第1153回 BCGは新型コロナウイルスに有効なのか?

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イスラエルTel Aviv大学の研究が、May 13, 2020年5月13日付けで、医学ジャーナル四天王といわれるJAMAに掲載された。
この研究では35〜41歳の成人を対象とし、幼少期にBCGワクチン接種した成人と接種しなかった成人において、新型コロナウイルスIgG抗体の検査を実施しているが、陽性率に差は無く予防効果は認められなかった。

『BCGワクチンは結核を予防する目的で接種するが、他の感染症に対する予防効果やインフルエンザワクチンなどの特定のワクチンの免疫原性を高めるなど、非特異的な効果も分かっている。これらの効果は、T細胞が媒介する交差反応性などの適応免疫への異種作用だけでなく、自然免疫応答の増強によって部分的に媒介されると考えられている。重症例が少ないため、BCGの状態と重症度との関連性についての結論はだせていない。結論として、当研究は小児期のBCGワクチン接種が成人期のCOVID-19に対して保護効果があるという考えを支持していません』と締め括っている。

加えて、欧州で実際に起こっている事実として、BCG接種を受けていても、高齢者であればコロナ死をする確率が有意に高くなる一方、BCG接種を受けていなくても、若い人であれば死の確率は極めて低いことは “第1146回 3密ゆるゆるの日本で新型コロナ感染は終息するのか?” で詳述しているので参照願いたい。

日本ではBCG接種は1951年から始まっている。しかし、COVID-19感染者は接種した若者が多い。高齢者は感染が少なく死亡率が高くなっている。老化に伴う死亡増はBCGやCOVID-19に限ったことでない。私はBCGの可能性を否定はしません。BCG接種が感染リスクと重症化リスクを軽減すると言い張るなら、しっかりしたエビデンス(科学的根拠)を示す必要があると言ってます。

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BCGが新型コロナウイルスに効くと言う考え方は、先々月のScienceの解説記事をきっかけに巷間でいっそう高まった感がある。肯定記事の内容を見てみましょう。

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さて、“第1143回 新型コロナウイルス感染症…マイメモ” の2020/5/19アップデートでも交差免疫について触れましたが、“Trained Immunity”ってご存知ですか?
“訓練免疫”の意で、特定の対象に対して自然免疫の免疫機能が向上する事だそうです。

わたしも免疫機能について詳しくありません。
この機会に一緒に勉強しましょう!

自然免疫と獲得免疫
自然免疫とは、侵入してきた病原体や異常になった自己の細胞をいち早く感知し、それを排除する仕組みです。主に好中球やマクロファージ、樹状細胞といった食細胞が活躍します。

獲得免疫とは、感染した病原体を特異的に見分け、それを記憶することで、同じ病原体に出会った時に効果的に病原体を排除できる仕組みです。主にT細胞やB細胞といったリンパ球が活躍します。
ワクチンは、この獲得免疫の仕組みを活用し、病気を予防したり、治したりする目的で生まれました。


2020年3月23日付けのScienceに、BCGワクチンが、“新型コロナウイルスSARS-CoV-2にも効くのか”という解説記事が掲載されています。これはBCGが抗原となって獲得された免疫がSARS-CoV-2に対しても効くのかということではなく、上述した訓練自然免疫という免疫機構についての記述で、オランダを初めとしてアテネ大学/メルボルン大学/トロント大学では、呼吸器疾患に感染するリスクが高い医師や看護師、および感染した場合に重篤な病気のリスクが高い高齢者を対象として既に研究が行われているそうです。

専門学的な説明では、
最終的なメカニズムは明らかになっていませんが、「ワクチンBCGは直接IL-1βを誘導するが、これが血液幹細胞に作用してエピジェネティックスを再プログラムし、さらにIL-1βなど重要なサイトカインが出やすい体質に変え、これがウイルス抑制効果につながる可能性がある」ということだそうです。(AASJ 2020/3/26)


2020/4/30付けThe Lancet “Considering BCG vaccination to reduce the impact of COVID-19”にも、BCGは結核に対する特異的な効果のみならず、多くの感染症に対し非特異的に防御する効果を免疫系に備わせる働きがある可能性が示唆されています。

たとえば、新生児の死亡率が高いギニアビサウでの3試験のメタ解析の結果では、低体重出生児へのBCG-Denmark(BCGワクチンの1つ)接種により、生後28日間の主に肺炎や敗血症による死亡が少なかったことから、全原因新生児死亡率が38%(95% CI 17~54)低下したこと、更に、南アフリカでは12~17歳を対象とした無作為化試験でBCG-Denmark接種をすることで上気道感染症発現率がプラセボ群に比べて73%(2.1% vs 7.9%)低下したことが示されています。

これらの報告は因果関係を示すものではありません。
BCGワクチンを20年近く調べているデンマークの疫学者Christine Stabell Benn氏は、COVID-19に関する最近のBCGワクチンの検討データは裏付けの重みとしては最底辺の類のものだが、長年に渡って蓄積された裏付けによると、BCGワクチンのCOVID-19予防効果にかけてみるのは悪くないと科学ニュースThe Scientistで語っています。

しかし、世界保健機関(WHO)は「医療従事者を対象とした一連の試験結果は待ち遠しいが、無作為化試験以外で先走ってCOVID-19予防にBCGを接種してはいけない」と釘を刺しています。

あまり当てにならない最近の査読前報告を高品質な裏付けと勘違いしてBCGに群がると、すでに不足気味となっているBCGワクチンがそれを必要としている乳幼児に行き渡らなくなる恐れがあります。

実際、アフリカの一部では小児向けのワクチンが医療従事者に横流しされているとBRACE試験を率いるNigel Curtis教授は聞いており、「軽はずみにワクチンを使い始めると幼い子にツケが回る。いまあるワクチンは赤ちゃんの結核を予防するものだ」とThe Scientistで述べています。


追記:
ダイヤモンドプリンセスの患者を100人以上受け入れた藤田医科大学病院が2020/5/17付けで、BCGとCOVID-19に関する論文 “Association of BCG vaccination policy and tuberculosis burden with incidence and mortality of COVID-19” を発表しています。因果関係を示すものではないですが、湿度、肥満、人口、喫煙率、入国者数、検査数と陽性率、ロックダウンの効果、都市人口率などの交絡因子を考慮に入れた良くできた報告だと思います。更なるRCTの発表を鶴首します。



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