第1128回 ケトン産生食の長期的な有効性と安全性!?

糖質セイゲニストに朗報です。
2型糖尿病患者262名を対象とした2年間のアプリ遠隔医療による研究で、『低炭水化物ケトン産生食を選択したグループは、血糖値・インスリン・HbA1c・体重・血圧・トリグリセリド・肝機能および炎症の改善が見られたこと、投薬依存が減ったこと、骨密度に悪影響しなかったこと、更に、好転53.5%/寛解率17.6%だった』ことが発表されました。

keto.jpg

Frontiers in Endocrinology
2019 Jun 5
Long-Term Effects of a Novel Continuous Remote Care Intervention Including Nutritional Ketosis for the Management of Type 2 Diabetes: A 2-Year Non-randomized Clinical Trial.

By Shaminie J. Athinarayanan, Rebecca N. Adams, Sarah J. Hallberg, Amy L. McKenzie, Nasir H. Bhanpuri, Wayne W. Campbell, Jeff S. Volek, Stephen D. Phinney, and James P. McCarter

目的:
低炭水化物食による糖尿病の食事療法の長期的なサステナビリティ(持続可能性)についての研究は限られている。本研究では、生理的ケトーシスの達成および維持、延いては、体重、血糖値、脂質および肝臓マーカーの改善における、デジタルアプリを介した2年間の継続的ケア介入による効果を評価した。

設計・方法:
非盲検非ランダム化比較試験
主要評価項目:2年間での遵守率(継続性)、血糖コントロール、および体重変化
副次評価項目:体組成、肝臓、心血管、腎臓、甲状腺および炎症マーカー、糖尿病治療薬の使用および病状の変化

BMI >25 kg/m2で年齢21~65歳の2型糖尿病患者を、栄養ケトーシスを含む継続的ケア介入をしたCCI群と通常ケア群の2群に割り付けた(自己選択)。
CCI群の炭水化物の摂取量は先ずは1日30g未満とし、個人の耐糖能と健康目標に基づいて徐々に増やした。
CCI群にはアプリが割り当てられ、ヘルスコーチおよび)医療従事者(医師または看護師)による遠隔医療により、栄養ケトーシス(blood BHB level of 0.5–3.0 mmol L−1)
を達成・維持するための個別の栄養指導が行われた。
たんぱく質は1日当たり1.5g/体重1㎏を摂るよう指導された。
カロリー計算および制限はしなかった。
満腹感を得るため脂質は十分に摂るように指導された。
グルコースと体重の追跡に加えて食事の順守は血中ケトンによって監視されました
食事記録に関しては、多くの研究で示されているように過少報告による誤差が多いので収集しないことにした。

結果:
遵守率はCCI群74%(262人中198人)、通常ケア群は78%(87人中68人)だった。

CCI群ではベースラインからの平均体重減少が-10%(図4A)だったが、通常ケア群では変化は観察されなかった(補足図1C)。CCI群では74%が5%以上の体重減少を示したが、通常ケア群ではわずか14%だった。

CCI群でHbA1c の改善(0.9% unit decrease, P = 1.8 × 10−17; Figure 2A)、が認められ、通常ケア群よりも低かった。
C-ペプチド、空腹時血糖、空腹時インスリン(図2B)、外因性インスリン使用者を除くインスリン由来HOMA-IR、およびC-ペプチド由来HOMA-IRを含む関連マーカーも、CCI群で有意に減少し、通常ケア群よりも低かった(Cペプチドを除く)。

CCI群の脊椎骨密度に変化はなかった。

CCI群の血糖コントロール薬(メトホルミンを除く)の使用は、インスリン(-62%)およびスルホニル尿素(-100%)を含めて(55.7から26.8%に)減少しました。
通常ケア群では、これらのパラメーター(尿酸と陰イオンのギャップを除く)や糖尿病の薬物使用に変化はなかった。

心血管リスク因子について、
CCI群では収縮期血圧と拡張期血圧の低下が観察されたが、通常ケア群では観察されなかった。
CCI群のHDLコレステロールとLDLコレステロールはいずれも2年後にベースラインより増加したが、通常ケア群では変化は観察されなかった。
総コレステロールの変化は両群ともに観察されなかった。
通常ケア群に比べてCCI群は2年で、HDL及びLDLコレステロールは高く、トリグリセリドは低かった。
2年後の収縮期血圧、拡張期血圧、または総コレステロールに群間差は観察されなかった。

CCI群では53.5%が好転したが、通常ケア群では見られなかった。
寛解はCCI群で46名 (17.6%)、通常ケア群では2人(2.4%)だった。
完全寛解はCCI群で17名 (6.7%)、通常ケア群では0人だった。
報告された改善はすべてp <0.00012だった。

結論:
2年という長期間にわたって、CCI群では糖尿病と心血管代謝の健康マーカーに有益な効果をもたらし、薬物の使用量は減った。この介入は、骨の健康に悪影響を与えることなく、糖尿病および内臓肥満の解消にも有効だった。

マイコメント
糖質を何グラムにすべきかということから離れて、デジタルツールを介してケトーシスに注目するのは面白い考え方です。将来的に糖質セイゲニストにとって新しい指標になるかも知れませんね。

Virta Health Corpによる本研究は、米国糖尿病学会(ADA)のLifestyle Management: Standards of Medical Care in Diabetes—2019で引用されていませんが、同チームによる追跡期間1年の先行研究 “Effectiveness and safety of a novel care model for the management of type 2 diabetes at 1 year: an open-label, non-randomized, controlled study” はreferenceとして63番目に記載されています。

本研究では自己報告によるカロリー摂取量は誤差が大きいという理由でデータを収集しておらず、身体活動量についても全く触れられていないことに違和感を抱きました。この辺にバイアスが潜んでいるのではないかという疑念を抑えきれず、同クリニックのホームページをチェックしてみると、「Intermittent Fasting(断続的断食)は代謝の健康に必要なく、Virta療法ではカロリー計算やカロリー制限も患者に求めない。更に、運動も必要ない」と謳われています。
楽して痩せたいと願う女性を甘言で誘うダイエット業者の誇大宣伝のようです。

他方、米国糖尿病学会(ADA)は、『全ての糖尿病患者に有用と決定づけられる理想的な食事パターンはない。糖尿病患者にとって、どの食事パターンを選ぼうとも重要なのは総エネルギー摂取量である』という考え方を変えていません。
また、エネルギー収支バランスの項で、減量を促進する介入プログラムがエビデンス評価Aとして推奨されています。

一流医学誌に掲載された研究論文であっても実証できるエンドポイントは主要評価項目だけであり、副次評価項目は仮説を実証するものではなく示唆的なオマケにすぎません。企業がスポンサーの臨床試験では、特に論文著者の中にスポンサー企業員が含まれている場合は、情報操作(spin)で誇張されることが多々あるので、割り引いて読む必要があると言われています。
そういう意味では、本論文の著者SPとJVはVirta Health Corp(デジタルツールを用いた2型糖尿病のオンライン医療クリニック)の創設者で、SA、RA、SH、AM、NB、SP、およびJMにはストックオプションが提供されているのが気になります。

ケトン産生食でとりわけ懸念されているのは心血管疾患など長期での安全性であることは御貴承の通りですが、本研究ではこれら安全に関するマーカーは副次評価項目となっています。主要評価項目としての更なる研究が必要ではないでしょうか。





この記事へのコメント