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zoom RSS 第1112回 炭水化物(糖質)と脂肪についての論争

<<   作成日時 : 2018/11/30 19:54  

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こちらで取り上げた研究論文は、初心者の方にも分かるように簡単に説明すると、『目標体重まで減量出来ても、殆どの人が1〜2年でリバウンドしている。体重が減るとエネルギー消費が低下することはよく知られた現象だが、食事の栄養構成がこの適応熱産生(adaptive thermogenesis)にどのように影響するかはよくわかっていなかった。しかし、今回の研究で炭水化物の摂取量を少なくするほどエネルギー消費量が高まることが分かった。故に、ダイエットで達成できた減量体重を維持するには、低炭水化物ダイエットがおススメである』という内容です。

“どんなに頑張ってダイエットに挑戦してもリバウンドばかり”と嘆くあなたにはとても魅力的なメッセージですが、この論文には専門家から多くの否定的なコメントが寄せられています。とても難しい内容になりますが、大事なことなので一読の価値はあると思います。

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<Strengths and limitations of this study>

私はこの論争には中庸な考え方であり、バイアスの無いreasonableな設定条件で真実が究明されることを切望しています。読者のみなさんにも公平な判断をしていただきたく、研究論文フルテキストで述べられているEbbeling & Ludwigの考え方を補足説明しておきたいと思います。

この研究は、“多量栄養素の変化に対する一時的な代謝適応による混乱を避けるために十分な介入期間を設けている”、“総エネルギー消費量の測定にゴールドスタンダードと言われる二重標識水法を用いている”、“たんぱく質の摂取量を一定にし、且つ、体重の増減を制御して、総エネルギー消費に対する他の潜在的に重大な影響による交絡を最小化している”といった点が特色である。
しかし、潜在的な測定誤差、遵守性の問題、一般化可能性という3つのlimitationがある。

測定誤差の問題

二重標識水法による総エネルギー消費量の測定に、呼吸商の代用として食物商を用いているが、一般的に体重維持期には有効である(28)。食物商を用いることによる潜在的な誤差は、総エネルギー消費量の約1%の変化にしか過ぎない。

二重標識水法は何十年にも亘って栄養研究に広く使われている手法だが、最近では“多量栄養素の比率が異なる食事を比較する場合にはバイアスの危惧がある”という新たな問題提起が一部の研究者からなされている。この考え方によれば、高炭水化物食でDNLが昂進するとジュウテリウム(重水素)がトラップされ、その結果として総エネルギー消費量はwhole room calorimetry(メタボリックチャンバー)による測定値よりも低値となる。しかし、これは観察的パイロット研究の事後分析にすぎない(71)

成長期のブタを用いた実験では、炭水化物の比率が90%の極端な高炭水化物食で1日当たり0.65kgまで増加している。このような特殊例では有意な測定誤差が生じることもあろう。しかし、ヒトを対象とした研究では、炭水化物75%の維持カロリー食で肝臓のDNL率は低かった(73,74)また、炭水化物を50%過剰摂取しても肝臓でのDNLは1日当たり5g未満であった(75)

脂肪組織でDNLがmoderateに生じることが幾つかの研究で示されているが(76,77)、食事組成の違いによる影響は明らかになっていない。
実際には脂肪細胞でのDNLは炭水化物の増減に反応しにくい(78,79)。高炭水化物であっても大量摂取でなければ、体重安定期(8081)や減量後(82)の脂肪遺伝子発現や脂肪合成活性に影響しないであろう(83,84)

さらに、二重標識水法は適応熱生成を過小評価しがちなメタボリックチャンバーよりも正確であることが報告されており(85)、体重維持期の二重標識法による測定バイアスを云々するのは非常に推測的であり意味があるとは思えない。

