第387回 IGF-1 vs IGFBP


インスリン様成長因子I(IGF-1)について取り纏めてみました。

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インスリン様成長因子I(Insulin-like growth factor1:IGF-I )
IGFにはIGF-1とIGF-2と云う二つの分子種が存在する。IGF-2は初期の発生に要求される第一の成長因子であると考えられるのに対し、IGF-1の発現は後の段階で見られる。

IGF-I はインスリンと構造が良く似た70個のアミノ酸からなるペプチドホルモンで、主な作用としては、骨成長、細胞の増殖・分化、タンパク代謝などの他に、血糖降下や肝の糖取込み増などインスリン様作用がある。しかし、インスリンは糖輸送担体(GLUT4)に働くことを指令するが、IGF-1にはその様な作用は無い。
亦、IGF-1には血管拡張作用があり、不足すれば高血圧や脂質異常症、糖尿病、心臓疾患などの病気につながる。その他の作用として、アポトーシス(細胞死)抑制、創傷治癒促進、アルツハイマー病の初期サインである変性神経変性疾患の抑止などがある。

成長ホルモンには脂肪分解の作用があるがIGF-Iには無い。
IGF-Iは脳下垂体からの成長ホルモン分泌のフィードバック阻害物質であり、血中のIGF-1濃度が低下すると成長ホルモンの分泌が昂進される。因みに、テストステロンはIGF-1シグナルを鈍化し、成長ホルモンの分泌を促す。

若齢期のボディサイズと、IGF-1及びIGFBP-3の循環レベルが、乳がんなどのがんリスクの増大に関連すると云われているが、45667名の女性を対象とした調査の結果、IGF-1 及び IGFBP-1/IGFBP-3一塩基多型は、出生体重/5歳および10歳時の体脂肪/18歳時のBMIとは関連性が無い事が分かった。

IGFBP-1 及びIGFBP-3
インスリン様成長因子結合蛋白質(IGFBP)は、IGFに特異的に結合するタンパク質で、6種類の分子種からなるファミリーを形成している。

IGF-1の95% はIGFBP-3と結合し、更に糖タンパク質であるALS (acid-labile subunit)が加わり大きな複合体として血液中に存在している。
ALSはIGF-1の分解・劣化を防止し、IGFBP-3 及びALSと結合したIGF-1の複合体は血中で15時間以上存続するが、IGF-1単体では僅か10分と云われている。

IGFBP-1 はタンパク質栄養状態の悪化によって大幅に増加し、IGF-I と結合して不活性型の複合体となりIGF-I の活性低下を引き起こすと見られている。
加えて、IGFBP-1は、インスリン作用とグルコース代謝に関して、IGFBPファミリーの重要なメンバーとして浮上してきている。

IGFBP-1の生理的調節
IGFBP-1は、成人では主に肝臓、子宮内膜、卵巣に発現する。
IGFBP-1は約25kDaの分子量を有し、IGF-1やIGF -2の複合体として血漿中を循環する。
因みに、羊水の濃度は血漿に比べて100〜500倍高い。
IGFBP-1の血中循環濃度は、様々な生理学的および病理学的な刺激によって調整されている。 代謝、栄養、及び身体的要因が、IGFBP-1の血漿中濃度に関連することが示されている。
インスリンは肝臓のIGFBP-1の転写、及び血漿インスリン濃度に相互関連している血漿IGFBP-1濃度を抑制する。
グルカゴンは、インスリンレベルから単離して、IGFBP-1のより複雑な代謝調節を示唆する血漿IGFBP-1の刺激剤として作用する。
IGFBP-1レベルは炭水化物食の直後に減少する。これは増加した血漿インスリンに対する直接的な反応であるが、しかし、炭水化物を長期に亘って摂取すると、肝臓のインスリン非感受性の状態を誘発することにより、IGFBP-1レベルを増加させるかも知れないとの報告がある。
長時間運動はIGFBP-1レベルを高めるが、これは恐らくインスリン間接的な効果であろう。
IGFBP-1の発現はまた、グルココルチコイド、成長ホルモン、甲状腺ホルモン、上皮細胞成長因子、及びサイトカインによって昂進される。
血漿中IGFBP-1濃度は年齢と共に増加するが、これはおそらくどちらインスリンによる減少抑制や炎症性サイトカインによる刺激などのような他の要因に関連している可能性がある。

