする方が良いでしょう。また、ホルモンレベルが最適な成長や回復に十分ではないので、筋量アップのためのトレーニング量は少なくすべきです。或いは、ウェイトトレーニングよりも他のスポーツを選択することも考慮に入れてください。

あなたに役立つことと云えば、テストステロンを補充するHRT療法 (hormone replacement therapy)の腕の良いドクターや抗エストロゲン薬を見つけて、ホルモンレベルを最適にすることでしょう。
体脂肪を減らすと、エストロゲンレベルが下がりテストステロンが改善する可能性がありますが、HRTに比べると効果は小さいです。

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参考記事
Male and Female Physiology ?
December 10, 2015
By Lyle McDonald