(注)メタボリックチャンバーでは日常の生活活動によるエネルギー消費量を知ることはできない。

非遵守性と一般化可能性

これらについての説明は割愛しますが、研究結果の妥当性/堅牢性にシリアスなインパクトを与えるものではないと研究者は考えている。


<Obesity Week 2018>

2018年11月16日にテネシー州ナッシュビルで開催された肥満に関する世界最大の会議“Obesity Week”で、Ludwigは当該論文を発表し、「低炭水化物/高脂肪食の順応プロセスは少なくとも2〜3週間を要するが、Kevin Hallが解析した先行研究の試験期間は短期(almost>2週間)であり有効性を欠く」と強調している。
同会議のシンポジウムの場では、Hallはこの点については触れずに、二重標識水による測定について、「二重標識法はゴールデンスタンダードではあるが、Ludwigの研究ではトレース目的で水素と酸素が一般的ではない同位体に置換えられていること」、「二重標識水では、食事の組成、エネルギーの不均衡、これら相互作用に基づいて呼吸商を慎重に推計する必要があること」、さらに、「DNLによる重水素同位体の減少を介して約30〜60kcal/日の差異が生じるべく、低炭水化物食に有利な結果を導くバイアスがあること」を指摘し、最後に「二重標識水による消費量の違いは、エネルギー摂取量と体組成の変化に応じた測定値によって裏付けされる必要がある」と反論している。

これに対し、Ludwigはいくつかの技術的ポイントについて反論し、「Hallの主張は推事後分析に基づいており、30年以上に亘って様々な食事条件で使用されてきたゴールデンスタンダードたる二重標識法を攻撃するデータとしては不十分である」と断言し、「維持カロリーにおける食事組成が二重標識水法の精度に及ぼすバイアスは極めて推測的であり意味をなさない」と結論づけている。

他方、「Ludwigの研究には幾つかのlimitationがある…答えは遺伝学にあるかも知れない」、また、「今、医者として患者からどのダイエットがベストなのかと聞かれれば、どんなダイエットであれ、あなたが続けられると思うダイエットがベストであると答える」といった意見も上がった。

シンポジウムの議長Dr Apovianは、「様々な意見が交わされている現状下、臨床的に実施するには更なる研究が必要である。各人が健康促進のために何を食べるべきかについては未だ答えは出ていない」とMedscape Medical Newsに語っている。


<BMJコメント欄>

2018/11/20
Kahleova et al.の コメントが、“How to make a low-carbohydrate diet look good, even when it’s not…低炭水化物ダイエットをたとえそうでなくてもどうやって良く見せるか” という注意を引く見出しで掲載されています。その要旨は次の通りです。

BMJに掲載されたEbbeling/Ludwig et al.による論文 “低炭水化物食が減量維持期のエネルギー消費へ及ぼす影響” は、低炭水化物食が減量維持期のエネルギー消費を高めることを示唆している。残念なことに、この研究には幾つかの方法論的な問題があり、それらに立脚した解釈で導かれた結論は正当化しかねる。

第一に、研究の主目的は、炭水化物の量がエネルギー消費に優位な影響を及ぼすかどうかを調べることであり、このためには炭水化物の質を一定に保つ必要がある。

これは、総炭水化物に対する食物繊維の相対的貢献を標準化することによって容易に達成され得る。しかし、著者は炭水化物の量だけでなく、炭水化物の質も変化させていた。

もっと具体的に指摘すると、GIは炭水化物の含有量が増加するにつれて増加している(GI = 30 low、GI = 46 moderate、GI = 49 high)。換言すると、炭水化物の量が多いほど、炭水化物の品質は悪くなっている(Table 1)。これはまた、高炭水化物群における血清トリグリセリドの増加によっても反映されており(Fig 5)、炭水化物の質の悪さを示すもう一つの指標でもある。炭水化物の量と一緒に炭水化物の品質を変えることで研究目的の探求に重大な交絡をもたらしている。…

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もう一つの重大な交絡要因は、被験者の体重減少がベースラインの体重の2kg以内になるようにエネルギー摂取量を定期的に調整する際に、被験者のカロリー摂取量を繰り返し操作していることです。
この研究では、炭水化物の代謝作用を明確化することを第一義に考えたと主張しているが、カロリー摂取量の変化がこの知見と有意に交絡している可能性がある。