骨格筋の肥大とIGF-I
骨格筋の筋成長は、筋繊維に隣接して存在する筋衛星細胞が重要な役割を果たしている。
筋衛星細胞は、筋発生の過程において筋繊維として分化せずに残された静止状態の筋芽細胞と考えられている。
成熟した筋では、筋衛星細胞は運動や筋損傷のような刺激によって活性化される。
活性化された筋衛星細胞は増殖し、互いに融合して筋繊維へと分化、あるいは既存の筋繊維に取り込まれて新しい核として働くことで、筋肥大が生じる。
筋衛星細胞の活性化には、様々な成長因子が働いているが、IGF-1は重要な因子として挙げられる。
齧歯類ではIGF-1 EaとIGF-1 Eb(別名Mechano growth factor:MGF)の2種類が、人ではIGF-1 Ea、IGF-1 Eb、及びIGF-1 Ec(齧歯類のMGFに相当)の3種類がある。
IGF-1は古くはsomatomedin Cと呼ばれ、成長ホルモンの刺激によって肝臓で合成され、血液を介して様々な組織の成長を仲介する物質と考えられてきた。この血中のIGF-1の大部分はIGF-1 Eaである。その一方で、成長ホルモンやその他の刺激によってIGF-1は骨格筋を含む体の至る所の組織で産生される。
骨格筋ではIGF-1 EaとMGFの両方の発現が観察される。安静状態では専らIGF-1 Eaが発現されるが、運動刺激を加えると通常ほとんど発現していないMGFが顕著に発現量を増加させる。IGF-1 EaとMGFの違いは、C-末端領域(E領域)に52-bpの塩基挿入があるか否かの違いである。
成長ホルモンを除去した状態でも運動によってIGF-1の発現が見られることから、骨格筋のIGF-1の発現に対して運動による刺激と成長ホルモンによる刺激は異なる機構の下に調節されていると考えられている。IGF-1 splicing variantsに対する発現調節について調べた研究では、成長ホルモンに対する刺激に対して骨格筋のIGF-1 EaとMGFの発現に違いは観察されていない(Iida et al, J Physiol 560:341-349,2004)。
亦、運動によるIGF-1発現刺激に対しても、IGF-1 EaとMGFとで同様な発現調節であったことを観察している(Yamaguchi et al, Pflugers Arch 453:203-210,2006)。
このように、IGF-1 splicing variantsの発現調節に違いは認められていない。一方、IGF-1 splicing variantsの働きには違いがあることが報告されている。IGF-1のE領域は有糸分裂活性があり、in vitroの実験ではIGF-1 Eaによって筋芽細胞の増殖とその後の筋管への融合が観察されるのに対して、MGFでは筋芽細胞の増殖は見られるものの筋管へ融合しなかったことが報告されている(Yang & Gold-spink,FEBS Lett 422:156-160,2002) In vivoの実験系においても、最近、ウィルスベクターを用いてIGF-1 splicing variantsをラットの筋に導入したところ、部分的ではあるがその後の筋量増加に対して異なる効果があることが報告されている(Barton, J Appl Physiol 100:1778-1784,2006)。
今後骨格筋の肥大に関する研究が進められていく中で、IGF-1 splicing variantsの機能的な違いが明らかにされていくものと考えられる。

参照・引用文献
Medscape
British Journal of Diabetes and Vascular Disease.
2012;12(1):17-25.
Physiological Regulation of IGFBP-1

骨格筋の肥大とIGF-I splicing variantsに関する知見
By 山口明彦氏(北海道医療大学)

BMC Public Health
2012, 12:659
Genetic variability in IGF-1 and IGFBP-3 and body size in early life

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