第1048回 糖質制限食の長期的な優位性はまだ不明!


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体重管理(いわゆるダイエット)や血糖コントロールに対して食事療法は基本的なアプローチだが、どのような食事療法が最適かつ安全なのだろうか? いまだに一部で議論が続いているなか、現時点でのbest available evidenceを、中立的な観点で客観的に吟味してみよう。


体重管理に関して

体重の増減はエネルギーの消費量と摂取量のバランスで規定され、総エネルギー消費量は基礎代謝量、運動消費量、食事誘発性熱産生で構成される。一方、現実には実行可能性やアドヒアランスなども関与してくるため、炭水化物(糖質)制限食や脂肪制限食などの食事内容によっても、体重は影響される可能性がある。

第3回では、「ダイエット」に対する食事の長期的効果は質より量であることを述べたが、その後も同様のエビデンスが続出している。

炭水化物制限食 vs. 総エネルギー制限食

メタアナリシス1)によると、非糖尿病肥満者では総エネルギー制限食より炭水化物制限食の方が3~6カ月後の減量度は大きい印象だが、1~2年間のスパンでは両制限食間に有意差を認めていない。2型糖尿病肥満者では、短期間・長期間ともに、有意差を認めていない。

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炭水化物制限食 vs. 脂肪制限食

第3回で、総エネルギー摂取量が同じであれば長期的な減量効果は両者とも同程度であることを示したエビデンス2,3)を紹介した。その後、炭水化物制限食の方が減量効果に優れることを示す研究4)や脂肪制限食の方が優れる可能性を示唆する小規模な研究5)も報告されたが、両者間に有意差を認めないという研究6)やメタアナリシス7)(表2)も追従している。ただし、いずれの食事法も長期間の持続は困難であることが問題である。

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現時点のエビデンスをまとめると、どのダイエット食であれ、結局は総エネルギー摂取量を減らすのが減量に最も重要であることが科学的に示されている8,9)。その上で、アドヒアランス向上のために個人ごとに主要エネルギー源を調節すれば、一層効果的といえるだろう。


糖尿病発症・血糖コントロールに関して

まず、糖尿病発症予防に関して見ていこう。総エネルギー制限により、インスリン抵抗性を惹起するTXNIP(thioredoxin-interacting protein)が抑制されて、インスリン抵抗性が改善することが基礎実験から裏付けられている10)。

一方、女性では低炭水化物食の摂取により2型糖尿病の発症リスクが有意に低くなる(男性は有意差なし)という日本の観察研究の結果が、2015年に発表された11)。

しかし、国内外の観察研究(追跡期間6~20年間)のメタアナリシス12)(図1)では、低炭水化物食による糖尿病リスクの有意な増減は示されていない。

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2型糖尿病患者の血糖コントロールへの影響

次に、2型糖尿病患者の血糖コントロールへの影響を見てみよう。カーボカウント法は炭水化物の摂取量に応じて投与インスリン量を算出する手法であるため、炭水化物制限をすれば長期的な血糖コントロールが改善することが期待される。はたして現実はどうだろうか?

確かに、6カ月程度の短期間では、炭水化物制限食は日本人糖尿病患者のHbA1c低下に有効であることがランダム化比較試験(RCT)で示されている13)。しかし、現存するエビデンスのメタアナリシスによると、炭水化物の摂取比率が低いほどHbA1cの低下度も大きいものの、その効果は3~6カ月程度の短期間しか持続しないことが示されている14)(表3)。

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このような研究を評価する際は、交絡因子の介入、すなわち、血糖コントロールが良好になったために治療が緩和された事例もある可能性を念頭に置く必要がある。さらに実臨床においては、投与薬剤との兼ね合いも重要となる。

このメタアナリシス14)が発表された後、炭水化物制限食と総エネルギー制限食の効果を比較したRCTが、日本から報告された15)。この研究では、最初の6カ月間のRCTで炭水化物制限食(130g/日)指導を行い、その後12カ月間自己管理した群と、最初から総エネルギー制限を継続した群で、計18カ月間で血糖と体重に差があるかが検証された(表4)。

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その結果、6カ月の短期間では炭水化物制限食の方が総エネルギー制限食よりも体重管理において優れることが示唆されたが、長期的には食事療法の継続は容易でなく、両者とも長期的な血糖および体重管理に対する有効性は同等である可能性が高い。実際、炭水化物制限食群で18カ月後の摂取量は、総エネルギー、炭水化物とも介入前のレベルに戻っていた。

ここでまた注意。この研究では、両者比較の全般的・普遍的な答えは出せない。介入(食事指導)時に両群間で総エネルギー摂取量が異なっており、解析時にもそれが調整されていない。

