第1129回 糖尿病診療ガイドライン2019(日本糖尿病学会)

日本糖尿病学会が “糖尿病診療ガイドライン2019” をonlineで公開しました。
江部医師・山田医師らが主唱する糖質制限を推奨していません!

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注目の食事療法は第3章です。ぜひ全文をお読みいただきたいが、茲ではその中でも我々の最大の関心事である「栄養摂取比率をどう定めるべきか?」と「炭水化物の摂取量は糖尿病の管理にどう影響するか?」を抜粋して紹介します。

Q3-4 栄養摂取比率をどう定めるべきか?

〔ステートメント〕

・糖尿病の予防・管理のための望ましいエネルギー産生栄養比率について、これを設定する明確なエビデンスはない。

・患者の身体活動量、併発症の状態、年齢、嗜好性などに応じて適宜、柔軟に対処する。

 インスリンの作用は糖代謝のみならず、脂質ならびにタンパク質代謝など多岐に及んでおり、これらは相互の密接な関連を持つことから、食事療法を実践するに当たって、エネルギー産生栄養素(炭水化物、脂質、タンパク質)のバランスは個々の病態に合わせ、高血糖のみならず、あらゆる側面からその妥当性が検証されなければならない。さらに、長期にわたる継続を可能にするためには、安全性とともにわが国の食文化あるいは患者の嗜好性に対する配慮が必須である。しかし、各栄養素についての推定必要量の規定はあっても、相互の関係に基づく適正比率を定めるための十分なエビデンスには乏しい。また、特定の栄養素が糖尿病の管理にかかわることを示すエビデンスは認められない(34)。このため、栄養素のバランスの目安は、健常人の平均摂取量に基づいて勘案してよい。日本人の食事摂取基準2020年版では、成人の基準として炭水化物50~65%エネルギー、タンパク質13~20%、脂質20~30%(飽和脂肪酸7%以下)としている。一方、糖尿病があらゆる慢性疾患の基盤病態となることから、その予防と管理からみた栄養素のバランスの在り方は、医学的見地から検討すべき課題である。すなわち、動脈硬化性疾患については脂質栄養、慢性腎臓病の最大の原因となる糖尿病腎症については食塩、タンパク質の摂取量、そして糖尿病自体の背景となる肥満症には総エネルギー摂取量の設定など、それぞれに関係する学会から推奨基準が提示されており、糖尿病の食事療法は、そのなかでいわば最大公約数的な制約を受けることになる。さらに、合併する臓器障害、年齢によって食事療法の意義は異なり、このような患者が持つ多彩な条件に基づいて、個別化を図る必要がある。
 以上のことから、2013年に出された「日本糖尿病学会の食事療法に関する提言」では、炭水化物を50~60%エネルギー、タンパク質20%エネルギー以下を目安とし、のこりを脂質とするが、脂質が25%エネルギーを超える場合は、多価不飽和脂肪酸を増やすなど、脂肪酸の構成に配慮をするとしており、一定の目安としてよい(d)。また、炭水化物摂取量にかかわらず、食物繊維は20g/日以上摂ることを推奨している。栄養素の摂取比率は、個人の嗜好性ひいては地域の食文化を反映している。食事療法を長く継続するためには、個々の食習慣を尊重しながら、柔軟な対応をしなければならない。それぞれの患者のリスクを評価し、医学的齟齬のない範囲で、食を楽しむことを最も優先させるべきである。


Q3-5 炭水化物の摂取量は糖尿病の管理にどう影響するか?

ステートメント〕

・炭水化物の摂取量と糖尿病発症のリスク、糖尿病の管理状態との関連性は確認されていない.

・純粋果糖(果物)は一定量までは糖尿病に影響を与えない.一単位程度の摂取は促してよい.ショ糖を含んだ甘味やジュースは、血糖コントロールの悪化、メタボリックシンドロームの助長を招く可能性があり、控えるべきである.

・インスリン療法中の患者にカーボカウントを指導することは、血糖コントロールに有効である.

・GI(glycemic index)に基づいた食品選択の糖尿病管理における有用性は、確認されていない.


