第551回 糖質制限ダイエット vs 減量効果


糖尿病患者を被験者とした研究でも、低炭水化物食と高炭水化物食では減量効果の違いがない事が、欧州糖尿病学会で発表されました。一般的なダイエットに拡大解釈しても差支えはないと思料します。

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<背景>
糖質制限ダイエットとは、ご飯やパンなどの炭水化物を制限する減量方法ですが、一部では「お腹いっぱい食べて楽々痩せる」「お酒を呑み、お肉をいくら食べても太らない」と言う医師もおり、書籍やTVによる喧伝が拍車をかける形で、「とにかく炭水化物を摂取さえしなければ、好きなものをいくら食べてもいい」という手軽な印象が、出っ張ったお腹に悩む肥満のオジサンや、スリムで美しい姿になることに憧れている多くの女性の関心を引いています。簡単に短期間に痩せられる方法があれば、それが一番ですから、ツイツイ口車に乗ってしまうのでしょう。

<所見>
政治的・社会的にアパシー(無関心)であっても、美容や健康に関しては非常に敏感な人たちが多い。しかし、現実的にはニューメラシーを欠如しているため、玉石混交の様々な情報が飛び交う情報化社会の中で、リバウンドや挫折を繰り返すケースや、摂食障害に陥るケースが多く見られます。
ニューメラシー(numeracy)という言葉は、ラテン語numero(数字)+英語literacy(読み書き能力や情報の活用能力)の合成語で “数量的情報を処理するスキルだけでなく、情報社会において日常生活を送る上で必要な能力”を意味します。ニューメラシーを欠くと云うことは、ぶっちゃけて言うと、“知的レベルや認知能力の低い人達”を指します。

糖質制限ダイエットの優位性を立証するしっかりした科学的エビデンスはありませんが、米国糖尿病学会もステートメントの中でニューメラシーについて触れている通り、実際的には糖質制限などのダイエット方法は、ニューメラシーを欠く特定層や高齢者(Neurology)向けには合っているかも知れません。

しかし、 「第426回 食べる順番と組合せダイエット」で詳述しているように、Mr Lyle McDonaldはニューメラシーを“Ignorance is bliss(無知は至福)”と表現し、シンプルなダイエットは魅力的ではあるが、やがて壁に突き当たってしまうと指摘しています。
御貴承の通り、庶民の知恵としての諺は、知恵ある者(賢者)より知恵なき者(愚者)に対して愛着の心と救いの手を寄せます。しかし、知ること(知識)は生きることと同じように大切なことであり、限られた知恵しか持たぬ者はやがて限界に突き当たり、賢者は更に知識を深めることによって、愚者との格差が益々広がって行きます。

因みに、小生は特に糖質制限の反対論者ではありませんし、case by caseで個別性やダイエットの目的を考慮した上で、戦術の一つの選択肢として炭水化物の摂取量を抑えることには何ら異議を挟みません。しかし、強硬一途な糖質カット提唱派の科学的根拠を欠いた排他的/絶対主義的な考え方には大きな抵抗感を抱く次第です。

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<本題>
低炭水化物食グループ(20%)と低脂肪/高炭水化物食グループ(55‐60%)を比較した結果、健康関連の生活の質(QOL)については1年後に差異が認められたものの、減量効果はピークの6ヶ月の時点で両グループ間での有意差がなかったことが、2013年9月23日~27日 スペインで開催された第49回欧州糖尿病学会で、スウェーデンのT.Lindström氏から報告されました。

<引用記事:日経メディカル2013.9.25>
2型糖尿病患者で同等の減量効果が得られる低脂肪食と低炭水化物食だが、健康関連の生活の質(HRQoL)の向上という点では、低炭水化物食の方が効果があることが示された。スウェーデンのDepartment of Medical and Health SciencesのT. Lindström氏らが、9月23日からバルセロナで開催中の欧州糖尿病学会(EASD2013)で発表した。

演者らは、肥満あるいは2型糖尿病患者のHRQoLに関しては、減量の影響を調べた研究はいくつかあるものの、さまざまな食事療法の影響を比較したデータはほとんどないことから、今回の研究に着手した。低脂肪食(LFD)あるいは低炭水化物食(LCD)による食事療法を取り上げ、2型糖尿病患者に対する2年間の介入を実施、それぞれのHRQoLへの影響を比較した。