そのため、炭水化物制限群の変化が、炭水化物摂取量の減少によるものなのか、結果として総エネルギー摂取量が減ったからなのか、交絡バイアスのために区別できないのである(第3回)。適正総エネルギー量の計算法が妥当なのか16)など、議論は尽きない。これらの内的・外的妥当性に関する限界点に気をつけよう。

本研究は、ダイエット遵守継続はやはり容易ではないことを科学的に示した点で、臨床的意義が大きいといえるだろう。

さらに、炭水化物制限食の効果が長期的に持続することを示すかのような国内報告17)も出たが、炭水化物制限食を継続した人だけを追跡した研究であり、比較対照が設定されていないのでエビデンスレベルは低く、有効性・優越性については何の結論も出せない。


妊娠糖尿病での検討は

食事療法がさらに確定していない妊娠糖尿病ではどうだろうか。一般に、妊婦を対象とした介入研究は少ない。低glycemic index食によるRCT 3件では妊娠アウトカムに有意差を認めていない(1件はインスリン導入率が低かった)。炭水化物制限食に関するRCTは1件しかないが、インスリン導入率や妊娠アウトカムに有意差を認めなかった18)。ただし、この研究でも介入後の総エネルギー摂取量が不詳であるため、炭水化物制限と総エネルギー制限の関与を区別して論じることは困難である。


長期的予後に関して

メタアナリシス19)により、低炭水化物食は死亡率増加と関連していることが示されていた。ただし、その論文にも明記されているように、解析対象は様々な理由で炭水化物摂取量が低かった人達の観察研究の結果であり、管理された炭水化物制限食による介入研究の結果ではない。そのため、因果についての確固たる結論を下すことはできない。

この論文が発表された後、国内外から追加報告がなされた。NIPPON DATA 80では女性において、低炭水化物食群の心血管疾患発症リスク、心血管疾患死亡リスクともに、有意なリスク低下を認めた20)。しかし、この研究では総エネルギー摂取量が調整されていないことに注意が必要である(前述)。

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そして2017年、高炭水化物摂取者の方が死亡率は高いという報告(PURE研究)が報告された21)(図2)。この研究は、18カ国約14万人を7年余り追跡した観察研究で、総死亡ハザード比は1.28(95%信頼区間1.12-1.46)だった。

ここでもまた注意。これも観察研究なので交絡因子残存の可能性があるため慎重に解釈し、安易な結論に走らない方がいい。先行研究と比較して対象者の炭水化物摂取割合が全般的に高いこと、各国で食事内容の定義が一律でないこと、低所得者が多く含まれている(低所得は死亡のリスクファクター)ことなどが残存バイアスとして挙げられる。

同様の報告が他にまだないため、再現性・普遍性が不明である。さらに、この著者は低炭水化物食を推奨しているのではなく、至適量は50~55%としている(50%未満では総死亡リスクとの関連性なし)。

すなわち、炭水化物摂取量は多過ぎても少な過ぎても健康上好ましくなく、くしくも日本糖尿病学会が推奨する割合16)とほぼ合致している。


国内外の診療ガイドライン

ここで、食事療法に関する国内外のガイドラインを見ておこう。まず日本糖尿病学会の推奨を示す16)。摂取エネルギー量算出法の妥当性は不明である。

・炭水化物を50~60%エネルギー、蛋白質20%エネルギー以下を目安とし、残りを脂質とする。

・BMI 22を目標として標準体重を求め、以下の式(図3)から総エネルギー摂取量を算定する。

・治療開始時のBMIによらず、一律に標準体重を目指すことは実際的とはいえない。エネルギーバランスは体重の変化に表れることから、肥満を有する糖尿病患者では、まず現体重の5%の体重減量を目指す。その後、代謝状態の改善を評価しつつ、患者個々の実効性などを考慮に入れ、適正体重の個別化を図ることが必要である。

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米国糖尿病学会では、長期的継続を図るために個人の必要エネルギーに見合った個別化を推奨している22)。また英国のガイドラインでは、「緩やかな炭水化物制限食」のエビデンスは非常に質が低いため、その推奨グレードは非常に低いとしている23)。


best available evidenceのサマリー

・食事療法においては、総エネルギーの適正化を図ってから栄養素バランスの個別化を適宜検討するのが妥当である。ただし、長期的リスクも勘案することが重要で、炭水化物摂取量は55%程度が妥当だろう。

・炭水化物制限食は半年程度の短期間であれば体重管理・血糖コントロールの点で優れていることが示されているが、長期的には糖尿病リスクも含めて他法と差がない。

・炭水化物制限食をはじめ、多くのダイエット食継続は容易でない。


【推薦図書】
スッキリわかる!臨床統計はじめの一歩 改訂版、能登洋、羊土社、2018年.

【参考文献】
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引用記事
日経メディカル
2018/7/31
by能登 洋氏(聖路加国際病院 内分泌代謝科 部長)