第1123回 糖尿病 vs 身体活動/運動

一部の糖毒教過激派は排他的に糖質制限食の絶対優位性を主唱し、町の脚自慢のおじさんは“ジョギングを励行することで脂質プロファイルと血糖が全て正常になった”と言い、“高強度の筋トレで2型糖尿病が治った”という筋トレ愛好家もいます。

糖尿病と運動についての研究は当ブログでも幾つか取り上げましたが、米国糖尿病学会(ADA)は運動療法についてどのように考えているのでしょうか?

Lifestyle Management: Standards of Medical Care in Diabetes—2019(ADA)の身体活動・推奨事項を和文で紹介します。原文ではactivity(活動)/exercise(運動)/training(トレーニング)の単語を使い分けているので留意してください。

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Position Statement
American Diabetes Association
Diabetes Care 2019 Jan; 42(Supplement 1): S46-S60.
5. Lifestyle Management: Standards of Medical Care in Diabetes—2019

<身体活動>

推奨事項

5.24 1型糖尿病、2型糖尿病または糖尿病前症の小児および未成年者は、少なくとも週3日のVigorousな筋肉強化および骨強化のactivity(活動)と併せて、1日あたり60分以上のmoderateまたはvigorousな強度の有酸素的なactivity(活動)をする必要があります。(C)

5.25 1型(C)および2型(B)糖尿病の成人のほとんどは、1週間に150分以上のmoderate~vigorous強度の有酸素的なactivity(活動)を、2日以上空けずに少なくとも週3日間おこなってください。若くて健常な人には最低75分/週のvigorous強度またはインターバルトレーニングで十分です。

5.26 1型(C)および2型(B)糖尿病の成人は、連日を避けて2〜3セッション/週のレジスタンスエクササイズを行う必要があります。

5.27すべての成人、特に2型糖尿病の成人は、日々の座りがちな行動に費やす時間を減らしてください。(B)特に2型糖尿病の成人では、血糖管理の正常化ために、長時間座り続けず30分ごとに中断する必要があります。(C)

5.28糖尿病の高齢者には、週に2〜3回の柔軟性トレーニングとバランストレーニングが推奨されます。ヨガと太極拳は、柔軟性、筋力、バランスを高めるために、個人の好みに基づいて含めることができます。(C)


Physical activity(身体活動)とは、エネルギー消費を高めるすべての動きを指す一般用語であり、糖尿病管理計画の重要な部分です。エクササイズ(運動)とは、体力を改善するために体系的にデザインされた特定の身体活動です。身体活動とエクササイズ(運動)の両方が重要です。
エクササイズは血糖コントロールを改善し、心血管リスク因子を減らし、体重減少に寄与し、健康生活を改善することが示されています(133)。身体活動は一般集団と同様に1型糖尿病患者にとっても重要ですが、糖尿病合併症の予防と血糖値の管理におけるスペシフィックな役割は、2型糖尿病患者の場合ほど明確ではありません。
最近の研究では、推奨される1週間のエクササイズレベル(150分)を達成した糖尿病患者の割合は人種によって異なることが示唆されました。加速度計による客観的測定では、白人、アフリカ系アメリカ人、ヒスパニック系の44.2%、42.6%、65.1%がそれぞれ閾値を満たしていることが示されました(134)。糖尿病ケア管理チームにとって、多くの患者が推奨される治療目標を達成する難しさを理解し、目標達成を改善するための個別のアプローチを特定することが重要です。

Moderate~ハイボリュームの有酸素的な活動は、1型糖尿病と2型糖尿病の両方で、心血管系および全体的な死亡リスクを大幅に低下させます(135)。1型糖尿病の成人を対象とした最近の前向き観察研究では、慢性腎疾患のある患者とない患者の平均追跡期間11.4年後に、身体活動量が多いほど心血管死亡率が低下することが示唆されました(136)。
さらに、少なくとも8週間の運動介入で、BMIに有意な変化がなくても2型糖尿病患者のA1Cを平均0.66%低下させることが示されています(137)。また、1型糖尿病患者の定期的なエクササイズの健康上の利点(例:心血管のフィットネスの向上、筋力の向上、インスリン感受性の改善など)についてもかなりのデータがあります(138)。
最近の研究では、1型糖尿病のエクササイズトレーニングは、トリグリセリドレベル、LDL、ウエスト周囲長、体重などのいくつかの重要なマーカーも改善する可能性があることが示唆されました(139)。エクササイズ強度を高めるとA1Cとフィットネスの改善がより大きくなります(140)。
他の利点として、過体重の糖尿病患者の運動性の低下を遅らせることが挙げられます(141)。ADAのposition statement(身体活動/運動と糖尿病」では、1型および2型糖尿病の人々のエクササイズの利点に関するエビデンスをレビューし、具体的な推奨事項を提示しています(142)。


