第1057回 糖尿病境界型→2型糖尿病を予防する食事パターン


境界型糖尿病とも呼ばれる耐糖能異常(IGT: impaired glucose tolerance)の人たちの2型糖尿病発症の予防の一助として、低脂肪ダイエット/糖質制限ダイエット/地中海ダイエットなど様々な食事パターンや食品の効果の違いについての研究報告が英国King’s College Londonから発表されました。

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第1046回 糖尿病の発症原因”で説明したように、糖尿病の原因が肥満/インスリン抵抗性、β細胞量の減少、或いはβ細胞の機能障害か明確に同定されていないことを考慮に入れて読んでください。

Nutrients
6 September 2018
Dietary Interventions for the Prevention of Type 2 Diabetes in High-Risk Groups: Current State of Evidence and Future Research Needs

論文タイトル
高リスク群のT2D予防のための食事介入:エビデンスの現状把握と更なる研究の必要性

アブストラクト

耐糖能異常の人たちの2型糖尿病(T2D)予防に生活習慣の改善が有効であることは、一連の大規模なランダム化比較試験により示されている。これらの試験では、被験者は低脂肪の食事をし、ほどほどの減量をし、身体活動量を増やしている。

体重減少は2型糖尿病リスクの減少の主要な動因(要因)であり、個々の食事構成の役割はマイナーのようだ。 2型糖尿病の発症に関して、低炭水化物食・地中海食・断続的な断食・超低カロリー食など、他の食事方法による減量効果は試験されていない。
しかし、これら食事パターンも低脂肪食と同程度に有効の可能性はある。

食品や食事がβ細胞に及ぼす影響を理解することも必要である。先行研究による有用エビデンスは、ほどほどの減量でインスリン感受性は改善するが、β細胞の機能は改善されないことを示唆している。

最後に、糖尿病前症は病態生理が異なる複数の状態を示す包括的な用語である。中等度の体重減少が、糖尿病前症の各サブタイプにおいて2型糖尿病を予防するのに有効であるかどうかという疑問を解くにはデータが不足している。


介入研究名

・The Finnish Diabetes Prevention Study (FDPS) (2)
・U.S. Diabetes Prevention Program (DPP) (3)
・The Da-Qing Impaired Glucose Tolerance and Diabetes Study (4)
・Japanese Diabetes Prevention Trial (5)
・Indian Diabetes Prevention Study (6)


イントロ

介入試験の期間は3~6年で、この期間中にT2D症例の2/3まで予防することが出来た。しかし、試験終了後15年の追跡期間中に、糖尿病の発症はライフスタイルの介入によって27%減少したが(hazard ratio 0·73, 95% CI 0·65–0·83; p<0·0001)、ライフスタイル介入群の15年間の累積発症率は55%であった[8]。これには、「減量が不十分」、「リバウンド」、或いは、「介入によるベータ細胞機能への効果の欠如」や「前糖尿病サブタイプによる応答の違い」など、いくつかの理由が考えられる。


低炭水化物ダイエット

メタ解析のデータによれば、低炭水化物ダイエット(定義は定かではないが一般的には30% 未満)は、少なくとも減量の促進においては低脂肪食と同等である[12,13]。重要なことは、試験での脱落率が35-50%ほどであり[13,14]、参加者が試験を完遂できるかどうかの重要な要因は、飽きずにライフスタイルの変化に遵守できるかどうかである。

低炭水化物食は理論的には減量だけでなくT2Dの発症の予防に役立つのではないかという側面もある。糖毒性は、“超生理学的なグルコース濃度への慢性的な曝露によって引き起こされる生理学的に不可逆性のβ細胞の損傷”と定義されている[15]。
実験的に高濃度のグルコース(11mmol / L)に曝露されたヒト膵島は、インスリン生合成の低下、グルコース濃度の上昇に応答するインスリン分泌の減少、および低グルコースでのインスリン分泌の増加率を示し、これらは総て前糖尿病状態におけるin vivoでのインスリン分泌の特徴である[16]。

これらの影響のいくつかは暴露時間に応じて逆転させることができる[17]。これらの実験では高血糖への曝露は連続的に行われており、日々のin vivo血糖プロファイルの特徴を反映しないことには注意しておく必要がある。しかし、軽度の前糖尿病患者では、血中グルコース濃度が食後の長時間にわたって7.8mmol/Lを超えてとどまる可能性はある[18,19]。

