第1142回 新型コロナウイルス vs ビタミンD

第1141回 新型コロナウイルスとインフルエンザについての考察”で紹介したWilliam Grant et al.による新研究について、Google翻訳も質が良くなっているので全文の和訳は割愛することし、ここでは解説とコメントを思いつくがままに順不同で書きます。

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この論文では、ビタミンDは、ウイルスの複製率を低減させる抗菌ペプチドのカテリシジンとディフェンシンを誘導し、炎症性サイトカインの濃度を下げること/抗炎症性サイトカインの濃度を高めることで、呼吸器(気道)感染症のリスクを軽減すると言っています。

サイトカインストームってご存知ですか?
私たちの体にウイルスが感染して炎症が起きると、免疫系の細胞からTNF―α(腫瘍壊死因子)、インターロイキンIL-1、IL6などの生理活性物質「サイトカイン」が分泌され、体内の免疫細胞を集めて感染組織を死滅させます。
しかし、病原性の脅威に対して免疫が過剰に反応してしまうと、命を守るはずの免疫システムが暴走し、体中の健康な組織をも傷つけてしまいます。
これを『サイトカインストーム(サイトカイン放出症候群)』と言い、肺で起こった場合には、漿液や免疫細胞が気道に集中して閉塞を生じ、死亡する危険性があります。
ウイルス感染で人が死ぬとき、ウイルスは人の免疫を過剰反応させる引き金を引いているだけなのです。

つまり、体内のビタミンDレベルが低いと、新型コロナウイルスやインフルエンザの感染リスクと重症化リスクが高まりますが、ビタミンDを補給し免疫機能を正常化することで、これらのリスクの軽減が期待できるということです。

そして、インフルエンザや新型コロナウイルスのリスクがある人は、感染リスクを軽減するためには、“ビタミンD3を最初の数週間は毎日10000IU摂取して体内のビタミンレベルを急速に高め、その後毎日5000IU摂取すること“、”体内のビタミンD濃度25(OH)D を40–60 ng/mL (100–150 nmol/L) 以上にすること“を推奨しています。
さらに、新型コロナウイルスに感染した人たちの治療には、摂取量をさらに高めると有益であろうとしながらも、“これらの推奨事項を評価するには、更なる大規模集団試験などで最終評価する必要がある”と言っており、現時点では確定的ではありません。

(注)ビタミン補給の有益性について、原文では“how vitamin D supplementation might be a useful measure to reduce risk”となっており、.ニュアンスとしては「may be/might be」や「perhaps」は30~50%の可能性、「probably」「likely」は70%以上の確実性“と解するのが一般的です。

(注)“第621回 マルチビタミンサプリはお金の無駄遣い” で、栄養不足でない人がビタミン+ミネラルのサプリを摂取しても効用が無いと説明しましたが、この論文では「it is recommended that people at risk of influenza and/or COVID-19…」と記載されており、リスキーな人とは“紫外線に当たることが少ない、或いは、“ビタミンDが不十分または欠乏している人”を指していると理解して良いでしょう。

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多くの国のガイドラインでは、20 ng/mL(50 nmol/L)以上を主要な目標としていますが、もっと高い閾値の利点が幾つかのデータで示されています。

ビタミンDの摂取推奨量と望ましい体内のビタミンDレベルについて、幾つかのガイドラインを見てみましょう。

2011年、全米医学アカデミー(米国医学研究所)は、“ビタミンD/カルシウム臨床実践ガイドライン”を発行し、25(OH)D濃度を20 ng/mL (50 nmol/L)以上にするように推奨しました。因みに、これは骨の健康を主眼としたものです。
摂取推奨量は下表の通りで、無毒性量は10,000 IU未満としています。

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2012年、米国内分泌学会は、25(OH)D濃度を30 ng/mL (75 nmol/L)以上にするように推奨しています…患者用です。

米国内分泌学会.png

厚生労働省のビタミンDの食事摂取基準は下記の通りですが、25(OH)Dレベルの推奨値は明記されていません。2020 年版では、18歳以上のビタミンDの摂取目安量は男女とも5.5μg/日(220 IU)から、8.5μg/日(340 IU)に引き上げられました。