低炭水化物食群の “total physical activity”と” moderate〜vigorous強度のphysical activity” が僅かながらも高いことを研究者は認めながらも、詳細な報告がなされていない点も気になる。
各群間のエネルギー消費の差を説明するに当たって、運動の違いは少なくとも重要な因子のひとつであり看過できるものではない。

さらに、研究者らは体組成について報告していないので、低炭水化物食は、Hallの先行研究(2)で示されているように、体タンパク質の利用が高まることによってエネルギー消費が増加した可能性がある。

取りまとめると、この研究結果の現実性は疑わしい。低炭水化物食への長期的な遵守性はかなり低いこと示されているし(3)、さらに、これらのダイエットは、特に少なくとも12ヶ月の試験期間で示された他の研究(4)に比較して、ウェイトマネジメント上の利点は示されていない。

炭水化物を制限するより脂肪を制限する方が減量には有効であり(5)、低炭水化物食事は全死因死亡率(6)、心臓血管およびがん死亡率(7)、および2型糖尿病のリスク(8)が高いので、低炭水化物食はこれら諸点に十分な注意を払うことなく(9)減量や体重維持に推奨することはできない。


<LudwigとHallの論争はBMJコメント欄で展開されている>

Hallのコメント

炭水化物の摂取比率が総エネルギー消費量(TEE)又は体脂肪に顕著に影響するかどうかの問題は何十年にも亘って検討されてきたが、殆どの研究で臨床的に有意な影響は認められなかった(1)。しかし、Ebbeling et al.の最近の研究で、炭水化物の比率を変えると総エネルギー消費量(TEE)に大きな差異が生じることが報告された(2)

Ebbeling et al.が事前登録したオリジナルの統計解析プランでは、主要アウトカムはpre-weight lossベースラインと比べて減量体重の維持期におけるTEE減少が炭水化物の摂取量に依存するかどうかという問題への取り組みであった。

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しかしながら、最終的な解析プランはpre-weight lossベースラインではなく、pre-weight loss直後のTEE測定値に修正されている。
オリジナルの解析プランで再解析すると、食事パターンの違いによるTEEの有意差は認められず、インスリン分泌が多かった被験者においてもTEEの有意差は消え失せていることを挙げて、明らかにバイアスが交絡している可能性を指摘している。

Ludwigがこれに答えて、TEE測定のアンカーポイントの是非についての持論を展開している。この論争はこの先も続くだろう故、ここでの詳細説明は割愛することにして、追って必要あれば取りまとめることと致したい。


マイコメント:
交絡因子をミニマイズするために体重を一定に管理して、エネルギー消費量を調べる手法に異議はない。だからと言って、体重の変化が全く見えてこないように設定することもあるまい。逆に、CIM(炭水化物−インスリンモデル)の理念は肥満の防止であり、体重の増減を無視して良いわけがない。
体重の推移に関するサポートデータがないにもかかわらず、主筆者Ebbelingはプレスリリースで、低炭水化物ダイエットを3年間続けると摂取カロリーを落とさなくても20ポンド(約9kg)程度の体重減少につながると言っており理解しがたい。
pre-weight lossフェーズのベースラインで体重および体脂肪など体組成値やTEEを測定した上で、3群の半数に等カロリー食を割り当て体重の増減をトレースし、このデータをも突き合せれば更に精度の高いアウトカムが得られたのではないだろうか。
いずれにせよ、索引“人気ダイエットの比較”をご覧になれば、多くのシステマティックレビュー/メタ解析で低炭水化物ダイエットに優越性は無いことが示されており、これを覆すにはEbbeling et al.の当該研究は十分ではありません。

Ludwig & Ebbelingは最近FB4と呼ばれる新たな臨床試験を開始したそうだ。この試験では、125名の肥満者を宿泊施設に収容し、超低炭水化物食、高炭水化物/低sugar食、高炭水化物/高sugar食を割り当てており、その結果は2021年に発表予定とのことです。“たすきに短し”の研究はno more thanksです。これまでに指摘された諸点を踏まえ、バイアスの無いreasonable な設定条件での研究であって欲しい。






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