第558回 腹部・ヒップ・大腿部の肥満を徹底解明 Part1


男女の肥満および人体各部位への脂肪組織の分布に、性差、年齢、遺伝子、ホルモン、代謝、エピジェネティック(後成遺伝子)などの諸要因がどのように絡んでいるかについて、米国Boston薬科大学のKalypso Karastergiou博士らによる研究結果が、Biology of Sex Differencesに掲載されているのでご紹介します。

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要約
男性に典型的なリンゴ型肥満(内蔵脂肪型)は、生活習慣病との関連が強く悪性肥満と呼ばれています。一方、女性は男性に比べて体脂肪率が高く、且つ、太ももやお尻など下半身に脂肪が蓄積する洋ナシ型肥満(皮下脂肪型)が多くみられますが、女性のこのような脂肪組織の分布は、2型糖尿病やアテローム性動脈硬化症などの代謝性疾患に対する保護的な役割をしています。
これまでの研究の特色としては、男性と女性の脂肪過多(肥満)および脂肪組織の分布を調整するメカニズムを理解するために、増殖分化の異なる部位から派生した前駆脂肪細胞の容量だけでなく、脂肪組織の形態学的/代謝的特性を比較することに調査の焦点を当てています。これらエビデンスは、性ステロイド、各脂肪組織内の微小環境、および発生因子を調節する役割だけでなく、前駆脂肪細胞と脂肪細胞における本質的な細胞の自律的差異を指し示しています。
女性のお尻・太ももの脂肪組織は、単に過剰エネルギーの安全な貯蔵庫として機能、或いは代謝産物やアディポカインの分泌を介して、全身の代謝を直接的に調整しているものと考えられます。
本研究では、男女の体各部位への脂肪分布と代謝健全性との関係を簡潔に概観します。

レビュー
男性に比べて女性は体脂肪率が高く、脂肪蓄積のパターンも異なっており、比較的にヒップや太ももの脂肪組織に多く分布されている。このような女性の脂肪分布は、全体の体脂肪とは無関係に、2型糖尿病やアテローム性動脈硬化症のような代謝性疾患に対する保護の役割を担っています。

脂肪分布の性差や代謝健全性との関連についての臨床的/疫学的な文献は確立していますが、生物学的な観点から見た根っこの部分は十分に理解されていません。マウスでのマイクロアレイ分析では、脂肪組織の遺伝子発現における脂肪量と部位差は、性的二型遺伝子ネットワークによって調節されることを示しています。

炎症性遺伝子と発生遺伝子は、そのいくつかは性ステロイドによって調節されますが、部位及び性別特異的遺伝子の間で顕著です。
更に、肥満および脂肪分布、並びに肥満に関連する食事内容や身体活動といった環境要因の変化に伴う遺伝子発現の性差との相互作用を理解することは、特に重要ですが未踏査のままとなっています。

食物摂取と体重調節における性差については、優れたレビュー(Frontiers in Neuroendocrinology 2009 “Sexual differences in the control of energy homeostasis” 及び Brain Res 2010 “Metabolic impact of sex hormones on obesity”)が既に発表されているので、このレビューでは、脂肪分布における性差の生理学的および遺伝的決定要因に焦点を当てています。

白色脂肪と褐色脂肪
脂肪組織は、白色脂肪組織と褐色脂肪組織に分類されます。
白色脂肪組織の機能は、過剰なエネルギーを保存することですが、褐色脂肪の機能は熱産生です。

白色脂肪組織:
人の体脂肪の約80~90%は皮下脂肪で、大別して5つの部位に分布しています。
腕の裏側、背中(肩甲骨の真下)、腰部、腹部、下腿の上部前面です
イタリアAncona大学のSaverio Cintia氏は、白色脂肪組織は明確な形態学的/代謝学的なプロファイルを有しており、サイズと機能に性別特有の差異があると論じています。
一方、内臓脂肪は腹腔内脂肪とも呼ばれ、総脂肪の約6~20%を占め、女性より男性の方が多いとされています。消化器官と密接に関連し、血液を門脈に送り込みます。
腹壁の下と肝臓、脾臓、腸、胆嚢などの内臓周辺、更に、大網、腸を毛布のように覆う腹筋の下のエプロン状のフラップ組織にも存在します。
大網は脂肪でいっぱいになると硬く厚くなります。
その他に臓器の後ろの後腹膜(全体の7%以下)にも分布していますが、後腹膜の脂肪組織は門脈に血液を送り込まないため、"内臓脂肪組織"とは見なさないという意見もあります。

一口メモ:皮下脂肪と内臓脂肪の見分け方
内臓脂肪の測定法として、腹部周囲径・CT・MRI・BIA・腹部超音波法などがあります。
この中で一般的な方法はメジャー測定で、内臓脂肪面積100c㎡に相当する腹部周囲径が男性85cm、女性で90cmであるところから、内臓脂肪蓄積が疑われる腹部周囲径を、男性85cm・女性90cm以上としています。
もっと手軽な方法としては、あくまでも目安にすぎませんが、内臓脂肪が過剰に貯まると腹壁を押し出すようにして大きくなることから、「お腹の皮膚をつまんでみる」ことです。
お腹が張っていてつまめず、へその窪みがなくなっている人、或いは、お腹に力を入れると凹む人は、内臓脂肪を疑った方が良いでしょう。これに対し、お腹の脂肪を皮膚ごとつまめる人は、皮下脂肪が多いと考えられます。女性の場合は、どちらかといえば皮下脂肪が貯まっている場合が多いですが、年齢や個人差により両方が蓄積されている事もあるので留意が必要です。

褐色脂肪組織:
乳幼児は活動出来ないので、褐色脂肪細胞が発熱をしますが、成長と共に減少し、骨格筋の発熱を利用するようになると云われていましたが、最近では、成人になっても、主に鎖骨/背側頸部の部分に褐色脂肪組織が存在することが認識されています。
褐色脂肪量および活性化は、確かに低温ストレスによって誘発されますが、人間のエネルギーバランス調節への正確な役割は決定されていません。
代謝における性差に関して女性の方が褐色脂肪組織は多いと云う興味深いデータがありますが、この観察では女性の消費エネルギーが高くなっていないことから、この研究の有意性は明確となっていません。
褐色脂肪組織の質量と機能が、肥満の男女の感受性にどのようにかかわるか鋭意研究中ですが、現在の処では明らかになっていません。

参照記事
第384回 腹部脂肪吸引と術後のたるみ

腹部・ヒップ・大腿部の肥満を徹底解明 Part2へ続く