第944回 体重の増減が体組成および体脂肪分布に及ぼす影響


上半身の皮下脂肪と内臓脂肪は脂肪細胞が肥大化することで蓄積される。故に、体重と比例して増減する。しかし、下半身の脂肪は然にあらず、脂肪細胞の数が増えることで蓄積される。故に、下半身の脂肪は短期的な食事制限では減少せず、而も、脂肪細胞の数は減量しても減少しないので、体重の増減を繰り返すと長期的には脂肪細胞の数が増えていき、体重の再増加リスクは大きくなる。

画像



<解説>
メイヨークリニックの内分泌学者マイケル·ジェンソンら研究チームは、被験者に実験的に過食させた先行研究で、 “腹部脂肪の蓄積は個々の細胞サイズが拡大することに起因する”、“大腿または下半身の脂肪増は、脂肪細胞の過形成つまり細胞数の増加によって起こる”、“下半身の脂肪が1.6kg 増えることで26億個の脂肪細胞が新生する” ことを報告しています。

第2弾の研究では、同じく標準体重で健康な男女を被験者として、8週間の過食(体重増加)後に8週間のカロリー制限(体重減少)を行い、上半身の脂肪組織/下半身の脂肪組織/内臓脂肪にどのように影響するかについて調査しました。
つまり、
・各部位の脂肪減少は先行研究での脂肪増加と鏡映するのか?
・下半身の脂肪減少は「脂肪細胞の数」または「脂肪細胞のサイズ」いずれの減少に起因するのかどうか?

その結果、『過食で増えた上半身の皮下脂肪と内臓脂肪の量は食事制限することで過食前の状態に戻るが、下半身の体脂肪量は過食前には戻らない。更に下半身の脂肪細胞の“数”は、減量しても減少しない』、また『減量すると内臓脂肪より先に上半身の脂肪が動員(Mobilization)される』ことなどが明らかにされました。

本論文の骨子は “第271回 女性の悩み・・・下半身太りを解明する” で紹介しましたが、Full Textが無料公開されたので一部追記します。

画像


American Journal of Clinical Nutrition
First published July 3, 2012,
Effects of weight gain and weight loss on regional fat distribution

イントロ:

過剰な体脂肪は代謝不全や心循環系の苦しみと関連する(1);しかし、肥満の合併症には脂肪の分布は脂肪量と同じく重要である(2)。過剰な腹部脂肪は脂質異常症、高血圧、及びインスリン抵抗性を促す(3)。逆に、下半身の過剰な脂肪は心血管疾患のリスク減と関連する。
従って、カロリー過多やカロリー不足の時に、特定の部位の脂肪を優先的に増やしたり減らしたり出来るのかどうかを明らかにすることは非常に重要である。
そこで、各部位の脂肪細胞組織に蓄積された脂肪の増減はどのような優先順位となっているのかを調べるために、健康で標準体重の成人を被験者とした縦断的研究デザインで、体重増減に伴う各部位の脂肪量の変化を調べた。
本質的に脂肪細胞の脂肪蓄積(4, 5)や脂肪酸分泌(6)の能力は部位別に異なっている・・・脂肪組織に局在する前駆脂肪細胞でさえ部位によって異なる(7, 8)。
標準体重の成人に過食させた結果、腹部の皮下脂肪細胞は肥大化によって過剰カロリーを蓄積するが、大腿部の脂肪細胞は過形成によって蓄積すること(9)を最近の研究論文で報告済みである。
本論文では、上半身と下半身の皮下脂肪組織は、カロリー制限および体重増加後の脂肪減少にどのように応答するかについて報告する。

被験者&方法:

被験者23名(内訳は男性15名/女性8名)を一般公募した。
BMI:23.6 ± 3.9
平均年齢:30 ± 6歳

ベースラインの3日間は、経験を積んだ栄養士の指導の下で“炭水化物40%+脂質40%+タンパク質20%”のカロリー維持食を割り当てた。

最初の8週間は体重増加期間として、通常食に加えて400~1200kcalの追加食(~5%体重増加)を割り当てた。追加食はアイスクリームシェイク/チョコレートバー/エネルギードリンクである。
カロリー摂取量を調整するために体重測定を週5回以上行った。

