第1138回 2型糖尿病は治りますか?

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2型糖尿病って治る病気だよ!
俺、何度も治せたぜ!


世の中の多くの人は自分の考え方は正しいと思っています。
違う意見には敏感で、同じ考え方の人たちといると安らぎを感じます。
これは人の常であり、別に悪いことでもないでしょう。
しかし、自信過剰になるとやがては異なる考え方の人を排斥し始めます。
自分ではフェイクバスターズのつもりが、実際はフェイクメーカーになっていることに気付かぬ人たちが其処彼処で散見されます。


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あなたが体験したことは真実です。
真実とは人それぞれの主観に基づいたもので、一つだけではなく人の数だけ存在します。
あなたの体験は、統計学でいうサンプル数n=1に過ぎず、世界的/普遍的な真実ではありません。

<客観的な事実>

米国ジョスリン糖尿病センター(世界最大の糖尿病の研究所)は、『現在では2型糖尿病は治らない。しかし、糖尿病を治すことは我々の使命であり、いつか治癒できると信じて、その治療法を見出すべく情熱を傾けている』と、現状とミッション(果たすべき使命)及びビジョン(目指す将来像)を述べています。

➡ 米国糖尿病学会(ADA)も同様で、“2型糖尿病の治療目標は、合併症の予防とQOLの維持”であり 、“ADAのミッションは、糖尿病の予防と治癒(cure)、並びに diabetics’ livesの改善”であると述べています。

日本糖尿病学会の治療ガイド2019では、『糖尿病治療の目標は、健康な人と変わらない日常生活の質(QOL)を維持し、健康な人と変わらない寿命を確保することである』と明記されています。

➡ 欧州糖尿病学会も同様の考え方です。“There isn’t a cure for diabetes right now.”と言っています。

糖尿病は遺伝子と環境要因がその発症に関与する多因子疾患であり、現行の治療方法では常に患者に再発リスクが残るので、米国糖尿病学会、日本糖尿病学会、欧州糖尿病学会いずれも“糖尿病に治癒/完治(cure)は無い”という考え方に立っています。


寛解(remission)と治癒(cure)の定義

米国糖尿病学会、日本糖尿病学会、欧州糖尿病学会のガイドラインには糖尿病の寛解(remission)と治癒(cure)の定義が明文化されていません。

一般的には、寛解は疾患の徴候や症状の軽減または消失、治癒は良好な健康状態への回復を意味し、寛解には疾患再発の可能性が包含されています。因みに、病弱な体質の人が風邪を何度ひいても再発とは言わない。

米国糖尿病学会の呼びかけで専門医が参集し、鋭意議論が行われました。そこでは寛解の定義を、Partial Remission(部分寛解:薬物療法なしに糖尿病性高血糖が無い状態が1年以上)、Completion Remission(完全寛解:薬物療法なしに血糖値が正常域の状態が1年以上)、Prolonged Remission(長期寛解:完全寛解が5年以上)とするコンセンサスが見られましたが、これは米国糖尿病学会の公式ステートメントではありません。長期寛解を治癒と見做すという意見も出ましたが結論までには至っていません…第896回 糖尿病が“良くなる”とはどういうことなのか?

英国Association of British Clinical Diabetologists (ABCD) と the Primary Care Diabetes Society (PCDS)による共同声明では、「2型糖尿病の寛解が可能であることを示す研究論文も多数出現してきている。糖尿病学会として2型糖尿病の寛解を定義することは重要である」、「HbA1cまたは空腹時血糖値の正常レベルの維持期間については議論があるが、実用的なアプローチとして6ヶ月が妥当ではないかと考える」「臨床診療では“diabetes resolved”とは言わず、”寛解” という言葉を選択的に使うべきである」ことなどを強く推奨している。…Remission of Type 2 Diabetes: A Position Statement


treatment(治療)と cure(治癒)

米国では、treatment(治療)と cure(治癒)が混同して使われている。日本も然りです。例えば、日本糖尿病学会のガイドラインでは糖尿病は治らないと言いながらも治療という言葉を使っています。治療とは読んで字のごとく病気を治すことです。因みに、大辞林には、「治る」とは病気やケガが良くなって、もとの健康な状態に戻ること、「治療」とは病気やケガを治すこと” と書かれています。
他方、大辞泉で調べてみると、“「治療」とは病気や症状を治癒あるいは軽快させるための医療行為”と書かれており、言葉の定義が整理統合されていないのが実状です。


治癒と完治

広辞苑、大辞林、大辞泉には、治癒とは病気やケガが治ること、完治とは病気やけがが完全に治ることと書かれています。小生は国語学者ではありませんが、「治る」という言葉は熟考すると非常に奥深い。

「治る」を「元の状態に戻ること」と解釈した場合、大きな怪我であれば傷痕が残るため、たとえ治療が終了したとしても治癒・完治と呼べるかどうか微妙な問題をはらむ。また、がん分野での治癒切除(curative resection)は完治ではないといった例外的なケースもあるが、基本的に「治癒」と「完治」は同義語です。

因みに、糖尿病などの慢性病で「ほとんど治った」「かなり回復した」「だいぶん良くなった」と表現する人もいる。これらは病状プロセスを表す言葉であって、治癒ではありません。部分治癒、完全治癒、長期治癒という呼び分けもありません。
Partial cure & Full cureという言葉はありますが、これはパウダーコーティング(養生)の用語です。


巷間では完治という言葉が独り歩きしている!

一例として、
約6ヶ月の糖質制限で空腹時血糖値89mg/dl、1時間後血糖値133mg/dl、2時間後血糖値99mg/dlとなり、江部医師から糖尿病完治のお言葉を頂きましたという喜びのメッセージとともに、「完治」と書かれたプラカードを掲げた患者が江部医師と並んでいる写真が投稿されています。ここで言っている完治は江部医師の判断であり、オフィシャルに認定された定義に基づく完治ではありません。


<Take Home Message>
現在の処、糖尿病の寛解(remission)および治癒・完治(cure)の定義についての公式ステートメント及び国際的なコンセンサスはありません。
巷間では、海外文献の誤訳や各人の舌先三寸で、2型糖尿病は完治する病気になったり、不治の病になったりしています。
糖尿病は遺伝子と環境要因がその発症に関与する多因子疾患であり、現行の治療方法では常に患者に再発リスクが残るので、米国糖尿病学会、日本糖尿病学会、欧州糖尿病学会はいずれも“糖尿病に治癒/完治(cure)は無い”という考え方に立っています。



余談:
「ご病気だったとお聞きしました。お体の具合は、いかがですか?」「お蔭様で治りました!」…私たちのごくごく普通の日常会話です。
寛解と言う難しい言葉はふだん使いません。
殆どの人は耳で聞いても漢字が浮かばず、漢字を見ても意味が分かりません。

医者から糖尿病と診断され治らない病気だと告げられると、「もうお先真っ暗」と落ち込む人が多く、中にはネガティブなことばかり考えて治療を疎かにする人もいるようです。糖尿病と宣告されるのが怖くて受診できなかった」という人もいるようです。

糖尿病は「治る」と言われれば誰だってありがたい。「治らない」「一病息災と考えて一生上手に付き合っていくしかない」と諦観して治療するのと、「治るんだ」と思って治療するのとでは、モチベーションに大きな違いがでてきます。

こういった事実も踏まえて、日本糖尿病学会として「糖尿病の寛解および治癒についての定義の明文化と国際的コンセンサス」並びに「がんと同様に5年以上の長期寛解を治癒と見做すことの是非」について鋭意検討することは必要ではないでしょうか。
定義は言葉の命です!












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