)ビタミンDの食事摂取基準2015版(厚生労働省.png


ビタミンDの欠乏については、20 ng/mL未満を”欠乏“そして21–29 ng/mlを”不十分“と考えるのが一般的で、日本内分泌学会/日本骨代謝学会は30 ng/ml以上を“充足”、30 ng/ml未満を“非充足状態”として20 ng/ml 以上30 ng/ml未満を“不足”、20 ng/ml未満を欠乏と判定しています(2017年)。

東京慈恵会医科大学附属病院では、25(OH)D濃度は30~100 ng/ml を“正常”、20以上~30 ng/ml未満を“不十分”、20 ng/ml未満を“不足”としています。

他方、ビタミンDの外因性VDT(有害性)ついては、サプリメントを過剰に摂取した場合に表れ、高カルシウム血症と関連しています。25(OH)Dの血中濃度が150 ng/mL (375 nmol/L) 以上のレベルを超えると、ビタミンDの過剰投与によるVDTの特徴となります(Front Endocrinol 2018)

ビタミンD摂取基準ガイドラインの数値にはバラツキがありますが、その中でもWilliam Grant et al.による新研究の推奨値は高いレベルとなっています。しかし、摂取量および25(OH)D濃度いずれも、全米医学アカデミーや厚生労働省のビタミンDの食事摂取基準の許容推奨量を超えますが、有害性量レベルには達していません。


これまでに重症化する人は黒人や高齢者に多いことがわかっています。

高齢者は皮膚の機能が衰えて、ビタミンDの合成能が落ちています。
加えて、降圧薬、内分泌薬、抗生物質、およびいくつかの漢方薬は、プレグナンX受容体を活性化することにより、血清25(OH)D濃度を低下させます。
医薬品の使用は通常、年齢とともに増加します。
季節要因も関係します。カテリシジンとディフェンシンは血中ビタミン濃度が低いと減少することがわかっていますが、日射量が減る冬の間は気道粘膜におけるディフェンシン分泌が減少することが報告されています。


ビタミンDの種類

ビタミンDにはD2~D7の6種類がありますが、生体に必要なのはD2とD3です。
D2はキノコ類に、D3は鮭/サンマ/イワシなどの魚類に多く含まれています。
ビタミンDの主な供給源は、太陽光(紫外線)、食事、およびサプリメントです。


ビタミンDを多く含む食品

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(注)牛のレバー、チーズ、卵黄にも少量ながらビタミンDが含まれています。キノコ類もビタミンDが含まれています。いくつかの銘柄の朝食用シリア/オレンジジュース/ヨーグルト/豆乳にも添加されています。各製品ラベルで確認できます。



日光浴
米国では、午前10時から午後3時の日光で、少なくとも週に2回、5分から30分の間、日焼け止めクリームを塗らずに、顔、手足、背中への日光浴で十分な量のビタミンDが体内で生合成されます。

日本では、真夏の正午頃に都内で露出度10%の服で直射日光に30分当たると700〜800IU(17.5~20㎍)のビタミンDが体内に生成されることが報告されています。

亦、国立環境研究所と東京家政大学の共同研究によると、日本人に最も多い肌の色スキンタイプIIIで顔と手のひらだけに紫外線を浴びた場合、10µg(400 IU)のビタミンD生成に必要な日光浴時間は7月の札幌/茨城県つくば/那覇の3拠点で、9時で各々14分/11分/16分、12時で8分/6分/5分、15時では24分/18分/10分となっており、12月の12時ではそれぞれ139分/41分/14分だそうです。
紫外線を浴びすぎるとシミやしわ、皮膚がんの原因となることから、極度に紫外線を忌諱する風潮も一部で見受けられますが、紫外線が皮膚に有害となるのは上記の約2倍から3倍の時間浴びた場合です。

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完全な曇り空の場合、紫外線エネルギーは50%低下します。日陰(深刻な大気汚染によるものも含む)の場合は60%低下します。紫外線B波はガラスを貫通しないため、屋内で窓越しに日光に当たってもビタミンDは生成されません。
SPF8以上の日焼け止め剤は紫外線を遮断するように考えられていますが、実際には、十分量を塗付していない、日光に当たる部位に塗り残しがある、定期的な塗り直しをしていない等により、日焼け止め剤で皮膚を保護している場合でも、一般的な塗り方であればビタミンD合成が行われることが多い。

