第1089回 単に肥満だけでは死亡リスクは高まらない!?


『代謝的に健康な肥満者は存在する。20人に1人はいる。その他の代謝リスク因子を有していなければ、死亡率が高まることはない』と米国ヨーク大学の研究チームは言っている。

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Clinical Obesity
2018/7/12
Individuals with obesity but no other metabolic risk factors are not at significantly elevated all‐cause mortality risk in men and women

代謝的に健康な肥満の死亡リスクを調査した先行研究では、代謝リスクはゼロではなく、ゼロ又は1つと定義しています。
したがって、本研究では肥満または血糖値の高進、血圧または脂質に単独又は集合的に関連する死亡リスクを同定すべく調査した。

54,089人の男女を対象とする5つのコホート研究のデータを用いて、12.8 ± 7.2 年間の追跡調査を行った。その期間に死亡者は4,862人だった。
参加者を2群、つまり、“肥満または血糖高進群”と“血圧または脂質のみ、または肥満やその他の代謝因子が一緒になっている群”とに分類した。

参加者の6%が肥満だが、その他の代謝異常はなかった。
代謝リスク因子がない一般的な肥満(HRハザード比1.10 95% CI=0.8-1.6)および腹部肥満(HR=1.24 0.9-1.7)は、リーンな参加者と比べて死亡リスクとの関連性はなかった。逆に、糖尿病、高血圧および脂質異常症を単離すると、死亡リスクと有意に関連していた(HR範囲=1.17-1.94、P <0.05)

しかし、従来のアプローチを使用する場合、他の代謝リスク因子を統計的に調整後に、肥満(HR = 1.12,1.02-1.23)は独立的に死亡リスクと関連した。
同様に、代謝的に健康な肥満は、ゼロまたは1つの危険因子として定義される場合、リーンの健康な個体と比較して死亡リスク(HR = 1.15,1.01〜1.32)は増加した。

代謝異常がない肥満は、リーンで健康な参加者と比較して、全死因死亡率の高リスクとは関連していない可能性がある。逆に、ひとつでも代謝リスク因子が増えると死亡リスクは高まる。

取りまとめると、

先行研究の見解
肥満はいくつかの代謝障害と関連している。
肥満はいくつかの危険因子を調整後、死亡リスクと関連する。
代謝的に健康な肥満(Metabolic Healthy Obesity:MHO)は、ゼロまたは1つの代謝リスク因子を有する肥満として定義される場合、死亡リスクの上昇と関連する。

本研究が反論するポイント
他の代謝リスク因子がゼロの肥満と定義されているMHOは、死亡リスクの増加と関連していない。
他の代謝リスク因子がゼロの腹部肥満と定義されているMHOは、死亡リスクの増加と関連していない。
代謝リスク因子の上昇は、肥満よりも死亡リスクとはるかに強く関連している。

マイコメント

BMIは身長と体重のバランスにより肥満度を測る方法で、欠点として筋肉量が多くて体重が重い人も肥満者と見做されますが、この研究では標準体重をBMI:18.5~24.9、過体重をBMI: 25~29.9、肥満はBMI≧30としています。体脂肪率と筋肉率は把握されていません。

著者が自ら挙げているように、代謝的に健康な肥満者の社会経済状態、メディケーション、身体活動や食事を含むライフスタイル因子など結果に影響する交絡因子が明らかになっていない。

本研究が使用しているデータは、Aerobics Center Longitudinal Study (ACLS) 、Coronary Artery Risk Development in Young Adults (CARDIA)、Multi‐Ethnic Study of Atherosclerosis (MESA) 、National Health and Nutrition Examination Survey (NHANES) III and Continuous の5つのコホート研究(観察研究)ですが、その他の先行研究をご参考までに取りまとめておきます。

 米国医師会は、2013年6月18日に開催された年次総会で、肥満を疾患と認めています…第485回 肥満を病気と認定!

 韓国の成均館大学校の研究者も代謝的に健康な肥満という概念を否定している…第662回 健康なデブは存在せず!

 ドイツのPhillips University Marburgらは、米国医師会の決定に異論を唱える研究論文を発表しています…第708回 代謝的に健康な肥満は存在する!?

更に、「肥満はインスリン抵抗性、脂質異常症、高血圧、脂肪肝と関連し、糖尿病や心血管疾患のリスク因子だが、一部の肥満者ではこれら代謝異常が生じない」と米国ワシントン大学医学部から報告されています…第812回 一部の肥満者は代謝異常なし

 因みに、Lyleは“現実的には、肥満でもインスリン抵抗性を発症していない人、逆にインスリン抵抗性でも過体重ではない人が存在する”との見方をしています。

次の3件も合併症がなければ代謝的に健康であるとの考え方をしています。

・American Journal of Epidemiology 2015 Nov 1
Is the Metabolically Healthy Obesity Phenotype an Irrelevant Artifact for Public Health?

・Obes Surg. 2015 Aug
Morbidly "Healthy" Obese Are Not Metabolically Healthy but Less Metabolically Imbalanced Than Those with Type 2 Diabetes or Dyslipidemia

・Obesity:
Preventing and Managing the Global Epidemic. World Health Organization, 2000.

Metabolically healthy obesity(健康的な肥満)という考え方は誤解を招く概念である。肥満でも健康状態が良好な場合、それは一時的なものであることが多く、時を経るにつれて状態が低下する可能性が高いことが、英国University College London研究チームによる20年間の追跡調査で明らかにされました…第813回 「肥満でも健康」は一時的な状態にしか過ぎない!

直近の研究では、米国Louisiana州立大学のDr. Brayらは、“肥満は慢性で再発性の進行性疾患であるという概念を認めることは重要である”という考え方をObesity Reviewsで示しています。

亦、Science Directに掲載されたバーミンガム大学らの研究報告によると、心血管疾患の既往歴のない英国成人350万人の電子健康記録を用いて、平均5年4ヵ月フォローアップした結果、代謝的に異常のない肥満者は代謝的に異常のない正常体重の人たちと比べて心血管疾患イベントのリスクが増加するようです。

Lancet 2018/5/30
Transition from metabolic healthy to unhealthy phenotypes and association with cardiovascular disease risk across BMI categories in 90 257 women (the Nurses' Health Study): 30 year follow-up from a prospective cohort study

この論文も代謝的に健康な肥満は依然として心血管疾患の高いリスクに関連するという結論です。
米国で30-55歳の女性看護師を対象に1976年から実施されている看護師健康研究の参加者90,257名のデータを用いて、肥満と心血管疾患の関連を検討した。
心血管疾患のリスクは、BMIに関係なく全ての代謝的に不健康な女性で特に高かった。代謝的に不健康な普通体重の女性は、健康な普通体重の女性に比べて、心血管疾患の発症リスクが約2.5倍高かったが、代謝的に健康な肥満女性でも、代謝的に健康な普通体重の女性に比べて発症リスクが1.39倍高かったという。
重要なことは、最初は代謝的に健康だった肥満女性の84%、普通体重の女性の68%が、20年後には代謝的に不健康な女性になっていたことだという。
さらに、20年後に代謝的に健康であることを維持していた肥満女性でも、代謝的に健康な普通体重の女性に比べて、心血管疾患のリスクが1.57倍高かった。