第1117回 ADAコンセンサスレポート2019年版…追記


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Update 2019/5/30

本邦で糖質制限の第一人者を自負するE医師が、「米国糖尿病学会のコンセンサスレポートの中でエビデンスが最も豊富であるとして、糖質制限食が一番積極的に推奨されています」とはしゃいでおられる。

根も葉もない誤報だとは言いませんが、自分勝手な解釈に基づいた誇大喧伝です。
同医師が言うような理由で単一の食事パターンを積極的に推奨する文章などありません。何故もっとバランスのとれたスマートな捉え方が出来ないのでしょうか。これでは善良なB層の人たちをミスリードしてしまう危惧が多大です。実に困った御仁です。

コンセンサスレポートには、“one-size-fits-all”、つまり、誰にでも当てはまるような三大栄養素の理想的な割合はない。身体活動を高めてトータルでエネルギー収支が欠損となるような形での個別の食事プランが基本である。先ずはエネルギー摂取量の至適化を目指し、その上で栄養素バランスの個別化を図っていくべきことが明示されています。

Low-carbohydrate eating patterns, especially very low-carbohydrate (VLC) eating patterns, have been shown to reduce A1C and the need for antihyperglycemic medications. These eating patterns are among the most studied eating patterns for type 2 diabetes.

同医師はこの英文を「糖質制限はエビデンスが最も豊富」と訳しておられるが、ここで使われている“among”は仲間・同類の中の一つを表しており、正しくは「…炭水化物を制限するこれら食事パターンは、2型糖尿病で最も研究されている食事様式のひとつです」という意味です。因みに、このレポートでは9つの食事パターンが対象となっています。

For select adults with type 2 diabetes not meeting glycemic targets or where reducing antiglycemic medications is a priority, reducing overall carbohydrate intake with low- or very low-carbohydrate eating plans is a viable approach.

血糖値の目標に到達しない、または、抗血糖薬の服用量を減らすことが優先される2型糖尿病を患う一部の成人では、低炭水化物or超低炭水化物の食事プランで炭水化物の摂取量を減らすことは実行可能なアプローチです。

Reducing overall carbohydrate intake for individuals with diabetes has demonstrated the most evidence for improving glycemia and may be applied in a variety of eating patterns that meet individual needs and preferences.

may beという英単語が使われており断定的ではありませんが、「糖尿病患者の炭水化物の摂取量を減らすと血糖値が改善することは多くのエビデンスで示されており、これは個人のニーズや嗜好に合ったさまざまな食事パターンに適用できるかも知れません」という意です。

これら三つの文章を含めて他にも低炭水化物食のメリットを謳う説明箇所もあります。
しかし、『低炭水化物食を長期に継続することは容易でなく、血糖コントロールの優位性も短期にしか持続しないこと、低炭水化物食による糖尿病予防効果も明らかになっていないこと、更に、慢性腎臓病、摂食障害、或いは妊婦に超低炭水化物の食事パターンを推奨するにはさらなる研究が必要であること』なども併せて記載されていますが、なぜか同医師はこれらには一切触れていません。


その他の情報についても正しておきます

国糖尿病学会(ADA)はエビデンスレベルをA・B・C・Eの4つに分けるグレード方式で評価しています。その内訳は“Diabetes Care 2017 Jan; 40(Supplement 1):table-1”で詳述されている通りです。
もちろん堅牢で長期間で大規模のランダム化比較試験(RCT)やシステマティックレビユー・メタ解析が最も上位にランクされますが、専門家のコンセンサスや臨床経験は“E”となっています。

他方、ADAの臨床診療勧告は、Standards of Care(標準治療)、5年ごとに更新されるPosition Statement(ポジションステイトメント)、ADA Scientific Statement(科学的ステイトメント)、Consensus Report(コンセンサスレポート)の4つに大別され,その中でコンセンサスレポートのみが「ADA’s Professional Practice Committee (PPC)/ Board of Directors」による正式なレビュープロセスを経由しないので、コンセンサスレポートはADAの立場ではなく、専門家の意見にしか過ぎないとされています。

しかし、今回のコンセンサスレポートはPart-1で説明したように、ADA’s Professional Practice Committee (PPC)によるレビューを経て、“ADA's Standards of Medical Care in Diabetes-2019”の“Living Standards of Medical Care in Diabetes”で“Position Statements:5. Lifestyle Management: Standards of Medical Care in Diabetes-2019”として、きっちりと組み入れられています。