第927回 超耐久アスリート vs 糖質制限食


『“最大負荷運動時の最大脂肪燃焼率”および “VO2max64%で3時間の最大下運動時の脂肪燃焼率”は、高炭水化物食群(炭水化物486g/日)に比べて、平均20ヶ月かけてケト適応した低炭水化物食群(炭水化物82g/日)の方が2倍高かった。しかし、運動前の筋グリコーゲンレベル/運動中の筋グリコーゲン使用率/回復時の筋グリコーゲン合成率には群間差はなかった。亦、持久走中の消費カロリーにも有意な群間差はなかった。』ことが米国オハイオ州立大学の研究チームから報告ありました。チームリーダーのVolek教授は、“これはスポーツ栄養のパラダイムシフトであり、ここ40年間語られてきたカーボローディングについて再検討する必要がある”と語っています。


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Metabolism
Nov2 2015
Metabolic characteristics of keto-adapted ultra-endurance runners

背景:
成功した超耐久アスリートの多くが、高炭水化物食から低炭水化物食に切り替えている。しかし、代謝適応の程度を決定する研究はこれまで行われていない。

方法:
代謝適応を決定するために、超長距離レースのランナーやアイアンマンディスタンスのトライアスリート20名(男性、21~45歳))を被験者として、トレッドミルで最大運動テストと180分のVO2max 64%での最大下運動テストを行った。食事は高炭水化物食(炭水化物59%、タンパク質14%、脂質25%;HC群10名)又は低炭水化物食(炭水化物10%、タンパク質19%、脂質70%;LC群10名)を割り当てた。期間は9~30ヶ月で平均20ヶ月とした。試験実施前に、低炭水化物栄養または高炭水化物栄養をそれぞれ約340カロリーのシェイクで摂取した。

結果:
摂取内容はテスト前2日間の記録を取り纏めた。

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脂肪酸化のピークはLC群が2.3倍高く(LC群1.54 ± 0.18 vs HC群0.67 ± 0.14 g/分; P=0.000)、それはVO2max%が高い時に起こった(LC群VO2max 70.3 %± 6.3 vs HC群VO2max54.9 ± 7.8; P=0.000)
最大下運動時の脂肪酸化の平均はLC群では59%高く(LC群1.21 ± 0.02 vs HC群0.76 ± 0.11 g/分; P=0.000)、脂肪の相対寄与(LC群88% ± 2 vs HC群56% ± 8 P=0.000)と一致していた。
このように両群でエネルギー源の使用が著しく異なっているにも拘わらず、安静時の筋グリコーゲン、ランニング180分後(− 64% from pre-exercise)および回復120分後(− 36% from pre-exercise)の枯渇レベルに有意な群間差は認められなかった。

結論:
高炭水化物食の超耐久アスリートに比べて、低炭水化物食による長期ケト適応は非常に高い脂肪酸化率をもたらし、ランニング時およびランニング3時間後の筋グリコーゲン使用と枯渇パターンは同様であった。

解説
本論文の主筆者である米国オハイオ州立大学のVolek教授はScience Daily誌で次のように語っています:

人体がケトン食に完全に順応するには数週間以上かかることがある。従って、本研究では炭水化物を少なくとも6ヶ月(平均20ヶ月)制限してきたアスリートのみを対象とした。
このように長期的にわたり低炭水化物食にして脂肪に順応してきたアスリートを調査するのは本研究が初めてである。

二日間に亘るトレッドミルを使った実験で、短時間での高負荷トレーニングによるピーク脂肪燃焼と長時間運動時の代謝特性を調べた。
1日目は、最大酸素消費量とピーク脂肪燃焼率を測定した。
2日目は、最大酸素摂取量の64%の強度で3時間走った。
持久走中の酸素消費量/自覚的運動強度/消費カロリーに有意な群間差はなかった。
しかし、最大負荷運動時の平均ピーク脂肪燃焼率は低炭水化物食群(毎分1.5g)の方が高炭水化物食群(毎分0.67g)より2.3倍高かった。
長時間運動時の脂肪燃焼率も低炭水化物食の方が2倍高く、運動中の脂肪の平均寄与度は低炭水化物食88%で高炭水化物食は56%だった。

筋グリコーゲンがアスリートの重要なエネルギー源であることが発見された1960年代以降、高炭水化物食は激しい運動時に必要なエネルギー源として重要視されてきた。しかし、食事で炭水化物が制限された時でさえも、人体にはグリコーゲンレベルをサポートするエレガントなシステムが備わっている。
脂肪(ケトジェニック)に適応する青写真は生まれつき遺伝子コードに備わっているが、炭水化物を中心とするいわゆる伝統的な健康食が、代替の代謝系が起動しない様にしている。炭水化物を制限することでプログラムが再起動し、多くのアスリートの健康とパフォーマンスのレベル改善が可能となる。

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