日光浴により、ビタミンDの毒性が認められることは通常はありません。
というのも、紫外線に当たると、皮膚で合成されるビタミンD前駆体の濃度が(皮膚の色によるが)20分~2時間で平衡に達し、それ以上はビタミンDが生成しなくなります。
全身を太陽光に露出した場合の最大体内生成量は、1日当たり250µg (10,000 IU) です。

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独り言
日本/米国/英国を含む11ヶ国の国際共同研究(2017年)で、25(OH)D濃度が10ng/ml未満のビタミンD欠乏の被験者に、ビタミンDサプリを割り当てると70%の急性気道感染症予防効果があったこと、更に、喘息についても66%の重症化を防ぐことが確認されています。

妊婦3,327名を対象にビタミンレベルとライフスタイルとの関係を調べた研究(日本2011~2013)では、1,486人(73.2%)は血清25(OH)Dレベルが20ng / mL未満で、その内訳は4月89.8%/10月47.8%となっていた。冬以外の期間に1〜2日間15分以上の日光浴、或いは、食事でビタミンDの摂取を2μg/日増やすと血清25(OH)Dレベルが1 ng/mL高まったことが確認されています。

William Grant et al.による新研究が引用している文献も併せ見て、ビタミンDの補給が新型コロナウイルスに有益に作用する可能性はあるのではないかと私も思います。
でも、問題は摂取量の安全性です。上述したように堅牢なエビデンスがありません。

長期の糖質制限の安全性が取り沙汰される中で、心血管疾患になっても糖尿病を治したいと言う人などいる筈もないと述べたことがありますが、同様に重篤な副作用があってもビタミンD補給でウイルス感染を防ぎたいと言う人もいないでしょう。

健常な成人なら、5000~10000IUは無毒性量ゆえ、服用してみて少しでも異常(副作用症状:腹痛、発熱、発疹、かゆみ、吐き気、食欲不振、便秘:疲労感など)を感じたら直ぐに止めればよいではないかとも思えますが、ビタミンDへの感受性は各人各様ですから一概には言えません。

上述したように、欠乏していなければ効果は無いと言われていますが、欠乏しているかどうかを調べる血清25(OH)Dレベルの検査は費用も時間もかかるし、特に今はそういう状況でもありません。

纏めると、
ビタミンD補給の必要性を痛感し、どうしてもそうしたい、でも安全性が心配だと思うなら、日光浴とビタミンDが豊富で健康的な食事の励行に併せて、ビタミンD3サプリメント目安量2000 IU /日を服用するのも一策ではないかと思います。
具体的には、ビタミンD摂取目標は340 IU/日(8.5㎍/日)~4000 IU/日(100㎍/日)の範囲とし、且つ、出来る限り上限値に近づけるように心掛ける。
例えば、夏の正午に露出度10%の服で30分程度の日光浴および焼き紅サケ1切れ80gなどで、2000 IU(50㎍)程度のビタミンDが得られます。
加えて、V3サプリメントで2000 IU補充すれば、トータルで許容上限量の4000 IU/日(100㎍/日)位になります。

尚、ビタミンDサプリメントを服用する場合は、マグネシウムサプリメントの併用が勧められています。マグネシウムはビタミンDの活性化を助長するからです。目安量は250〜500 mg/日の範囲内です。

東京慈恵会医科大の研究で、小中学生にビタミンDを1日1200IU投与することで、インフルエンザ発症を4割程度予防できたとありますが、成長期の小中学生のサプリメントへの依存には特別な理由が無い限り私は反対です。
ビタミンD摂取目標を6~90㎍(240~3600 IU)/日の範囲とすると、上述の日光浴と食事で得られるビタミンD約 2000 IU(50㎍)は推奨量を十二分に満たしています。
ビタミンDサプリの効果も然ることながら、成長期にもっと大切なことは、栄養バランスの取れた健康的な食事(whole food)をすることです。

御如才なきことながら、コルチゾールはストレスホルモン/悪玉ホルモンとさえ別称され、ストレス、飲酒、過度なダイエット、運動のやり過ぎなどによって多量に分泌され、これが慢性的に高まると免疫システムが低下し、風邪やインフルエンザ、感染症などにかかりやすくなります。今の時期は特に気を付けてください。

                             


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