一般的な1日3食にすると、1日の半分以上を食後または吸収後の状態で過ごすことになり得るということも観察されている[20]。炭水化物を8%未満に制限する厳しい低炭水化物食で、非T2Dの人たちの食後のグルコース濃度を急速に低下させることができる[21]。

従って、更なる試験は必要ではあるが、耐糖能異常(IGT)人たちの食後血糖値を低下させる食事介入は、β細胞機能を保護することを介して2型糖尿病を予防するのに特に有効であると考えられる。しかし、有意に食後血糖値を低下させることができる炭水化物制限の程度は決定されていない。

理論的には低炭水化物食はインスリン分泌反応を減じることでβ細胞を保護することができるとも言えよう。 β細胞の枯渇は、頻繁かつ長期に亘る高血糖症状の発現が誘因となって、コンスタントなインスリン分泌が必要となることで生じることが提示されている[16]。
連続的な高血糖に暴露されたヒト膵島では、インスリン分泌を阻害するためのジアゾキシドの使用は、高血糖に起因する膵島の損傷を防止するのに役立ち、インスリンの合成能と分泌能を保持する[22]。

他方では、ヒトを対象とした短期の先行データは、高脂肪食(=低炭水化物食)はβ細胞機能を損なう可能性があることを示唆している[23]。
T2D予防に対するベータ細胞機能の重要性を考えると、早急に研究されるべきであり、長期の追跡データが必要である。

異所性脂肪は、BMIよりもT2Dとより強く関連しており、インスリン抵抗性およびベータ細胞機能不全の発症または悪化に関わっている可能性がある[25]。低炭水化物食は異所脂肪の蓄積低下を助長するかもしれないと主張されているが、エビデンスは明らかになっていない。炭水化物を30g /日未満に制限すると、体重が減少しなくとも肝内トリグリセリドを低下させるようではあるが、高タンパク質によるのか[26,27]、脂質の種類が追加的にかかわっているのか[28]明らかになっていない。


超低カロリー食(VLED)

VLEDの定義は1日あたり800kcal未満である。 VLEDは他の食事パターンよりも一貫して大きな体重減少をもたらし[40,41]、また、従来の考え方とは異なり、急激な体重減少は体重の再増加(いわゆるリバウンド)の可能性を高めない[40,41,42]。
5年間のフォローアップでは、超低カロリーの食事は中程度のカロリー制限食よりも減量維持の点で優れている [42]。減量幅を大きくし[9]、それを維持することは[43] 、T2Dリスク軽減の主たる動因(要因)である。

さらに、試験期間が異なる一連の生理学的研究が、“VLEDは、肝臓および末梢インスリン感受性の改善および第1相インスリン応答の回復を介して、T2D患者の血糖値を正常にし得る”ことを示している[44,45,46,47,48,49,50]。
体重減少の「量と率」は、グルコース低下効果の独立因子のようだ:1000 kcal/日と比べて400 kcal/日で12%の減量した人たちでは、血糖コントロールとインスリン感受性が優れていた[49]。7日間の400 kcal /日では、体重減少は無視できる程度であるがT2D患者のβ細胞機能は回復する[45]。

このことは、“肥満手術では有意な体重減少の前に血糖コントロールの改善が起こる”という知見と一致する。前糖尿病患者は、すでに肝臓や末梢でインスリン抵抗性を起こして、β細胞機能が損なわれており(51)、これらのタイプの介入から同様の恩恵を受ける可能性が高い[52]。

“フィンランド糖尿病予防研究”には、生活習慣介入の一環としてVLEDが含まれているが[53]、参加者が体重目標を達成できなかった場合にのみに用いられた。したがって、VLED型アプローチは、T2D予防において試験されていない。


その他の食事パターンや食べ物がインスリン抵抗性やβ細胞機能の改善に及ぼす影響などについての詳述は割愛しますが、一覧表にまとめると次の通りです

尚、実線は「エビデンスあり」、破線---は「幾つかのエビデンスはあるが不十分」、点線…は「可能性あり」を意味します。

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