第1062回 たった一晩の睡眠不足が肥満につながる?


睡眠不足が、“肥満につながること”、“健康な高校生でもインスリン抵抗性を高め、糖尿病発症につながること”は当ブログでも取り上げました。今般、米国ノースウェスタン大学による新しい研究で、たった一晩の睡眠不足でも肥満につながるメカニズムの一端が解明されました。健康で若い男性でも、一晩徹夜するだけでも筋肉は分解されて、体脂肪が脂肪組織にため込まれることが遺伝子レベルでわかったそうです。

この研究論文は難しいので、初心者の方はこの↑結論を知るだけで十分でしょう!

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概要
“一晩の睡眠不足が肥満につながるメカニズムの一端を解明した”という、米国ノースウェスタン大学のJonathan Cedernaes氏らからの研究報告が、Science Advances(8月22日)に発表されました。『一晩の睡眠不足がヒトの遺伝子発現および代謝調節に組織特異的な影響を有する。これは、シフト勤務での夜勤や慢性的な睡眠不足が、いかに私たちの代謝を損ない、体組成に悪影響を与えるかの説明になるだろう』と研究者らは述べています。

解説
これまで多くの疫学的研究で、慢性的な睡眠障害に苦しんでいる人やシフト勤務の人は、肥満や2型糖尿病の発症リスクが高くなることが示されています。
また、睡眠障害と体重増加との関連性についても先行研究で示されていますが、先行研究では、骨格筋および脂肪組織の代謝機能は睡眠障害や概日リズムによって悪影響されると考えられ、睡眠不足そのものが体重増加の危険性を高める組織レベルでの分子変化を引き起こすかどうかは不明でした。

今回の新研究では、平均年齢22.3 ± 0.5歳の健康で標準体重 (BMI22.6 ± 0.5)の男性15人に研究室に2泊してもらい、一晩徹夜すると遺伝的または生理学的に代謝にどのように影響するのかを調べました。
参加者には1日目の晩は8.5時間 (2230 to 0700 h)の睡眠を取ってもらいました。2日目の晩は、一晩中眠らずに徹夜してもらう群と8.5時間の睡眠を取る群に割り付けました。
その翌朝、皮下脂肪組織と骨格筋から小組織サンプル(生検)を採取し、同時に血液サンプルも採取しました。

組織サンプルを複数の分子分析に使用したところ、まず、睡眠不足状態が遺伝子発現を調節するメカニズムの1つであるDNAメチル化の組織特異的変化をもたらすことが明らかになりました。 DNAメチル化は、身体内の各細胞の遺伝子のオンまたはオフの調節に関与する、いわゆるエピジェネティック(後成的)な変化であり、エクササイズなどの遺伝的/環境的因子によって影響を受けます。

本研究のリーダーCedernaes氏は次のように語っています。

私たちは、急性的な睡眠不足それ自体が、各組織内の時計遺伝子のエピジェネティックな変化をもたらすことを初めて示しました。ヒトゲノム全体に広がる遺伝子におけるDNAメチル化の度合いに、睡眠不足が組織特異的変化をもたらすことを我々の研究結果は示している。更に、筋肉と脂肪組織を並行解析することで、DNAメチル化がこれらの組織で、急性的な睡眠不足に応じて同様にregulateされていないことも明らかなった。

脂肪組織におけるDNAメチル化の変化―特に肥満や2型糖尿病などの代謝状態でのDNAメチル化レベルで変化することが明らかにされている遺伝子ーについては興味深い。エピジェネティックな変化は、代謝プログラムが長い期間にわたってどのように作動するかをregulateする一種の代謝的メモリー「記憶」を与えることができると考えられる。それ故、我々はこの研究で観察した変化が、“慢性的な睡眠障害や概日リズムが肥満の発症リスクにどのように影響するか”というパズルの、新たなピースとなるのではないかと考えている。

遺伝子とタンパク質の発現についての更なる分析で、覚醒の結果としての応答が骨格筋と脂肪組織とで異なることを示した。覚醒の期間は夜勤に割り当てられた多くのシフト勤務者の一晩の覚醒期間をシミュレートできるでしょう。

何故2つの組織がこのような形で応答するのかについては、一晩の覚醒期間が組織の概日リズムに組織特異的な効果を及ぼし、これらのリズム間の不整合をもたらすのではないかということで説明できるであろう。

睡眠不足に応答して組織全体に炎症が増加する分子サインが観察された。しかし、脂肪組織が睡眠不足後に脂肪蓄積能を高めようとすることを示す特定の分子サインが見られた一方で、カタボリズムと呼ばれる筋タンパク質の分解を示す兆候が観察された。筋タンパク質の変化は血糖値と関連するが、この研究で参加者のグルコース感受性は睡眠不足後に損なわれた。取りまとめると、これらの所見は、慢性的な睡眠不足とシフト勤務が有害な体重増加リスクや2型糖尿病の発症リスクを高める理由についての洞察の一助となるであろう。

因みに、この研究では一晩の睡眠不足の影響しか調べていない。従って、他の形での睡眠や概日リズムのズレが参加者の組織代謝にどのように影響を及ぼすかはわからない。

我々が本研究で観察した睡眠不足による代謝の変化は、一晩以上の回復睡眠によってどの程度まで正常化できるかを調べることは興味深いであろう。食事管理や運動はDNAメチル化を変えることができる因子なので、夜勤などで睡眠時間が不規則な人は健康的な食生活を心掛け、定期的に運動するなど良好な生活習慣を保つべきであろう。

出典:
Science Daily
August 23, 2018
How sleep loss may contribute to adverse weight gain

Science Advances
Acute sleep loss results in tissue-specific alterations in genome-wide DNA methylation state and metabolic fuel utilization in humans