第1104回 ダイエット/リバウンドの真実 Part-2


ダイエットによる体重の減少が適応熱産生(Adaptive Thermogenesis=AT)に及ぼすインパクトはどのくらい大きいのか、また、減量後の維持期にも同様に影響するのかどうかは私たちの大きな関心事です。


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写真は、“第100回 初心者のためのウェイトマネジメント”でも紹介しましたロシアの売れっ子モデルIrina-Shaykさんです。


一般的にはRMR(安静時代謝量)はセデンタリーの人たちでTDEE(総エネルギー摂取量)の約70%です。TEA(活動性熱産生)は目安として厚労省が推奨している週150分のmoderateの運動を行っている人たちのケースで約15~30%です。従って、TEAの個人間の実際的なバラツキはもっと大きく約15~50%とみる考え方もあります。
食事をすることで生じるTEF(食事性熱産生)は約10%です。

食事制限中、或いは、食事を戻して普通に食べると鏡映現象として下記のような体内変化が起きます。このような変化が生じる理由の一つは、生存の危機から脂肪の減少率を低下させ、体を非活動化させるためであり、二つ目は再び食べたときに、脂肪が加速的に元の状態に戻るようにするためです。

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減量により代謝が落ち込むので余分な脂肪の蓄積はホントに避けられないのですか??


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Pulsford et al.の研究では、安静時代謝量は1日当たり-108kcal(48%)減少したそうです。その内FFMは-36kcalなので、真のATは-72kcal/1日ということになります。
但し、被験者は標準体重です。

Johannsen et al.の研究では、安静時代謝量は6週間で-244kcal/day減少し、30週間では-504kcalでした。
但し、被験者はBMI:49.4の重度肥満者でした。

この二つの研究には数値に大きな違いがありますが、被験者が標準体重/重度肥満者と違う点は看過できません。

Lyle McDonaldは、『自然体ライフスタイルで体重50kgの人とダイエットで減量して体重50kgの人を比べると、代謝量(消費エネルギー)は前者の方が高い』、『減量中はホルモンの影響も大きく相対的にインパクトは大きいが、減量後の維持期では影響は確かにあるが、個人差による多少の違いはあってもそんなに大きくはない。減量後の維持期に関する幾つかの研究では、安静時代謝量が5%減少している』と語っています。

James Kriegerは、『TEA/活動性熱産生効果(特にNEAT/生活活動)は日常的に総消費量に及ぼすインパクトは遥かに大きい。安静時代謝量の減少は1日当たり150kcalだったが、TEA/活動性熱産生効果は300kcalも減少し、トータルすると1日当たり400kcalを超える大きな減少が見られたという報告がある』と言っています。

非常に古い研究ですが、この研究↓がKriegerの考え方を裏付けています。
Science
1999/1/8
Levine et al.
Role of Nonexercise Activity Thermogenesis in Resistance to Fat Gain in Humans

内容骨子
ヒトの体重増加の感受性にはかなりの個体間差異がある。16名の非肥満者を被験者として「維持カロリー + 1000kcal」の食事を8週間割当てて、エネルギー貯蔵とエネルギー消費を調べた。その結果、体重は8週間で平均10.341lbs(4.691kg)増えました。各人ともに同じ1000kcal過食で体重増加のバラツキは0.36 kg (0.79 lbs)~4.23 kg (9.3 lbs) と10倍の開きがあった。BMRが5%アップした。TEFは摂取量に応じて14%アップしており、BMR/TEFでこの大きな差異を説明することは出来ない。しかし、NEAT(生活活動)の増加を調べたら平均+336kcal/日(range-98kcal ~ +692kcal)でTDEE(総エネルギー消費量)増加の3分の2を占めていたという研究内容です。

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この研究に対して、Lyle McDonaldは、Body Recompositionで、”遺伝的なものか、或いは、潜在意識的といった類の話であろう“とコメントしています。

日常的な生活活動を励行することに小生は特に異議を挟みませんが、“第281回 祖先原始人 vs 現代人のエネルギー消費量” で紹介したハンターカレッジのHerman Pontzer氏によるHadza族の研究を思い出してください。

