第938回 同じ距離ならランニングとウォーキングの消費カロリーは同じ?


走る時間が一定であれば、遅く走るより速く走る方が消費カロリーは高くなります。走る距離が一定であれば、速く走るとそれだけ時間が短縮されるので、消費カロリーは変わりません。しかし、歩く場合は、速度を高めると距離当たり/時間当たりいずれも消費量は高まります。

「歩く」と「走る」の消費カロリーを比較するのは思ったほど簡単ではありません。
距離が一定でも基本的には「歩く」より「走る」方が消費カロリーは高くなりますが、歩く速度が一定のレベルを超えると話は違ってきます。

それでは少し長くなりますが、ここで云う一定のレベルとは何かを含めて詳しく説明します。


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先ずは、ウォーキングよりランニングの消費量が多いことを示すビデンスを紹介します。二つ目の研究論文はEPOCもランニングの方が大きいことが示されています。EPOCとはアフターバーンのことで、運動後に安静時代謝量が一時的に高まることを意味します。

Med Sci Sports Exerc.2004 Dec
Energy expenditure of walking and running: comparison with prediction equations
by米国Syracuse大学Hall C et al.

被験者24名、距離1600m、トレッドミルでウォーキングとランニングをやってもらい、消費量の違いを調べた。トレッドミルではランニングの消費カロリーは115 ± 5kcal、ウォーキングは 81 ± 3kcalだった。トラックでもランニングは115 ±5 kcal、ウォーキングは80± 3kcalで、いずれもランニングの方が大きかった(P < 0.01)

J Strength Cond Res. 2012 Apr
Energy expenditure comparison between walking and running in average fitness individuals
byカリフォルニア州立大学Wilkin LD et al.

被験者30名(男女各15名、年齢21.90 ± 2.52歳、身長 168.89 ± 11.20 cm、体重 71.01 ± 17.30 kg、BMI 41.51 ± 6.31)、距離1600m、ウォーキング(分速86m)とランニング(分速160m)をやってもらい消費量を調べた。その結果は、運動中の消費量はウォーキング:89 ± 19 kcal、ランニング:113 ± 24 kcalでランニングの方が高かった。アフターバーン(EPOC)を含むとウォーキングは111 ± 19 kcal、ランニングは159 ± 36 kcalで、矢張りランニングの方が高かった。因みに、EPOCは10分後(ウォーキング)及び15分後(ランニング)まで続いた。

亦、ローレンス・バークレー国立研究所(米国エネルギー省)のPaul T. Williams博士は、2013年5月29日 付けニューヨークタイムズ紙で『もちろん個人差はあるが、ウォーキングでランニングと同じエネルギーを燃焼させるには、距離にして約1.5倍、時間にして約2倍歩かなければならない』と語っています。

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上記の研究論文では、moderate paceのウォーキング(regular walking)と時速10kmのランニングでの消費カロリーを比較しています。
Paul T. Williams博士の論説も、前向きコホート研究National Runners’ Health Study及びNational Walkers’ Health Studyに基づいているので、ウォーキング/ランニング共に平均的な速度と考えて良いでしょう。


それでは話を先に進めましょう。
世界最大のスポーツ医学団体といわれるACSMのメッツ表(改訂版)を、分かり易く一覧表にしましたので、これを参照しながら説明を読んでください。


(注)体重70kgの人が60分間走った時の消費カロリーを1.05 x Mets x 体重 x 時間で算出したgross値が(1)で、1.05 x Mets (安静時代謝量1メッツを除く)x 体重 x 時間で算出したnet値が(2)です。

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「歩く」と「走る」

ヒトの動歩行とは、前方に出した片足が着地する前に、着地点方向へ人体の重心を移動させていくことで、走る動作は動歩行を早めることですが、速度が上がるに連れて接地時間が短くなり、やがて両足が宙に浮きジャンプの要素が加わります。そうすると接地衝撃もウォーキングよりも強くなり、ウォーキングでは使われない大腿四頭筋など体幹の筋肉や関節への負担が増します。1リットルの酸素を使うと5kcalのエネルギーが発生しますが、速度を上げるとより多くの酸素が使われることになります。


我々は一体どれくらいの速度で歩けるのでしょうか?