次の8週間は、増えた体重をベースライン時の体重に戻すことを目標としてカロリー制限を行った。具体的にはカロリー摂取量を通常の食事パターンに落とすべく栄養士がカウンセリングを行った。
減量を促すために身体活動を増やした。
体重測定は増量期と同様に週5回以上行った。

結果:

体重の増減が体組成および脂肪分布に及ぼす影響

被験者の体重は、増量時に3.7 ± 1.4 kg増え、減量時に2.8 ± 1.6 kg減少した。これら体重の変化は総脂肪量の変化に起因した・・・除脂肪量は試験期間を通じて有意に変化しなかった。減量後に測定では、被験者の体重はベースライン時の体重に完全には戻っていなかった。

ベースライン時と減量後の測定を比較すると、下半身の脂肪量では有意な違いがあったが、
内臓脂肪または上半身の皮下脂肪(USBQ)では有意な差異は認められなかった。(Table 2)

平均して、上半身の脂肪は1.9 ± 1.3 kg増(総脂肪増の61%)、下半身の脂肪は0.9 ± 0.7 kg増(27%)、皮下脂肪は0.4 ± 0.7 kg増(12%)だった。

減量時では、上半身の脂肪は1.7 ± 1.3 kg減、下半身の脂肪は0.5 ± 0.6 kg減、皮下脂肪は0.2 ±1.5 kg減だった

画像



(註)
・数値は全て平均±標準偏差
・P < 0.05をsignificant(有意)と考慮
・T1はベースライン、T2は増量後、T3は減量後
・UBSQは上半身の皮下脂肪


体重増加で増幅した脂肪部位は体重減少で収縮した脂肪部位と同じかどうか調べるため、体重増加および体重減少の期間中の部位の脂肪量の絶対的変化の関連性を調べた。(Table 1)
体重増加時の内臓脂肪と上半身の脂肪量は、体重減少時の脂肪量の減少と関連した。
更に、平均すると増えた上半身の脂肪量は全てなくなった。

本研究では体重増加時/体重減少時の脂肪分布の性差を突きとめるに至ってはいないが、本研究の被験者に限って言えば性差は検出されなかった。

画像



体重減少が脂肪細胞のサイズと数に及ぼす影響


従来のデータ(9)をベースに脂肪細胞サイズの変化と各部位の脂肪増加との関連性が有意かどうかを決定するには統計的件出力が十分でないため、脂肪細胞サイズと体重減少に絞って解析を行った(腹部n=16ペア観察、大腿部n=16ペア観察)
体脂肪の減少に応答した腹部および大腿部の皮下脂肪組織の変化は下記Table3の通りである。

画像


平均して、腹部の皮下脂肪細胞のサイズ(数ではない)は、体重減少に応答して有意に減少した。体重減少時の腹部の皮下脂肪細胞サイズの絶対的な減少は、上半身の脂肪量の絶対的な減少と相関しており(ρ = 0.76; P = 0.0007) (Figure 1A)、脂肪減少は脂肪細胞サイズの減少に大きく起因することを示唆した。
体重減少に伴う腹部の皮下脂肪細胞のサイズの変化は男性と女性では不均一であり、体重増加の後に観察された脂肪細胞サイズとは相関しなかった(Figure 2A)。

大腿部の脂肪細胞サイズも体重減少に応答して減少しており(P = 0.023)、下半身の脂肪量が0.5kg減少したにも拘わらず脚の脂肪細胞数は不変であった。
女性(not男性)では体重の減少は一貫して大腿部の脂肪細胞サイズを減少させた(−0.187 ± 0.150 compared with −0.107 ± 0.226 μg lipid/cell, respectively)。
腹部の皮下脂肪組織と同様に、大腿部の脂肪細胞サイズの減少は下半身の脂肪量の減少と関連したが(ρ = 0.49, P = 0.05)、これは脂肪の減少が大腿部の脂肪サイズの減少に起因することを示している(Figure 1B)。
体重増加時に報告したものと同様に、体重増加後の大腿部の脂肪細胞サイズは体重減少に伴う大腿部の脂肪細胞サイズの変化を予測した(ρ = −0.55, P = 0.023) (Figure 2B)。