Hadza族は、野生の植物収穫及び狩猟(肉や魚)のために長距離をトレッキングしていることから、身体活動レベルは欧米人より大きいですが、体重、体脂肪率、年齢、性別の影響について分析したところ、エネルギー消費には有意な差異がないことが分かりました。
また、GPSデバイスを使って毎日の歩行距離(km/day)と、ポータブル呼吸計測システムを使用してウオーキングコストと安静時代謝量を測定しました。
しかし、ウォーキングおよび安静時代謝コストも、Hadza族と欧米人の間で差異は認められませんでした。

この研究は、TDEEには上限がありTEA/活動性熱産生が増幅しても他の何かで相殺されることを示唆しています。

Take Home Message

体重の増減による適応熱産生(Adaptive Thermogenesis)つまり代謝の変化は生じます。そのインパクトの程度は個々のケースで大きなバラツキはありますが、減量期の消費エネルギーの低下は有意に大きいようです。基礎代謝量/安静時代謝量に関してはThreshold モデルと考えるべきでしょう…もちろん死に近づけば何人たりともSpringモデルになるでしょうが。維持期/増量期は研究が限られていますが、Levine et al. (1999)のNEATの考え方を受け入れるには無理があります。維持期/増量期の適応熱産生の変化はそれほど大きくはないと考えるのが妥当だと思います。

追記(2018/10/27):
2018/10/22付けexamin.comに適応熱産生に関する記事がありましたので追記します:
体重が減少するにつれて、ホルモンや神経伝達物質に変化が生じ、RMRは5~15%低下する。過酷で長期間のダイエットでなければ、ダイエット後に食事を元に戻すとRMRも標準化されるだろう。
Astrup et al.による1999の古い研究だが、前に肥満だった人たちと対照群を比較したら、前に肥満だった人たちの安静時代謝量は3~5%低かったことが報告されています。
このような肥満だったケースや病気といった例外を除いて極端な代謝率の事例はない。
もともと代謝の高い人たちはいるが、96%の人たちは平均の200~300kcalの範囲であろう。
更に、RMRと体重増加の関連性は十分ではないと言っています。


少し横道にそれますが、生まれつき基礎代謝が低い人は太りやすいのでしょうか?
この答えは米国の最大手病院のメイヨー・クリニック(Mayo Clinic)が答えを出してくれています。基礎代謝が低い成人と高い成人を比べた研究で有意な違いは見られず、摂取量や身体活動量の習慣的な違いが体重変動を相殺していると述べています…第978回 基礎代謝が低い人は太るってホントですか?


ダイエットの基本はエネルギー収支バランスを負(マイナス)にすることです。

私たちが1日に消費するエネルギー量は、適応熱産生(adaptive thermogenesis)、つまり、基礎代謝量(BMR)・食事性熱産生効果(TEF)・運動性熱産生効果(TEE)・非運動性活動熱産生効果(NEAT)の総和です。
簡単に言うと、現体重を維持するために必要な1日のエネルギーをAとすると、“A=基礎代謝量+食事誘導性体熱産生+運動+生活活動”になります。
つまり、
A>摂取量なら、痩せます!
A=摂取量なら、維持です!
A<摂取量なら、太ります!

ダイエットで食事量を減らし続けると、これら4つ(BMR/TEF/TEE/NEAT)は経時的に下がっていき、かつての減量カロリーは維持カロリーや体重増加カロリーに変わってしまいます。

それでは、具体的にどうしたら良いのでしょうか?

