第1133回 低カロリー/低脂肪の食事が全米を席巻するまでのプロセス

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油・脂と言えば「体に悪そう」「太りそう」というイメージを持つ人が多いのではないしょうか?

私たちは長い間、“健康のために脂質の摂り過ぎには注意しましょう”と教えられてきました。
健康診断で中性脂肪やコレステロール値が高いと、“脂っこい食事は控えてください”と医師から注意されました。

しかし、日本動脈硬化学会は「食事で健常人のコレステロール値は変わらない」と発表し、厚労省は「食事摂取基準(平成27年版)」で、コレステロールの基準を撤廃しました。その理由は「基準を設定するのに十分な科学的根拠が得られなかった」ということです。

このような低脂肪のイデオロギーはどうして生まれたのでしょうか?
実はそのルーツは米国にあります。

<米国における低カロリー/低脂肪食の略史>

往年の銀幕スター、エバガードナー、マリリンモンロー、ジェーンマンスフィールド、ソフィアローレンの腰のくびれは女性の垂涎の的だった。
かつての米国の典型的な食事は肉を中心とした高脂肪食でしたが、スリムなボディを求める中流および上流階級の白人女性の間では、低カロリーで低脂肪食のダイエット文化は、1950年代に医師や科学者が心血管の健康を促進する前に既にしっかりと定着していた。


1940年代の米国では冠状動脈性心疾患は主たる死因だった。原因を特定し予防措置を促すべく科学者や医師による検証が鋭意行われた。その結果、Framingham studyやAncel Keys et al.による Seven Countries studyを含む多くの研究によって、「飽和脂肪酸/コレステロールの多い食事と心血管疾患の発症率に強い正相関があることが明らかにされた。


1950年代、Ancel Keys et al.は飽和脂肪酸の多い食事はコレステロール値を高め心血管疾患につながるという考え方に基づいて、低脂肪の食事パターンを提唱した。
これが今ある低脂肪食のルーツだ。


1957年、アメリカ心臓協会(AHA)は、食事性脂肪の摂取を変更して冠状動脈性心疾患の発生率を低下させることを提唱した。


1961年、William Kannel et al.による画期的な論文「冠動脈性心疾患の発症におけるリスク因子」が発表された。

同年、アメリカ心臓協会(AHA)は、最終的な証拠はそろっていないとしながらも、冠状動脈性心疾患の予防に関する報告書を発表し、リスクを減じる方法として特定の食事性脂肪の摂取量を減らすことを提唱した。


1963年、カロリー制限/飽和脂肪酸の抑制を主徴とするウェイト・ウォッチャー(Weight Watchers)が創設…女優ジェニファーハドソンが36kgの減量に成功したというダイエット法で現在はメンバー100万人と言われる。


マクガバン・レポート(USA上院栄養問題特別委員会報告書)
1960年代後半から、米国ではガン・心臓病・糖尿病・肥満などの成人病が急増し、国民の医療費が膨れ上がり米国経済に大きな打撃となった。1975年、フォード大統領は予防のための国家的大調査を実施させるべく関係分野の専門家を結集させて、上院議会に「栄養問題特別委員会(直轄諮問機関)」を設置し、委員長にGeorge McGovern上院議員を任命した。、
1977年、Dietary Goals for the United States(米国の食事目標)いわゆるマクガバン・レポートが公表され、連邦政府は低脂肪アプローチを公式に支持した。

マクガバン・レポートは、「現代医学は根本問題である栄養学を無視している。がん・心臓病・脳卒中など現代病は、肉食中心の間違った食生活がもたらした食原病であり、薬に偏った現代医学では治らない。ビタミン、ミネラルの不足が目立つ…これは典型的な若年死のデータだ」云々と述べており、現代医学と真っ向から対立した.

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日本では「各国の医師・生物学者・栄養学者など3000人を超える専門家による資料レポートを基に、2年の歳月を費やし5000ページにも及ぶ膨大なレポートが完成した」と報じられているが、これらはどうやら誇大して語られているようだ…“マクガバン・レポートの真実


1978〜1979年、米国臨床栄養士協会、AHA、および国立癌研究所は、低脂肪の推奨に同意した。


1979年には、Nathan Pritikin(1915 –1985)と息子のRobert が strict low-fat Diet & Exerciseプログラムを発表した。
Pritikinは低脂肪食で心臓病を克服したことを自負していたが、白血病だったことが死後(自殺)に明らかにされた。因みに、天敵として知られる低炭水化物の主唱者Robert Atkins(1930-2003)は、死後1年後に検視官が公表した医療報告書には「心臓発作、鬱血性心不全、高血圧症の病歴あり」と記述されていた。


1984年、国立衛生研究所(NIH)のコンセンサス開発会議は、全米医師会(AMA)及び米国心臓、肺、血液研究所(NHBLI)の支持を得て、「血中コレステロールを下げて心臓病を予防する」というコンセンサスステートメントを発表した。


1992年、USDAは簡単な絵柄のアイコンで示された食品ピラミッドをリリースした。


取りまとめると、
このようなプロセスを経て、低脂肪食は心疾患のみならず総てに良しされ、且つ、体重減少にも有効であるとして全米を席巻するに至った。そして、日本を含む先進諸国にも普及していった。米国糖尿病学会、日本糖尿病学会、厚労省が推奨する食事ガイドラインの原点でもあることは言うまでもない。


因みに、マクガバン・レポートは国家的な大調査で予防医学の原点だという好評価がある一方で、Ancel Keysによる低脂肪食の提唱や“マクガバン・レポートはEBM(Evidence-based Medicine)に非ず”と一蹴する人もいるが、当時はEBMという言葉さえ生まれていなかった。
1980年代に米国国立医学図書館によるMEDLINEのように医学情報の電子データベース化が進み、疫学・統計手法の進歩によりバイアスを排する研究デザインが開発され、治療法の選択となる根拠は「正しい方法論に基づいた観察や実験に求めるべきである」という声が上がるに至り、この主張を1990年にゴードン・グイヤットが『EBM(Evidence-based Medicine)』と名付けたのである。

それでは、それ以降に登場した研究論文を引用して、“低脂肪食のメリット?”および“科学的根拠?”について批判的な視点で精査してみたい。

次回に続く





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