第942回 食事改善 vs 運動 Part 2


減量するには食事制限と運動のどちらを先に始めるべきでしょうか?
やはり食事制限でしょうか?

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“定期的な身体活動と健康的な食事のためのガイドライン”が国民的レベルで奨励されていますが、多くの中高年者がこの推奨レベルを下回っているのが実状です。
運動と食事という二つのhealth behavior(健康行動)に関して、特にbehavior change(行動変容)のタイミング、つまり、順次的行動変容 or 同時行動変容のいずれにすべきかについては明らかになっていません。分かり易く言うと、食事改善から始めて運動はその後に順次に行うべきか、或いはその逆の順番で行うべきか、それとも二つを同時に行うのが良いのかということです。

順次的変容を支持する考え方は社会的認知理論で見られます、そこでは複雑な行動パターンを現実的なステップに細分化して、最初の成功体験を高めることで進行している行動変容への熟達化と自己効力感を促すことが重要であると強調しています。
このアプローチの長所として、ゲートウェイ効果(飛び石効果)やスピルオーバー効果(拡散効果)が挙げられます。つまり、自己の成功体験を段階的に積み重ねていくことで自己効力感が高まり、結果期待(outcome expectation:出来そうだという自信)につながって次の行動に移す確率が高まるということです。
しかし、目標に向かっての順次的なアプローチは、モチベーションや自己統制を損なって追加的に第2の行動変化を行ない難くさせるというデメリットも考えられます。

同時行動によるアプローチは健康行動がクラスタ化する傾向を示す疫学的エビデンスに基づいています。勿論このアプローチにも長短があります。

順次的行動変容と同時行動変容を比較した研究を見てみましょう。


Ann Behav Med. 2007 Apr
Two-year follow-up of sequential and simultaneous interactive computer-tailored interventions for increasing physical activity and decreasing fat intake

Vandenalotte et al.による研究では、392名を同時並行群、身体活動→3ヶ月後に食事介入群、食事介入→3ヶ月後に身体活動介入群の3群に無作為に割り付け、長期的な効力を調べるため2年間の追跡調査を行いましたが、3群に顕著な違いは見られませんでした。


Arch Intern Med. 2007 Jun
Simultaneous vs sequential counseling for multiple behavior change

Hyman et al.による46~64歳の289名を対象にした18カ月の研究では、順次的アプローチが同時アプローチより優れていないこと(寧ろ劣っている)ことが報告されています。


Ann Behav Med. 2014 Oct
Behavioral Impacts of Sequentially versus Simultaneously Delivered Dietary Plus Physical Activity Interventions: the CALM Trial

King et al.による最近の研究報告では “第441回 食事改善と運動どちらが先?” で説明した通り、アメリカ保健社会福祉省(HHS)が推奨する“国民の身体活動と食事についてのガイドライン”の水準に満たない200人(45歳以上)を被験者として、(1)先に運動指導、4ヶ月後に食事指導を追加、(2)先に食事指導、4ヶ月後に運動指導を追加 、(3)初めから食事指導と運動指導を同時進行、(4)ストレス対策についての注意のみ(対照群)の4群に割付けて調査した結果、「初めから食事改善と運動改善を同時に行う」が最も有効でした。そして、敢えてどちらかを選ぶ必要があれば、まず運動から始める方が良いようです。何故なら、運動から改善したグループは、食事の改善も認められましたが、食事から改善したグループは、身体活動の改善は認められませんでした。


Academy of Nutrition and Dietetics
October 2014 Volume 114, Issue 10,
Diet or Exercise Interventions vs Combined Behavioral Weight Management Programs: A Systematic Review and Meta-Analysis of Direct Comparisons

David J. Johns et al.は、18歳以上の過体重肥満者を対象とした『“食事+身体活動” vs “食事のみ”』 及び『 “食事+身体活動” vs “身体活動のみ”』 による3~6ヶ月(短期)と12~18ヶ月(長期)の体重変化を比較したRCT試験のシステマティックレビュー/メタ解析を行いました。

“食事+身体活動” vs “食事のみ”
1,022名を対象とした6件の研究が組入れ基準(試験対象者基準)を満たしました。結果は、短期では有意な群間差はありませんでしたが、長期では “食事+身体活動” の方が有意に大きな体重減少を示しました。

“食事+身体活動” vs “身体活動のみ”
5つの研究が組入れ基準を満たしました。 結果は短期/長期いずれも、“食事+身体活動” に有意に大きな体重減少が認められました。


Int J Sports Med. 2015 Dec
Effects of Simultaneous or Sequential Weight Loss Diet and Aerobic Interval Training on Metabolic Syndrome

Mora-Rodriguez et al.による研究では、メタボ肥満者36名(男性27名/女性9名、年齢:54±9歳、BMI:33±4)を『有酸素インターバルトレーニング(ATT)のみ(12名)』、『ATT後に減量食(E→D 12名)』、『ATT及び減量食を同時(E+D 12名)』の3群に割り付けました。ATTおよび減量食の期間はいずれも16週間です。

その結果、
体重は3群で同様の減少が見られました(~5%)
3群いずれもトレーニングすることで血圧と最大酸素摂取量が改善しました。
しかし、E+Dではインスリン感受性(HOMA)が改善し、血漿トリグリセリドおよび血中コレステロールがATTのみ/E→Dより低下しました(all P<0.05)
E→Dの16週間の運動なしの減量食での体重減少で、HOMAはE+Dレベルまで低下し、トレーニングレベル時の血圧を維持しました。
この研究では、運動期間後に食事制限を行う順次的介入が、運動/食事制限の同時介入と同様の効果があることを示しています。

Bottom line
以上の通り、成人では減量は食事制限と運動を同時に行うのが最も望ましく、敢えてどちらかを二者択一するなら運動から始める方が良いようです。先に食事制限から始めると運動への抑止力が高まることが危惧されます。

Take-home message
誰彼の見境なく食事制限のみを奨める人は、エネルギー収支バランスに対する感覚そのものがアンバランスです。ヒトは指紋が示すように千差万別です。特定の個人にとって最も有用な(helpful)方法は、ダイエットの目的、年齢(思春期/成人/高齢期)、性別、体組成、遺伝子、知的度、嗜好、文化、宗教、経済的/社会的/時間的制約、地域性、家庭の状況etcの個別性により変わってきます。間違った情報で遠回りや挫折をしない様に、ここで提供している科学的エビデンスに基づいた情報を参考にして進めていくことをお奨めします。成功を祈ります!

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