運動と子供
糖尿病または前糖尿病の子供を含め全ての子供は、定期的な身体活動をするよう奨励されるべきです。子どもは、少なくとも週3日間の筋肉と骨を強化する活動と併せて、毎日少なくとも60分間のmoderate~vigorousの有酸素的な活動を行う必要があります(143)。一般に、1型糖尿病の若者は身体的に活動的であることが有益であり、すべての人に活動的なライフスタイルが推奨されるべきです(144)。より多くの身体活動を行う1型糖尿病の若者は、健康関連の生活の質が向上する可能性があります(145)。


身体活動の頻度と種類
糖尿病患者は、定期的に有酸素運動とレジスタンスエクササイズを行う必要があります(142)。有酸素的な活動は、2型糖尿病の成人ではほぼ毎日、最低30分を目標として少なくとも10分続けることが理想的です。
エクササイズは毎日、或いは、2日以上空けないようにするのが、糖尿病の種類を問わずインスリン抵抗性を減じるために推奨されます(146,147)
活動は強度、頻度、and/or時間を漸進的に高めて、少なくとも150分/週moderate強度のエクササイズを行ってください。時速9.7kmで少なくとも25分間走ることができる成人は、短時間の活動(75分/週)で十分に効果が期待できます42)。
殆どの2型糖尿病患者を含めて多くの成人は、このような強度のエクササイズに参加することはできないか、参加したくないでしょうから、moderateなエクササイズを推奨時間やってください。糖尿病の成人は、非連日で週2〜3セッションでレジスタンスエクササイズを行う必要があります(148)。フリーウエイトやウエイトマシンを使ったよりヘビーなレジスタンストレーニングは血糖コントロールと筋力を改善する可能性がありますが(149)、筋力やバランスおよび生涯を通じての日常生活活動の能力を改善するためにあらゆる強度のレジスタンストレーニングが推奨されます。
プロバイダーとスタッフは、患者が推奨されるエクササイズ目標を達成するために段階的な目標を設定できるように支援する必要があります。

最近のエビデンスは、糖尿病患者だけでなく総ての人が、コンピューターでの作業やテレビの視聴など30分を超える座りがちな活動が続く場合は、立ち上がったりウォーキングや軽度の身体活動で中断するよう奨励されるべきであることを支持しています。長いセデンタリーの時間を避けることは、2型糖尿病リスク者の予防や糖尿病患者の血糖コントロールにも役立つでしょう。

ヨガ、太極拳、その他の多岐にわたる活動が、A1C、柔軟性、筋力、及びバランスに有意な効果をもたらします。(133,152,153)
柔軟性とバランスのエクササイズは、糖尿病の高齢者では可動域、筋力、バランスを維持するために特に重要です(142)。

身体活動と血糖コントロール
臨床試験は、レジスタンストレーニングが2型糖尿病の高齢者のA1Cを低下させ(154)、2型糖尿病の成人で有酸素運動とレジスタンスエクササイズを組み合わせることで相加的な利点がある(155)というの強いエビデンスを提供しています。
禁忌ではない場合、2型糖尿病の患者は、大筋肉群を含め5種目以上のレジスタンスエクササイズ(フリーウエイトやウエイトマシンを使用したエクササイズ)を少なくとも2週間、各セッション少なくとも1セット行うことを推奨しています。(154)

1型糖尿病の場合、一般にエクササイズは病状の改善に関連しますが、血糖管理に関して運動量の漸増には注意が必要です。1型糖尿病の人たちには、エクササイズに対するさまざまな血糖反応があります。特定の個人にエクササイズの種類と時間を推奨する場合、変動特性を考慮に入れる必要があります(138)。

特に2型糖尿病の糖尿病合併妊娠の女性、妊娠糖尿病のリスクのある女性、妊娠糖尿病を呈する女性は、既存の糖尿病、特に2型糖尿病の女性、および妊娠性糖尿病のリスクがあるか、妊娠糖尿病を呈する女性は、許容されるように妊娠前および妊娠中に定期的にmoderateな身体活動を行うことをお勧めします(142)。


運動前の評価
Section10「心血管疾患とリスク管理」でより詳細に説明されているように、糖尿病の無症候性患者の冠動脈疾患を評価するための最良のプロトコルは明らかになっていません。ADAコンセンサスレポートでは「糖尿病患者の冠動脈疾患のスクリーニング」(156)定期的なテストは推奨されないと結論付けました。