第890回 ビジネス vs ダイエットで説明したように、ダイエットにもPDCA理論は当てはまります。Plan(計画) → Do(実行) → Check(レビュー) → Action(改善)というサイクルの中で、現在のあなたの維持カロリーが適正かどうかレビューし、必要に応じて是正します。具体的には、“第427回 ダイエットの進捗管理”の「Bの項目:体重維持カロリー」のことであり、少なくとも毎月末締めで予測体重(理論値)と実測体重の差異をチェックすることで、進捗管理はより正確化していきます。この学習効果を維持期にも生かすとリバウンドは防げます。或いは、少しリバウンドしてしまっても容易に対応策を講じることが出来ます。


カロリー計算なんかしなくても糖質さえ食べなければダイエットは成功すると煽情的に喧伝されている糖質制限ダイエット、或いは、食べる順番や組み合わせダイエットなど、トータルカロリーを意識せずに知らず知らずのうちに少食にさせるシンプルなダイエットはそれなりに魅力的ですが、やがて壁に突き当たってしまいます。その大きな理由は、数値に基づいたデータがないため、レビューして改善することが出来ずに挫折してしまうリスクが大きいのです。


ダイエットは勉強と同じで毎日コツコツと一生続けなければならない??

“ダイエットは一生続けるものであるとアドバイスする人たちに問うてみたい…一生太らずにどうやって筋量アップするのかと!
人生に山あり谷あるように、私の体重も山あり谷ありです。

ダイエットの目的は、健康促進・ボディメイク・パフォーマンス向上に大別されます。健康促進を目的とする場合、毎日コツコツと地道に励行出来たら、それに越したことはないでしょう。しかし、大半の人にとって社会的/経済的な制限がある中で一生実行などできません。

また、美容目的の場合には、“第1038回 低炭水化物で究極のダイエット Part-1”、“第1039回 低炭水化物で究極のダイエット Part-2”で書いたように、実施期間は6~8サイクル(1サイクル=1週間)が推奨されています。


上述した米国アラバマ大学のKrista Casazza博士らは、米医学誌New England Journal of Medicineに “Myths, Presumptions, and Facts about Obesity” というタイトルで、「わずかなエネルギー摂取(食事)と消費(身体活動)の変化が、長期的に大きな体重の変化をもたらす」というのは神話であること、「減量努力を続けることは低体重の維持に役立つ。しかし、食事制限の減量効果は確かには大きいが、一般の人がダイエットを行う上で、長期に亘って行えるものではない」は事実であるとして発表しています。こういうことを知らないことこそ勉強できていない証です。


ダイエット実践上のその他の留意点

・個別性
18歳以上で13.6kg以上の減量に成功し、且つ1年以上の維持に成功した約10,000名を対象にして、体重、食事管理・運動習慣などの行動様式、精神的な特性、並びに減量維持の行動戦略についての調査の結果、「減量維持には "one size fits all strategy" はない」、「万能で画期的な特定戦略は存在せず、ダイエットの基本“よく体を動かすこと、体重測定を励行すること、低脂肪の食事をすること、食べ過ぎないようにする事”が成功の秘訣だといっています…第596回 減量後の体重維持

また、Acceptance-based behavioral treatment(ABT)と呼ばれる新しい認知行動療法も有効であることが報告されています…第979回 新認知行動セラピーによるダイエット効果大なり


・量的・質的に正しい食事管理/運動/肥満の相関・交絡因子

一日の摂取カロリーを1000kcal未満に抑えて減量した後の体重維持に、抗肥満薬/食事置換え/高タンパク食/運動が有効であることをスウェーデンKarolinska研究所のKari Johansson博士は報告しています…第598回 過激なカロリー制限ダイエット後の減量維持

5%以上の減量に成功した18歳以上の肥満成人7,788人を対象に、減量後の取り組み方と体重変化について長期(≥12ヶ月)に亘り追跡調査した系統的レビュー&メタ解析で、食事と身体活動に焦点を置いた行動介入が有効であること、抗肥満薬オルリスタットを併用すると一層有効であることが報告されています…第673回 肥満 vs ウェイトマネジメント


ダイエットしたいのに、ついつい食べてしまう!
どうして食欲に勝てないんだろう!
こんな悩みを解決するための基礎知識については、“第1032回 ダイエットのABC…食欲とうまく付き合うには?”で詳しく説明しているので参照してください。


関連記事
索引:ダイエット”の項目「エネルギー収支バランス(適応熱産生)」に記載しているのでご参照ください。