 炭水化物の摂取量と糖尿病の発症率との関係を検討した例は少なく、両者の関係は明らかではない。最近、英国でなされたコホート研究では、炭水化物摂取量と糖尿病の発症率との関係が検討されているが、総炭水化物摂取量と糖尿病の発症率には関係がなく、果糖の過剰摂取が糖尿病のリスクをましたとしている(35)。 メタ解析の結果では、総炭水化物摂取量と糖尿病発症リスクに有意な関係を認めなかったと報告されている(36)。2型糖尿病の血糖コントロールに対して、消化性炭水化物の制限が及ぼす効果については議論がなされている。もともと、1日の炭水化物摂取量が100g以下とする炭水化物制限が、肥満の是正に有効だとする研究結果から、糖尿病治療における炭水化物制限の有用性が注目された。2008年に発表されたDIRECT研究は、脂質栄養を中心に総エネルギーを制限した群、総エネルギーを制限し、地中海食とした群、エネルギーをフリーとし、炭水化物を40%エネルギーに制限した3群を設定し、その後2年間の体重の変化を追跡したところ、脂質制限群に比較して、地中海食と炭水化物制限群で有意に体重減少効果が優っていたと報告している(37)。しかし、炭水化物制限群でも、総エネルギー摂取量は他の2群同様に低下しており、体重減少効果が総エネルギーとは無関係に、炭水化物の制限のみによると解釈は出来ない。日本人2型糖尿病を対象に、6ヵ月間30g/日の低炭水化物の効果を観察した研究でも、低炭水化物で体重、HbA1cの低下を認めたが、同時に総エネルギー摂取量が減少しており(38)、その後1年間の追跡では差異はなくなったとしている(39)。一方、同様にエネルギー制限群と炭水化物70~130g/日制限群を設定、6ヵ月間後に各パラメーターを比較すると、総エネルギー摂取量が均しく減少し、体重の変化にも両群で差異はなかったが、炭水化物制限群でHbA1cと血中中性脂肪の有意な改善を認めたとする報告もある(40)。総エネルギー量を同等として、低炭水化物食の効果をみたメタ解析では、糖尿病の有無にかかわらず、体重、代謝パラメーターに影響はなかったと報告している(41)。一方、日本人を対象とし、炭水化物摂取量と併発症発症率との関係を検討した研究では、どの併発症においても関係は認められないとした(42)。2012年に炭水化物制限の糖尿病状態に対する系統的レビューが発表されているが、現時点ではどのレベルの炭水化物制限であっても、高血糖ならびにインスリン抵抗性の改善に有効であるとする明確な根拠は見出せないと結論している(43)。その後のメタ解析では、6~12ヵ月以内に限ると、低炭水化物食によってHbA1cは改善傾向を示すが、体重減少効果は認められないとしている(44~46)。これらのメタ解析を解釈する上での問題点、対象とする研究によって炭水化物摂取量(炭水化物食の定義)が異なっていること、観察期間がまちまちで、他の栄養素、エネルギー摂取量の補正が出来ていないことなどが指摘されている(47)。これまでに報告されている低炭水化物食による体重減少効果はエネルギー摂取量の減量に伴うものと考えられる。その反面、肥満の是正を図るために総エネルギー摂取量の制限を行う上で、炭水化物を減量することの意義は検討の余地を残している。糖尿病における炭水化物の至適摂取量は、身体活動量やインスリン作用の良否によって異なり、一意に目標量を設定することは困難である。併発症や薬物療法などの制約が無ければ、柔軟な対応をしてもよい。しかし、総エネルギー摂取量を制限せずに、炭水化物のみを極端に制限することによって減量を図ることは、その効果のみならず、長期的な食事療法としての遵守性や安全性など重要な点についてこれを担保するエビデンスが不足しており、現時点では勧められない。
 一方、果糖はGIが低いことなどから、糖尿病の管理には有効と考えられる反面、過剰の摂取は、血中中性脂肪や体重の増加をきたす懸念がある。実際に果物の摂取(特にブルーベリー、ブドウ、リンゴ)は有意に糖尿病発症率を低下させるが、果物ジュースは糖尿病発症のリスクを高めたとの報告もある(48,49)。果物から換算した純粋な果糖摂取量と糖尿病状態との関係を検討した最近のメタ解析では、1日100g以内であれば、果糖摂取によって血糖、中性脂肪レベルは改善し、体重増加はきたさないとしている(50)。糖尿病では果物の摂取を勧めてよいが、適正量は病態による個別的な設定が必要である。
 GI およびGL(glycemic load)と2型糖尿病の発症リスクの関係を検討したメタ解析では、GIおよびGLの低い食材をとると、糖尿病の発症リスクが低減するとしている(51,52)。日本人においても、低GI並びに低GLの食品の摂取量が多いほど、糖尿病発症のリスクが減少したとの報告もある(53)。しかし、糖尿病の管理、糖尿病における死亡率との関係については検討例が少なく、糖尿病患者の食事療法に積極的に取り入れるべきかとどうかについては、現時点では十分な根拠があるとはいえない。





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