画像


考察:

標準体重で健康な成人での体重増加が、腹部脂肪細胞の肥大化と下半身の脂肪細胞の過形成をもたらすことは我々の先行研究で報告した(9)。しかし、これら新しく形成された下半身の脂肪細胞が、体重減少によって旧態に復帰するかどうかは我々が知る限りでは不明であった。
体重減少に応答する部位の脂肪細胞組織の生物学を理解するために、我々は実験的に被験者の体重を増加させた後で減食によって減量させてから、脂肪部位の質量と皮下脂肪細胞のサイズの変化を測定した。

内臓脂肪と上半身の脂肪量は、増えた脂肪が完全に減少していないにもかかわらず過食前の量に戻ったが、下半身の脂肪は過食前の量に戻らなかったことを我々は示した。同様に大いなる関心事として、減量に伴って下半身の脂肪細胞の数は減少しなかった。

我々の知る限り、これはヒトでの脂肪の増減に伴う“細胞質の変化”と“各部位への脂肪分布”を調べた初めての縦断的研究である。

下半身の脂肪と比較して上半身の脂肪と内臓脂肪は、減量時に体重増加前の量にいっそう迅速に戻ることが分かったが、これは上半身/下半身の体脂肪蓄積容量または脂肪分解率の違いによるものかも知れない。
下半身の脂肪細胞よりも上半身の脂肪細胞は、食事性脂質(トリグリセリド)に対するストレージ親和性が大きいが(4, 5, 14)、上半身の脂肪細胞はまた一般的に下半身の脂肪細胞より脂肪分解の刺激にいっそう反応する(6, 15–17)。

これらの違いは、下半身の脂肪細胞よりも上半身の脂肪細胞の方が、余剰エネルギーを体脂肪としてより容易に蓄積するという理由で説明できるだろう。
注目すべきことは、減量時には内臓脂肪より先に上半身の脂肪が優先的に動員されることも肥満の成人で観察された。(18–21)
我々は内臓脂肪細胞のサイズを測定できなかったが、各時点で内臓脂肪量並びに上半身の脂肪量を測定することが重要だった。そうすることでのみ腹部脂肪細胞サイズの変化と上半身の脂肪量の変化との関連性を理解することが出来たであろう。

上半身と下半身の皮下脂肪が増加したエネルギーを蓄積するために細胞レベルで異なる応答をしたことを示した(9)。
本論文では体重減少に応答して各部位の脂肪細胞がどうなるのかという点まで探究した。
“減量時の上半身と下半身の皮下脂肪量の減少は、脂肪細胞のサイズ減少に起因し、脂肪細胞の数ではない”と云う我々の知見は、肥満の成人の体重減少は脂肪細胞の数の変化ではなく脂肪細胞サイズの減少に起因するという観察と一致した(22–24)。

減量後、肥満者の脂肪細胞は、同様の体脂肪率や体重に変化のない人たちに比べて、小さくなっていた。しかし、これら肥満の成人が肥満になる前により多くの脂肪細胞を持っていたのかどうかは不明である。エビデンスは肥満後の成人に多くの脂肪細胞があることを示唆しており、これは脂肪細胞質に基づく体重増加の長期的な結果であると考えられる。

小さい脂肪細胞をたくさん有することでレプチン不足が生じる可能性がある(23, 26, 27)。血漿中のレプチン濃度は体脂肪含有量と脂肪細胞サイズに関連し、減量後により小さくなった脂肪細胞は、一定の脂肪量に対するレプチン分泌量が少ないことをデータは示唆していた。
この影響は食欲の調節不全(28)を引き起こし、必要エネルギーを上回るカロリーの過剰摂取を促すのかも知れない。その結果、ちょっとした体重増減が長期的な結果として脂肪細胞質、レプチン減少、食欲増進、延いては体重の再増加に向かう傾向をもたらす可能性があることを本研究は示唆している