しかし、医療提供者は慎重に病歴を調べ、心血管リスク因子を評価し、糖尿病患者の冠動脈疾患の非定型的な症状に注意する必要があります。確かに、高リスクの患者は、短時間の低強度のエクササイズから始めて、許容範囲で強度と時間を漸進的に高めることが推奨されます。

プロバイダーは、コントロール不能な高血圧、未治療の増殖性網膜症、自律神経障害、末梢神経障害、足潰瘍またはシャルコー足の病歴など、特定の種類のエクササイズが禁忌されるまたは負傷しやすい状態についての評価をする必要があります。患者の年齢と以前の身体活動レベルを考慮する必要があります。プロバイダーは個人のニーズに合わせてエクササイズ療法をカスタマイズする必要があります。(138)。
合併症のある人は、エクササイズプログラムを開始する前に、より徹底した評価が必要な場合が考えれます(138)。


低血糖
インスリンand/orインスリン分泌促進薬を服用している人たちでは、投薬量または炭水化物の摂取量を変更しないと、身体活動が低血糖を引き起こす可能性があります。このような療法を行っている人たちは、ワークアウト中にインスリンの投与量を減らすことができるか、エクササイズが行われる時間、活動の強度と時間に依って、エクササイズ前の血糖値が90 mg/dL(5.0 mmol/L)未満の場合は追加的に炭水化物を摂取する必要性が考えられます。(138,142)

一部の患者では、インスリン感受性が高まってエクササイズ後の低血糖が発生し、数時間続くことがあります。インスリンやインスリン分泌促進薬で治療していない糖尿病患者では、低血糖症はあまり一般的ではなく、日常的な予防措置は通常勧められません。特にエクササイズ前の血糖値が上昇している場合、強度の高い活動で血糖値が下がらずに上がることがあります。(157)


微小血管合併症の存在下での運動
これらの長期合併症の詳細については、section11「微小血管合併症とフットケア」を参照してください。

網膜症
増殖性糖尿病性網膜症または重度の非増殖性糖尿病性網膜症が存在する場合、硝子体出血または網膜剥離を引き起こすリスクがあるため、vigorous強度の有酸素運動またはレジスタンスエクササイズは禁忌となる場合があります(158)。激しいエクササイズ療法を行う前に眼科医と相談することが適切な場合があります。


末梢神経障害
痛みの感覚が低下し、四肢の痛みの閾値が高くなると、いくつかのエクササイズの形態で皮膚の破壊、感染、シャルコー関節破壊のリスクが高まります。したがって、特に重度の神経障害のある人では、身体活動中に神経障害が運動感覚または固有受容感覚の変化が生じないように徹底的な評価を行う必要があります。

複数の研究で、適切な履物を使用している末梢神経障害のある人では、moderate強度のウォーキングが足潰瘍または再潰瘍形成のリスク増につながらないかもしれないことを示しています(159)。さらに、週150分のmoderate のエクササイズでアウトカムが改善することが報告されました(160)。末梢神経障害のある人は全員、適切な履物を着用し、足を毎日調べて病変を早期に発見する必要があります。足の怪我や開いた傷口がある人は、体重がかからない活動に制限されるべきです。


自律神経障害
自律神経障害は、運動に対する心反応性の低下、体位低血圧、体温調節障害、乳頭反応障害による夜間視力障害、および低血糖症への感受性を高めることにより、運動誘発性傷害または有害事象のリスクを高めます(161)。

心血管自律神経障害は、心血管死および無症候性心筋虚血の独立した危険因子でもあります(162)。したがって、糖尿病性自律神経障害のある人は、慣れている身体活動よりもつよう強度の身体活動を始める際は、事前に心臓の調査を受ける必要があります。


糖尿病性腎疾患
身体活動は尿中アルブミン排泄を急激に増加させる可能性があります。しかし、vigorousエクササイズが糖尿病性腎疾患の進行率を高めるというエビデンスはなく、一般的な糖尿病性腎疾患の人々に対する特定のエクササイズ制限の必要性はないようです(158)。


マイコメント
特定の個人での成功例を類推解釈して、普遍的/排他的に喧伝するのは狭量なり。
「点」のみでなく「面の展開」「線の展開」で捉えることが大事です。
そういう意味で、ADAが多くの科学的エビデンスを網羅して、栄養療法と同様に身体活動の個別化アプローチを推し進める考え方に同意します。

ご参考:
筋トレの強度は、1RMの80~85%を高強度、1RMの60%以下は低強度と言われます。有酸素運動では下表の通りです。

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