Regular Walking/Power Walking/Race Walking
Power walkingの特徴は、①かかと着地して蹴りだすように歩く、②腕を90度に曲げ前後に大きく振る、③最大心拍数の60~75%を保つという3点です。
“The Complete Guide to Walking for Health, Weight Loss and Fitness” の著者Mr Mark Fentonは、『Regular walkingで出せるスピードのリミットはvery/very brisk paceつまり凡そ4.5mph(=時速7.2km)ですが、power walkingでは5.5mph(=時速8.9km)まで出せる』と言っています。

ACSMメッツ表にはRegular walkingと power walkingの区別は無く、ウォーキングの速度は5mph(=時速8km)までしか書かれていません。何事も個人差はあると思いますが、一般的には権威あるACSMメッツ表の数値を参照するのが妥当でしょう。

Race walkingとは競歩のことで、①常にどちらかの足が地面に接していること、②前脚は接地の瞬間から地面と垂直になるまで膝を伸ばすという2点が基本です。
5mph(=時速8km)以上の速度で歩けるのは、蓋しrace walkingアスリートしかいないと云われています。競歩の日本記録は、20kmレースで1:16:36つまり時速15.8km(9.8mph),50kmでは3:40:12つまり時速13.6km(8.5mph)です。
因みに、メッツ表ではrace walkingは6.5メッツと記載されていますが、われわれ素人の場合では6.5メッツ程度ということだと推察します。速度の記載がないのは学術的文献がないからでしょう。

いずれにせよヒトの歩く速度の限界はと言えば、もちろんrace walking 競技の世界記録でしょう


「ランニング」と「ジョギング」

エアロビクスの提唱者・ケネス・クーパー博士は、1マイル(約1.6km)を9分以内に走るのがランニング、それ以下のスピードだとジョギングということだそうで、時速に換算すると約10kmが境目ということになります。
その他にもジョギングはkm当たり6~7分、つまり時速10km~8.6kmだという説もあります。
世界最大の医学団体の米国ACSMによる身体活動のメッツ表(改訂版)では、「ジョギング全般:7メッツ」と記載されていますがmphの表示がありません。
時速6.4km(6メッツ)/時速8.0km(8.3メッツ)の表示値から推計すると、7メッツは時速7.2km位になります。

スロージョギング

福岡大学の田中宏暁教授が提唱するスロージョギングとは、歩幅を小さく(10cm位)、歩くような早さで(時速3-6 km程度)、“フォアフット着地”つまり足の指のつけ根で着地して真下に押すようにして、両足が一瞬でも宙に浮くような感じで走るのがポイントです。
消費カロリーは同じ速度のウォーキングの1.7倍だそうです・・・詳細については “第636回 ウォーキング vs スロージョギング” をご覧ください。


それでは、ウォーキングとランニングの速度(メッツ)とエネルギー消費量との関係について言及しましょう。

Runner‘s Worldでお馴染みのMr Amby Burfootが興味深いことを言っています。
トレッドミルで2分間3.0 mph(=20分/1マイル)、3.5 mph、4.0 mph 、4.5 mph 、5.0 mph 、5.5mph(=10:55/1マイル)の速度でランニングとウォーキングを行った。その時の心拍数は、それぞれ3.0 (99/81), 3.5 (104/85), 4.0 (109/94), 4.5 (114/107), 5.0 (120/126), 5.5 (122/145)だったそうです。つまり、1マイル当たり12分以下の速度ではランニングの方がハードですが、12分を超えるとウォーキングの方がハードになると言っています。その理由として、「ヒトの体は歩く動作で走るような速度を出せるようには作られていない。従って、歩く速度が高まり過ぎると内部摩擦や非効率性が生じ、その結果として心拍数/酸素摂取量/エネルギー消費量が高まる」と言っています。
上表のように平坦地をスキーポールでノルディックウォーキングをしたり、後ろ向きに歩くと消費量が高まることが、このことを裏付けているように思います。Race walkingのような極めて不自然な歩き方で速度を上げる場合も同様でしょう。

このことを踏まえてあらためてメッツ表を見ると、今まで気づかなかったポイントが見えてきます。つまり、ランニング4mph(=時速6.4km)は6メッツと表示されていますが、同じ速度でのウォーキングはvery brisk paceとされ5メッツとなっています。しかし、ランニング5mph(=時速8km)とウォーキング5mphはいずれも8.3メッツと表示されています。

纏めますと、
ウォーキングはmoderate paceの2.8~3.2mph(=時速4.5~5.1km)が圧倒的に多く、5mph(=時速8km)より速く歩く人は、競歩アスリート以外にあまり見かけない。
歩く速度が5mph(=時速8km)辺りに達すると、ランニング5mph(=時速8km)による消費カロリーと拮抗する。
平坦地を5mph(=時速8km)より速く歩いた場合のメッツ数の表示はないが、平均的なランニング速度6mph(=時速9.7km)の消費カロリーを超える可能性は十分に考えられる。

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