第1047回 日本人T2D患者への食事療法


今回ご紹介する研究論文はシステマティックレビューと題していますが、僅か3件のRCT研究(Yamada et alSato et alYabe et al)をレビューしたものであり、而も、いずれも2型糖尿病を対象とした短期で小規模な研究です。糖質制限の第一人者の研究論文としては、首を傾げたくなるような内容なので、辛口のコメントを付します。
このような不十分なデータを以って、『日本糖尿病学会が推奨するエネルギー制限食は、科学的エビデンスによって支持されていない。逆に、エネルギー制限食ではなく炭水化物制限食が、日本人の糖尿病管理に短期的な利益をもたらすかもしれないことを本研究は示唆している』と大言壮語する主筆者の真意を測りかねます。

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Nutrients
2018, 10(8), 1080; doi:10.3390/nu10081080
Dietary Approaches for Japanese Patients with Diabetes: A Systematic Review
By 北里研究所病院 Dr. 山田悟/埼友クリニック Dr. 壁谷/聖路加国際病院 Dr. 能登

目的:
エネルギー制限食と炭水化物制限食が日本人向け糖尿病管理に及ぼす影響を明らかにするため系統的レビューを行った。

結果:
特に日本における糖尿病患者への食事管理に関するエビデンスは殆ど無く、日本糖尿病学会が単一的に推奨するエネルギー制限食は、科学的エビデンスによって支持されていないことが、今回の系統的レビューで明らかになった。
逆に、エネルギー制限食ではなく炭水化物制限食が、日本人の糖尿病管理に短期的な利益をもたらすかもしれないことを本研究は示唆している。
しかし、我々の解析は限られた数の小規模無作為化比較試験に基づいているため、我々の所見を確認するためには大規模and/or長期的な試験が必要である。

結論:
私たちのシステマティックレビューから、日本人の糖尿病患者を対象とした食事療法に関する研究は僅かしかないことが明らかになった。 日本糖尿病病学会が推奨するエネルギー制限食のリスクと利益をもっと完全に評価するには大規模な試験が必要である。 一方、炭水化物制限食の有効性は、エビデンスは限られているものの、少なくとも短期ベースでは支持されている。エビデンスに基づく食事療法を確立するためには、よくデザインされたもっと質の高い試験が必要である。

マイコメント:

いけしゃあしゃあと “本研究での知見を確認するには大規模/長期の試験が必要である”と強調していますが、上述の山田医師による24名の高齢者を被験者とした6ヶ月の先行研究も続けていれば2年以上の長期的なエビデンスになっているのに、何故フォローアップを続けなかったのか理由を知りたいですね…第1036回 糖質制限のメリットを究明する!

英単語“reveal”は、〔知られていなかったことを〕明らかにするという意です。本論文では〝Our study revealed that there is very little evidence on diets, particularly in Japanese patients with diabetes…“と述べていますが、このような形で今さら大げさに騒ぎ立てることに大きな違和感を抱きます。


現状把握
米国では善かれ悪しかれ低炭水化物食の人気がエビデンスに先行して広まりました。米国糖尿病学会(ADA)としては実勢を第一義に捉え、低炭水化物食を糖尿病食の選択肢の一つとする柔軟的な決断を下し、患者中心アプローチ/決定共有アプローチ/治療の個別化の方針を全面に押し出しました…第548回 米国糖尿病学会が推奨する栄養療法

一方、日本糖尿病学会は依然としてこのADA方針に追随しておらず、『病態によっては最適の栄養摂取比率が異なるので、エネルギー摂取量の制限を優先すべきである。糖質制限食については、炭水化物の極端な制限は安全性などのエビデンスが不足しており現時点では薦められない。日本人においては、日本人の一般的な栄養素摂取比率からみても、糖尿病で推奨される炭水化物の摂取比率は50~60%である。』という考え方を示しています。

炭水化物・糖尿病食の略史
1980年に米国農務省は栄養学者プリティキン氏の主導で科学的根拠のない食事ガイドを作り、多額のPR費を費やして世界的に広めたと言われています。その内容は「高炭水化物・低タンパク質・低脂肪」で、食肉など動物性タンパク質を減らすように推奨するものでした。

一方、医学界の動向としては、20世紀の前半にElliot Joslin et alは炭水化物:40%/タンパク質:20%/脂質:40%の食事を全ての糖尿病患者に推奨しました。この食事療法は糖尿病の標準食として医療従事者に広く受け入れられました。しかし、1970年代後半に、冠動脈疾患の発症リスク増大の懸念が持ち上がり、その原因として脂質の過剰摂取が指摘されました。医学会では脂質の摂取比率を30%に引き下げ、その引き下げ分を炭水化物かタンパク質で穴埋めする必要性に迫られましたが、最終的に炭水化物を10%増やす決定が下され、糖尿病食の構成は炭水化物:凡そ50~55%/脂質:30~35%/タンパク質15~20%に変更となりました。…『第767回 栄養療法』、『第984回 米国糖尿病学会は低炭水化物食(糖質制限)を“正式に”容認した???


厚労省も日本糖尿病学会いずれの勧告も基本的には米国に追随したもので、日本人を対象にしたRCT研究に基づいて策定された数値でないことは周知の事実です。
だからと言って長期的な安全性/優位性が証明されていない糖質制限食を、日本糖尿学会に正式に認可させるための戦術として、このような形で迫るのは筋違いでしょう。
逆に、同じ轍を踏まないためにも、正攻法で臨んで有効性と安全性に裏付けられた糖質制限の優位性を科学的に証明することが肝要ではないでしょうか。

小生がこの研究論文を読んで不自然だと感じたもう一つの点は、非糖質セイゲニストの能登医師が研究チームの一員として名を連ねていることです。同医師は論文完了後2018/7/30付け日経メディカルで低炭水化物食についての持論を詳述していますが、“炭水化物摂取量は55%程度が妥当だろう”という考え方をしています。
次回ご紹介します。

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