研究デザインは、前向き、無作為化試験で、61人の2型糖尿病患者を対象とした。ベースライン、6カ月、12カ月、24カ月時にSF-36質問票を用いて健康状態を把握した。エネルギー摂取量は男性で1800kcal、女性で1600kcalに設定した。LFD群は脂肪30%E、炭水化物55‐60%E、タンパク質10-15%E、LCD群は脂肪50%E、炭水化物20%E、タンパク質30%Eという内容だった。

試験の結果、ベースライン時の平均BMIは32.7±5.4kg/m2だった。減量の効果は両群間で認められ6カ月時で最大となった(LFD群:-3.99±4.1kg、LCD群:-4.31±3.6kg、それぞれP<0.001)が、群間差はなかった。12カ月時点で、身体機能、肉体的苦痛、健康全般、および活動力は、LFD群ではベースラインと比べて変化がなかったが、LCD群では改善していた。具体的には、SF-36の身体的要素スコアは、LFD群に変化がなかったのに対し、LCD群では12カ月時に46.7に上昇し(ベースライン:44.1、P<0.009)、LCD群の方が有意に改善していた(P<0.03)。心理的要素については両群とも変化は見られなかった。

これらの結果から演者らは、「体重の変化に両群間で差はなかったが、LCD群で1年後にHRQoLの改善が認められた。LFD群では減量効果は同等であったにもかかわらずHRQoLに変化はなかった」と結論。今回のデータは、「HRQoLにおいては、LFDに比べてLCDの方が好ましい方法であることを示している」とまとめた。

<その他の関連研究>

Arch Intern Med
Effects of low-carbohydrate vs low-fat diets on weight loss and cardiovascular risk factors: a meta-analysis of randomized controlled trials

メタ解析では、脂質制限食と比較して炭水化物制限食は開始後6カ月までは有意な体重減少をもたらすが、継続率は50~70%で、1年後には有意差は消失することが報告された。

Ann Intern Med
Weight and metabolic outcomes after 2 years on a low-carbohydrate versus low-fat diet: a randomized trial

平均年齢45.5歳、BMI:36.1、307名を被験者として、低炭水化物食と低脂肪食を割り当てて、1年後および2年後の体重、体組成値および骨密度を調べたがは両グループ間で差異は認められなかった。

N Engl J Med
Comparison of weight-loss diets with different compositions of fat, protein, and carbohydrates

年齢30~70歳、BMI:25~40の過体重/肥満の811名(男性40%)を被験者として、炭水化物、蛋白質、脂質の構成比率が異なる4種類の等カロリー制限食を2x2要因デザインで割り当て、半年後及び2年後の変化(主要評価項目は体重)を調べた。実験を全うしたのは645名(80%)だが、“Reduced-calorie diets result in clinically meaningful weight loss regardless of which macronutrients they emphasize” つまり、“摂取カロリーを制限すると、栄養素の構成率に拘わらず、臨床的に有意な体重の減少をもたらす“という結論を下しています。
詳細は次の通りです。

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食事パターン目標:
1. 脂質:タンパク質:炭水化物=20:15:65(低脂肪/標準タンパク食)
2. 脂質:タンパク質:炭水化物=20:25:55(低脂肪/高タンパク食)
3. 脂質:タンパク質:炭水化物=40:15:45(高脂肪/標準タンパク食)
4. 脂質:タンパク質:炭水化物=40:25:35(低脂肪/高タンパク食)

体重:
6ヶ月後の減量は平均6kg(7%)だったが、12ヶ月以降に体重が戻り始め、2年後の減量効果は各グループ間で有意差は認められなかった:
タンパク質15%食とタンパク質25%食での減量は各々-3kg/-3.6kgで類似していた。
脂質20%食と脂質40%食はいずれも-3.3kgであった。
炭水化物65%食と炭水化物35%食は各々-2.9kg/-3.4kgであった。

疾患リスク因子:
上記食事のいずれも6ヶ月および2年の時点で、心血管疾患や糖尿病の危険因子が減少した。
2年経過時点では、低脂肪/高炭水化物食は高脂肪食や低炭水化物食に比べて、LDL(悪玉コレステロール)が減少した。因みに、低脂肪と高脂肪の比較では6%:1%、高炭水化物と低炭水化物の比較では5%:1%であった。
HDL(善玉コレステロール)の増加は、炭水化物が最も少ない状態で9%、炭水化物が最も多い状態で6%であった。
中性脂肪の減少はいずれも類似しており12~17%であった。
血漿インスリン濃度は、炭水化物が最も多く含まれたケースを除いて、いずれの食事も6~12%であった。高タンパクと標準タンパクの減少率は10%:4%であった

その他の詳細は下表の通りです。

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