第559回 腹部・ヒップ・大腿部の肥満を徹底解明 Part2


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体脂肪と脂肪分布の性差
肥満指数(BMI)が同じでも、女性の体脂肪率は男性に比べて、一般的に約10%高い。
一般的に、男女共に年齢を重ねていくにつれて体脂肪率は増加しますが、女性は生涯を通じて全体的に男性よりも体脂肪率が高いのが特徴です。
性別と人種が相互作用することも明らかにされており、白人と比較してアフリカ系アメリカ人は男女ともにBMIが高く、脂肪量も同レベルです。
BMIや画像処理技術で測定して総脂肪レベルが同じでも、女性は腹部やヒップ・大腿部により多くの白色脂肪組織を有していますが、それは身体深部ではなく表在性の皮下脂肪が優先的に増えたものです。
同時に、女性は腹腔内の内臓脂肪量が少ないのが特徴ですが、その差は縮小していき高齢者では顕著な差異は一貫して見られない。
中国や南アジアのアジア系の女性は、白人女性よりも内臓脂肪量が多いですが、同民族の男性に比べると少ないです。しかし、黒人女性は男性に匹敵する内臓脂肪を持っており、同時に腹部皮下脂肪は黒人男性よりも大きい。

脂肪分布は性ステロイドによって調整される
思春期の男児の体重の増加は、主にLBMの増加によりますが、女児は体脂肪量によります。
典型的なアンドロイドとガイノイドの脂肪分布は思春期に初めて現れます。
因みに、リンゴ型肥満(内蔵脂肪型)をアンドロイド(Android)、洋ナシ型肥満(皮下脂肪型)をガノイド(Gynoid)と呼びます。
閉経後は、より一層アンドロイド型に向かって脂肪組織の再分布が行われます。ここで重要なことは、それは周閉経期の移行期間中の女性で起こる内臓脂肪で、おそらくエストロゲンレベルの低下に起因するものと思われます。
また、男性では加齢に伴ってテストステロンが低下すると、内臓脂肪は増加します。
多嚢胞性卵巣症候群の女性では、アンドロゲン過剰は往々にして、総脂肪および腹部脂肪の増加と関連します。
最後に、ステロイドで治療される性同一性障害の研究では、脂肪分布に明確なシフトが示されています。しかし、性ステロイドが “成長と代謝” 延いては “特定の脂肪部位のサイズ“ を調整する「細胞と分子のメカニズム」については明らかになっていません。

男女の総脂肪と分布の遺伝的決定要因
双子の研究では、遺伝的要因がBMIの最大70%を占め、これは性別に影響されることを示しています。
ごく稀な遺伝性症候群では、男性と女性の総脂肪に異なった影響があり、肥満における性差を理解する手がかりとなるかもしれません。
大多数のエストロゲン受容体α遺伝子多型は総脂肪と脂肪分布と関連しており、いくつかのケースではこの関係は女性に限定されています。最近のゲノムワイド関連研究(GWAS)の結果は、複雑な方法での環境変数と相互作用する共通多遺伝子肥満の遺伝的決定因子を同定したが、今のところBMIにおける個人間変動のわずかな割合を説明しているに過ぎません。
GWASとGWASのメタ解析でも中央部または末梢部の脂肪分布と関連する新規遺伝子座を同定しましたが、そのうちのいくつかは性別に特有のものです
これらの遺伝子座の5つ(RSPO3、TBX15、ITPR2、WARS2、STAB1)では、異なるmRNA発現も腹部と臀部の組織との間で注目されています。
これらのSNPの機能的相関が同定される予定ですが、魅力的な候補が沢山あります。
例えば、VEGFは、過体重や肥満で拡大する脂肪組織の血管新生に重要な役割を果たします。GRB-14は、インスリン作用を阻害します。
TFAP2Bはアディポカインの分泌と脂肪細胞のインスリン感受性、更にTBX15分化や脂質蓄積に影響を及ぼします。
KREMEN1とRSPO3のいずれも、次々に脂肪細胞の分化で基本的な役割を果たしているWntシグナル伝達経路と相互作用します。
これらの遺伝子座のウエストヒップ比への影響は、女性では1.34%のみで、男性では0.46%と更に低い。確かに、環境因子やホルモン因子による遺伝子発現のエピジェネティック調整は、脂肪分布における個々の変動や性差に有意に寄与しています。
動物実験では、生まれて早い時期に性ステロイドに暴露すると、成長してから脂肪組織の分布と機能が変わることが報告示されています。人間では、エピジェネティック調整での性差は幾つかの脂肪組織で報告されており、脂肪組織で実験することは可能です。
急性的なエクササイズ、過食、及び2型糖尿病が、エピジェネティック機序を介して骨格筋での遺伝子発現を調整することが出来、ライフスタイル因子が脂肪量と分布を調整するプログラミングてんかいと相互作用し得るというエキサイティングなシナリオが開けることを細菌の研究が示しています。

体脂肪分布の代謝上の重要性
体脂肪の分布と健康は男女ともに関連しています。
肥満と脂肪分布の性差が、全身の代謝および長期的な健康と密接に関連することが明らかになってきました。BMIは総死亡率の堅固な予測因子ですが、これに頼り切っても良いと云うには程遠い。数字上は病的肥満でも代謝的健康を維持している人や、逆に病気を発症していても肥満度は標準と云ったケースも出てくる。男女ともに末梢の脂肪分布は明らかに代謝疾患リスクの脂肪量とは関連しません。

一口メモ(BMIの問題点):
BMIは総死亡率の予測因子となりますが、米国では何年も前から、肥満度をチェックする手段としてのBMIに否定的な専門家が増えています。その理由は例えば、体脂肪率10%で食事管理も徹底し、筋肉量の多いナチュラルビルダーのAさんと、体脂肪率30%であまり体を動かさず、食べ物にも無頓着なお腹ポッコリのBさんがいたとします。AさんとBさんは、身長175cmで、体重も同じく80kgだとします。この場合どちらもBMIは26となるので、数字上では二人とも肥満と判定されてしまうからです。

臀部•太ももの脂肪分布は低代謝リスクと関連する
体脂肪分布の臨床的な重要性は、糖尿病、心血管疾患、罹患率、死亡率への「中心体部の脂肪の有害効果」と「臀部•太ももの脂肪の保護効果」を実証する複数の疫学研究によってサポートされています。身体計測値に基づいた従来の臨床試験も、末梢部脂肪分布型(洋ナシ型)は主に女性に見られることを明確に示していました。しかし、30~79歳の女性の~40%は、ウエストヒップ比>0.85で示さるように主に腹部に脂肪が蓄積します。これはいわゆる上体肥満の女性で、男性と同様の代謝性合併症につながります。
最近のレビューで、閉経前の女性は同年齢の男性と比較して、脂質プロファイル(HDLコレステロール、LDLコレステロール、VLDLコレステロール、総トリグリセリド)が良好であることが報告されています。重要なことは、脂質プロファイルの改善が空腹時及び食後のいずれにおいても見られており、性差のみが男性での内臓脂肪の優先的な蓄積に寄与しているのではないとことです。
空腹時インスリン濃度はBMIが同じ男女間では同等ですが、女性は肝臓や骨格筋のレベルで、インスリン感受性の改善を示しています。“女性は体脂肪が多いのに、代謝は改善している” という矛盾点は、生物学における性差と異なる脂肪組織部位の機能についての疑問に発展します。

腹部・ヒップ・大腿部の肥満を徹底解明 Part3へ続く